三重県東部の伊勢志摩地方で漁師をする石川隆将は、気候変動の影響を目の当たりにしている。地元の水産養殖研究所と協力して、石川は近年、沖合で漁をする海域の水温上昇を追跡してきた。その結果、驚くべきことが分かった。2020年1月から2023年1月までのデータによると、この地域の平均海水温は約3度上昇。この温暖化した海域は、そこをすみかとする生物に壊滅的な打撃を与える可能性があるというのだ。
伊勢志摩を代表する海の幸といえば、伊勢エビである。伊勢エビは、水中でマダコやウツボと共生関係を築いている。ウツボはマダコを捕食し、マダコは伊勢エビを好物とするという三角関係を形成していたが、この微妙なバランスが今、危機に瀕している。近年の海水温の上昇により、ウツボが増え、マダコが激減した結果、ウツボが伊勢エビを食べ始めたのだ。
「海女さん(貝や海藻を採集する女性のダイバー)が岩場でアワビを採っている時にウツボに手をかまれたという話を、3~4年前から聞くようになりました」と石川は言う。「ウツボが漁師さんの網を破って伊勢エビを食べたという話も聞きました」。