2025年4月13日(日)から開幕する「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」。この一大イベントの大きな魅力の一つは、184日間絶え間なく開催される多彩なイベントの数々にある。毎日訪れたとしても、常に発見と驚きの連続で、決して飽きることはないだろう。
催事としては大きく3つに分類され、開会式などの「公式行事」、博覧会協会主導の「主催者催事」、企業・団体・自治体などが関わる「一般参加催事」で構成されている。ここでは、それら全ての催事を統括する催事企画プロデューサーである小橋賢児に、特に主催者催事の魅力と期待すべきこと、そしてそこに込められた思いを聞いた。
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ー万博の催事コンセプトである「その一歩が、未来を動かす。」にはどのような意味が込められているのでしょうか?
小橋(以下同): このコンセプトは、元宇宙飛行士の毛利衛さんの著書の中にある「多様な環境の中で命が紡がれてきたのは、個の挑戦が、個の一歩があってこそ」という言葉からインスピレーションを得ました。この混沌(こんとん)とした時代だからこそ、一人一人の一歩が重要であり、そこから未来がよりよく前進し、命が紡がれていくかもしれない。そういう思いを込めています。
ー主催者催事のコンセプト「地球共感覚」とは何ですか?
「その一歩が、未来を動かす。」というコンセプトを打ち出したからには、我々主催者としても挑戦すべきですよね。そう思って出てきたのが「地球共感覚」でした。これは造語なのですが、人と地球、全てのものとつながっている感覚のことです。
日本人は昔から、自然と共生する文化を持っていました。例えば「森羅万象」という言葉がありますが、これは全ての存在がつながっているという考え方を表しています。ですが共感覚は、日本人のみならず、地球上の全ての生命体に共通するものだと考えています。
精神的な要素が強く、言葉としては遠さを感じてしまうかもしれませんが、もうそういう時代に進んでいるなと思うんです。
例えば「イマーシブ」という言葉を最近よく耳にしますよね。イマーシブとは「没入する」という意味で、いわゆる今までの、外側にある演出とお客さんが切り離された世界ではなく、その演出と一体となるというものです。
チームラボの「アートの中に入り込む」ことだったり、僕が今まで作ってきた花火・レーザー・3Dサウンドなどから成る没入型エンターテインメント「STAR ISLAND」だったり、そういうものが当たり前になってきています。
Photo: Kisa Toyoshima 小橋賢児
地球がつながるプラットフォーム
ー「地球共感覚」を具現化する催事は、どのようなものがありますか?
主要な催事の一つが「One World,One Planet.」です。これは184日間毎日実施されます。同時刻に、万博会場全体が一つの生き物のようになり、お客さんも音楽も光も一体になるというものでするというものです。そして、世界中の人たちがその同時刻に何かを願う。物理的には離れていても、みんなの思いが一つになる瞬間を作り出します。
ーなぜ「願い」を集めるのでしょうか?
今の社会の中で、何も願わずに盲目的に生きてしまっていることって多いのではないでしょうか。あるいは、他者のルールや評価基準に当てはめて、「こうあらなければならない」と考えて生きている人も多く見受けられます。
そうではなく、自分の内側から出る本当の願いと見つめ合ってもらいたい。そのきっかけになってほしいんです。
同時に世界中の他者の願いも見ることができる。その中で、こんな私の願いなんて誰とも共有できるわけがないとか思っていたら、自分と同じ願いを持っていた誰かが世界中にいることを知るかもしれない。
そんなポジティブな願いがどんどん集まって、人の思いが強くなっていけば、夢物語かもしれませんが、良い未来に変わっていくんじゃないのかなと。目には見えないけれど、願いを集めることが現実を変えていく力になると思っています。
ー「One World One Planet.」の意義はどこにあるのでしょうか?
基本的に万博は、世界中の人や企業などが参画して初めて成り立つものです。なので、この催事はさまざまな企業や団体、個人が参加できるプラットフォームとして活用する予定です。例えば、今日は宇宙とつながってみて、地球から宇宙に願いを届けようとか、今日は日本中の祭りとつながろうとか、この願いが大きくなっていけばいくほど、集まれば集まるほど、可能性が広がっていく。
会期後も、みんなの思いによって変化して、何かを一緒に作り上げていくような――。万博を一つのきっかけとして、ほかの場でもムーブメントが起きていく。そんな状態を作り出したいんです。
画像提供:2025年日本国際博覧会協会
超時空・超身体音楽体験を演出
ーテクノロジーを活用した主催者催事はありますか?
