「ウツボのパエリア」
©2023 In-yo / Keita Takayanagi, Hiroshi Ishikawa All Rights reserved
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伊勢志摩とスペインの融合「ウツボのパエリア」から始まる海洋の持続可能性

日本の食習慣の変革に挑む漁師・石川隆将へインタビュー

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インタビュアー:東谷彰子
翻訳:青木弦矢

※本記事は、「Unlock The Real Japanに2023年3月27日付けで掲載された「A balanced dietを翻訳、加筆・修正を行い、転載。

私たちが食べるものは、環境に大きな影響を与える可能性がある。例えば、ウツボだ。ウナギ目ウツボ科に属する海水魚で、細長く円筒状の体をした海水魚である。東京では珍しい食材だが、四国や和歌山県、三重県などでは郷土料理として振る舞われることも多い。

三重県東部の伊勢志摩地方から日本の食習慣の変革に挑む漁師・石川隆将は、このウツボの良さを日本全国に紹介し、伊勢エビに匹敵するような食材に変えるプロジェクトを立ち上げた。この活動が、温暖化した海域に生息する生きものたちを救うかもしれない。一体どんなプロジェクトなのか、話を聞いた。

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三重県東部の伊勢志摩地方で漁師をする石川隆将は、気候変動の影響を目の当たりにしている。地元の水産養殖研究所と協力して、石川は近年、沖合で漁をする海域の水温上昇を追跡してきた。その結果、驚くべきことが分かった。2020年1月から2023年1月までのデータによると、この地域の平均海水温は約3度上昇。この温暖化した海域は、そこをすみかとする生物に壊滅的な打撃を与える可能性があるというのだ。

伊勢志摩を代表する海の幸といえば、伊勢エビである。伊勢エビは、水中でマダコやウツボと共生関係を築いている。ウツボはマダコを捕食し、マダコは伊勢エビを好物とするという三角関係を形成していたが、この微妙なバランスが今、危機に瀕している。近年の海水温の上昇により、ウツボが増え、マダコが激減した結果、ウツボが伊勢エビを食べ始めたのだ。

「海女さん(貝や海藻を採集する女性のダイバー)が岩場でアワビを採っている時にウツボに手をかまれたという話を、3~4年前から聞くようになりました」と石川は言う。「ウツボが漁師さんの網を破って伊勢エビを食べたという話も聞きました」。

ウツボを伊勢エビに匹敵する名産品へ

気候変動にともない人間の食生活も変化すると考えた石川は、ウツボを伊勢エビに匹敵する名産品に変えることで、ウツボの数を利用して戦うプロジェクトを立ち上げた。

東京を拠点に活動するドットフレーム代表取締役のプロデューサー・映像作家の高柳景多と、フォトグラファーの石川寛によるアーティストユニット陰陽がプロジェクトに参加。ウツボを日本全国に紹介するとともに、ウツボの良さ、海のバランスを取り戻すために、自分たちが食べるものを持続可能な方法で選択する重要性を消費者に伝えていく予定だ。「ワクワクしながら、この課題を乗り越えていきましょう」と、石川は話す。

石川は伊勢志摩出身だが、社会人になったばかりの2002年に東京へ出て、大手企業でアジア全域の冷凍食品を開発した。9年後、父親の経営する冷凍食品卸売業を継ぐため帰郷。伊勢志摩に戻り、日本の地方が抱える課題、特に少子高齢化、産業構造の変化に気付いたという。

大手流通業での経験が地元の現状の課題解決に役立つと考え、地元の水産業を支援することを決意。2020年に家業を拡大し、伊勢志摩エリアの漁業のPRと伝統の継承を目的に、地元で獲れた魚介類の販売に取り組み始めた。

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ウツボと米を組み合わせた珠玉のパエリアが誕生

高柳はEAT to KNOW」プロジェクトを立ち上げ、ホスピタリティ企業のトランジットジェネラルオフィスとともに、ウツボ料理が味わえる場を東京で展開。トランジットジェネラルオフィスは、全国に115店舗以上の飲食店を展開していて、食を通じて都市に地球環境問題を奨励する「ファーマーユー(Farmer ⇄ You)」プロジェクトにも取り組んでいる。

ウツボはスペインでも食べられていることから、トランジットジェネラルオフィスは、バルセロナに旗艦店を持つスペインのブランドである、渋谷のレストランチリンギート エスクリバ」に、ウツボを使った新しい料理を提供することにした。

チリンギート エスクリバのシェフたちは、ウツボと米を組み合わせて素晴らしいパエリアを作り上げ、期待を裏切らなかった。「地元では、ウツボを揚げることしか考えていませんでしたが、東京ではそれをおいしく、スタイリッシュに仕上げてくれました」と石川は語る。

スペインではウツボはよく食べられている。しかし、パエリアにはあまり登場しない。東京でのスタートを機に、ウツボを食す文化のあるバルセロナの店舗でメニューインを視野に入れる予定だ。

ウツボはウナギと似ているが、頭部から腹部にかけて3本、へそから尾にかけて5本の骨があるという独特の体内構造を持っている。エスクリバのスタッフによると、さばく時にはどうしても骨が残ってしまうそうだが、それを逆手に取って、客がパエリアの中に骨を見つけたら、飲み物を1杯サービスするキャンペーンも計画中だ。

また、ウツボは皮膚の弾力性を保つコラーゲンが生物の中で最も多く含まれており、今後はこうした特徴も生かしていくという。

「未利用の魚を食べることから始めましょう」

「ウツボの普及は食の幅を広げるためのきっかけに過ぎない」と石川は考える。豊洲市場では80種類ほどの魚しか売られていないが、日本の漁師は4000種類もの魚を水揚げしている。今後も未利用魚の楽しさを伝え、都内の食卓の定番にしていきたいと抱負を語る。

また、魚に特化したYouTubeチャンネルを立ち上げ、みんなが知らない魚料理を広めていくことも考えているそう。「都市の市場で流通している魚のみをり続けるだけでは、海洋生物は枯渇してしまうでしょう。これまで利用されていなかった魚を食べることから始めてみてください。それが、世界が直面する課題に関わることでもあるのです」。

 その変化は、あなたの食卓から始めることができるのだ。

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