広島県知事の湯﨑英彦
Photo: Kisa Toyoshima広島県知事の湯﨑英彦
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戦火消えぬ時代に「G7サミット」が広島で開催される重み

広島県知事に聞く、核兵器使用の実相と平和の礎、紐づく地球の持続可能性

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インタビュアー:東谷彰子
翻訳:青木弦矢

※本記事は、「Unlock The Real Japanに2023年3月27日付けで掲載された「A welcome changeを翻訳、加筆修正を行い、転載。

2023年5月、広島県で「主要7カ国首脳会議(G7サミット)」が開催される。広島県知事の湯﨑英彦は、世界の首脳陣をこの地に迎えるに当たり、何を備え、参加者たちにどのような印象を残そうとしているのか。広島開催の意義や重要性のほか、広島県独自のカーボンニュートラルやDX推進に関する取り組みについて語ってくれた。

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ー広島でサミットを開催する意義は何でしょうか?

今回は特殊な状況下で開催されるサミットです。ロシアがウクライナへの軍事侵攻を続けており、核兵器による威嚇も行われています。こうした中で、平和に対するコミットメントを強く発信していくことには、大きな意味があるでしょう。

「広島」には、2つのシンボリックな意味があります。一つは、被爆の実相に触れられる場であること。核兵器使用がいかに非人道的な行為で、人類そのものの存続に脅威を与えるのか。同時に、平和の礎があれば現在の広島のように繁栄できることを示しています。

今回のように、サミットのテーマと開催地が持つメッセージがこれほど合致することは類を見ないことです。その意味でも、サミットが広島で開催され、この地から力強い平和のメッセージが発信されることは、極めて意義深いと考えております。

「核兵器はなくさなければいけない」と強く感じてほしい

ーロシアがウクライナへ侵攻を始めて2月で1年になりました。広島という地を通じて、どのように平和の尊さを伝えたいと考えていますか?

戦争の悲惨さ、核兵器が使用されたという現実です。今、ロシアは核兵器による脅しを行っています。もし核戦争になってしまったら、と考えた時、広島の地を訪れ、実際に核兵器が使用されて、起きたことを肌で感じてもらうことが重要です。それは、何トン分の爆発の威力で、どの程度の放射線によって、何キロにわたって被害がある……といった、数字上の理解とは別物なのです。

できれば首脳の皆さんには、「原爆死没者慰霊碑」を訪れ、「広島平和記念資料館」で核兵器の実態を見ていただきたいと思っています。被爆者の人々の話を聞くことで、体感できることもありますし、その体験を基盤にし、平和をどう作っていくのか、核兵器に対する認識を改めて考えていただきたいです。

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ー知事が考えるG7広島サミットの重要性とは何ですか?

まず核兵器は、人類にとってなくさなければいけないものだと強く感じてほしいです。それに加えて、地球の持続可能性が大きな問題になっていますね。これらの問題はつながっています。核兵器は「安定・不安定パラドックス」という、核保有国同士が全面的に戦争をしない代わりに、持っていない国に通常兵器による侵攻を許してしまう状況を生んでいる。

そうした戦争の影響が多岐にわたり、例えばウクライナから小麦が輸出できないといった異なる問題が発生して、飢餓や社会的不安を引き起こしています。そうした問題をG7でしっかり議論していただき、解決策を打ち出していく。それが平和につながっていくのです。また、平和の土台があれば繁栄できる、と発信してほしいと思っています。

「カーボン・サーキュラー・エコノミー」は広島県の新産業になる

ー広島県のカーボンニュートラルに対する現状の課題や方針について教えてください。

広島の産業は鉄鋼、自動車、化学工業と、二酸化炭素を多く排出する産業が集積しています。産業からの排出割合は74%。全国の平均が47%ですから、広島県は非常に厳しいポジションにあるといえます。

しかし、二酸化炭素排出量をただ減らしていくだけではコストがかかってしまうので、それをいかに新しい産業と新しい投資に結びつけていくかが重要でしょう。

民間企業(特に大企業)は、鉄鋼、自動車、化学工業、造船産業の中で、それぞれにカーボンニュートラルに関する取り組みをしっかりと行っています。ですので行政としては、中小企業や家庭での省エネルギー化を全県的に推進することで、新たな成長の可能性を広げたい。県庁もいち事業者として、オール再生エネルギーにしていくなど、二酸化炭素排出量を55%削減することを目標にして取り組んでいます。

ー広島県では、どのようなカーボンニュートラルの取り組みをしていますか?