「Physical Twin Symphony」という企画があります。ここでは、人間が身体・脳・空間・時間の制約から解放された新しいライブパフォーマンスを提供します。例えば、アーティストが実際にその場にいなくても、テクノロジーを介して演奏することができる、などです。
それは、すでに地球上に存在しない人も例外ではありません。仮にマイケル・ジャクソンでお話しすると、アーティストが目の前に必ず存在しなければいけないっていう今までの定義ではなく、違う形で存在してもよくて。あるいは、テクノロジーを介して遠隔で演奏して、目の前には違うフィジカルな存在がいてもいいんです。
または、障がいのある人がテクノロジーの力を借りて、自在に演奏できるようになるかもしれません。そんな新しい可能性を感じさせるステージになる予定です。
ほかにも、万博サウナ「太陽のつぼみ」を設置したり、「アオと夜の虹のパレード」という噴水ショーが毎日開催されたりします。会場内に約300基の噴水が100メートルほど並ぶほか、照明やレーザーなどさまざまな演出装置を設置し、それらが音楽と共鳴し合い、物語を体感できるようになっています。夜はショー、昼はインタラクティブな体験と、昼と夜で異なる楽しみ方ができるようにする予定です。
画像提供:2025年日本国際博覧会協会
ー訪日観光客に対して用意していることは何ですか?
基本的にはノンバーバルなコンテンツを中心に展開する予定です。もし言葉が必要な場合は、最低限日本語と英語語での対応はしますが、言葉の意味が分からなくても楽しめるコンテンツを目指しています。
例えば、日本各地の祭りや伝統文化を体験できる企画も多数用意します。ただしステレオタイプな「日本らしさ」にとらわれず、日本の多様な文化や、世界の文化から吸収・和合した日本独自の魅力を伝えられるよう心がけています。
ー 万博の会場外への影響について考えていることを教えてください。
日本全国の自治体や民間企業が、さまざまな催事に参加することが決定しています。しかし、会場だけが全てではありません。あくまでも、自分たちの地域に来てもらう一つのプロモーションとして捉えているところも多いですね。そういった中で、地域の方たちも、2025年を目がけてさまざまなアップデートを今から準備していますよ。僕が聞いてるだけでも素晴らしい事例がいくつもあります。
日本の国土は狭いですが、あらゆる景色・環境があるコンテンツです。万博をきっかけに日本中を体験してもらい、その中で訪れた人も地域も皆がアップデートしていく。そんな日本全国が一つのお祭りのようになっていくんじゃないかと期待しています。それは、大阪・関西万博の一つの成功と呼べるのではないでしょうか。
画像提供:徳島県 世界が踊る日 ~多様性が織りなす踊りの輪 徳島の阿波おどり~
「あの時、万博から始まった」
ー最後に、万博の究極的な意義をどのようにお考えですか?
人々が本来の自分らしさに気づき、輝く星のように生きるきっかけになればいいと思います。それこそが本来目指すべき美しい地球の在り方だと考えています。
万博のメインコンセプトに「いのち輝く未来社会のデザイン」を据えているように、僕たち生きとし生けるすべてのものが本来の生き方に戻って、自分の人生をちゃんと歩んでいくように築いていく。それが地球をより良くしていくことにつながるのです。
僕らは気づいたらコンフォートゾーンにいて、慣れ親しんだ環境、仲間に囲まれ、自分自身の殻を破ろうとしない。強制的にその殻を破ることができる場所に身を投げ打ったときに、本来の自分の人生が始まるきっかけが生まれる可能性は大いあり得ます。
万博は単なるイベントではありません。世界中の知恵や思い、エネルギーが交差する場所であり、言うなれば184日間毎日がお祭りのようなもの。そこには、想定外の出来事に出合う「セレンディピティ」な可能性が多分にあるでしょう。
例えば、一つのパビリオンを目指してきたけど全然違う出合いや感性に触れて、そこから新しい人生が動き出す。一つの場所でありながら、まるで世界を1周してしまったような経験になると確信しています。
万博が全てを解決してくれるわけではありません。それでも、小さなきっかけによって外側に向かって自分が動き始め、振り返ると「あの時、万博から始まった」と思ってくれたら、それが一番の財産であり、レガシーですね。