「省エネルギー対策の推進」「再生可能エネルギーの導入」「広島型カーボンサイクルの構築」の3本柱で、「カーボン・サーキュラー・エコノミー」(さまざまな形で存在している炭素資源=カーボンが、自然界や産業活動の中で循環し、持続的に共生できる社会経済)の実現に向け取り組んでいます。目標は、2030年度までに2013年度比39.4%減です。施策としては中小企業の省エネ投資、家庭の省エネ投資の後押しをしています。

問題は、二酸化炭素を大気中に排出すること。石炭や石油が問題だといわれていますが、本質はそこから出てくる二酸化炭素の放出です。二酸化炭素を有価物に変えて、大気中に排出させずに循環させていくことが大切なのです。

私たち人間もほとんどがカーボンです。本当に脱カーボンをしたら、我々はいなくなってしまうわけですが、排出・放出しないで循環させるための「Carbon dioxide Capture and UtilizationCCU)」といわれるテクノロジーは排出源から回収するための技術で、大きな成長のチャンスになると思います。

今、国は広島県大崎上島町で研究施設を整備していますが、我々はそれに合わせる形で、大学などと一緒に「広島県カーボン・サーキュラー・エコノミー推進協議会」(通称:CHANCE)を作って、新しい技術の後押しをしています。広島県にとっての新産業になるのではないでしょうか。

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DX推進は全ての施策を貫く柱

ー知事は、政府の「デジタル田園都市国家構想実現会議」(デジ田)の有識者構成員の一人ですが、デジ田の可能性についてどのようにお考えですか?

今、広島を含め日本が直面している大きな課題は、地域の人口減少が進むことで、自然減(出生数より死亡数が多い)だけでなく、社会減(転入数より転出数が多い)にもなっていることです。東京の一極集中が進むことで、トータルとしての国の活力が失われていってしまっているように感じます。

こうした現状を克服するために、デジタル技術は有効です。イノベーションによる新しいビジネスモデルの創出は、重要な取り組みでしょう。コロナ禍におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)推進によって、時間と空間の制約を大きく飛び越えることを我々は経験しました。それをより推し進め、どこにいても高い生産性を維持して働ける、生産性そのものを高めていくのがデジ田の目指すところであり、その成果に私も非常に期待しています。

ー広島県におけるDXの取り組みやデジタル実装による活性化の事例は、どんなものがありますか?

人工知能(AI)やビッグデータなどのデジタル技術を取り込み、基幹産業の強化を目指しています。「ものづくり」のデジタル化をサポートし、今の「デジタルケイパビリティ」(企業がデジタル化を推進する上で求められる組織能力)を向上・蓄積させるために、「ひろしまサンドボックス」というプロジェクトを立ち上げました。デジタルやロボティクスを使って、何でもいいからやってみようよ、と砂場遊びのように試行錯誤できるオープンな実証実験の場です。

また、2019年には「DX推進本部」を設置し、2020年には新しい広島県のビジョンを作り、DX推進を全ての施策を貫く視点の⼀つと捉え、県内全体で「仕事・暮らし」「地域社会」「行政」など県民生活に関わるさまざまな分野でのDXの推進を着実に進めています

例えば、広島の中山間地域で付加価値を創造していくために、どんなスマート農業ができるかを検討しています。ブドウの摘果で、粒を大きく育てるために間引きをするのですが、素人にはなかなかできません。そこでスマートグラスを使ったら、どの粒を摘果するのがいいか簡単に分かるようになり、生産性向上につながるといった取り組みです。

ー「広島ならではのおもてなし」の推進を検討していらっしゃるそうですが、具体的にどのようなことを考えていますか? また、広島の魅力についても教えてください。

「おもてなし」は究極のところ、来てよかったな、と思ってもらえることだと思います。それは臨機応変なもので、訪れる皆さんがどうしたら喜んでもらえるのかを考え、歓迎することが重要でしょう。そのためには、広島県民の皆さんにも同じように思ってもらうことが大切なのです。

広島のG7サミットの意義を理解してもらい、県民の皆さんで歓迎する機運を作っていきたい。例えば、「Smile for Peace Project」という、県民の笑顔の写真とメッセージをモザイクアートにした参加型の企画を実施しています。エンゲージメントを高めながら、語られる大きな議題に自分たちが参画しているという気持ちを強めていきたいと思っています。

広島の魅力は文化、技術、自然や景観など多様です。特に、多様な気候に恵まれており、南部ではレモン、北部ではリンゴが採れる土壌があります。また、瀬戸内海の海流で育まれた魚や、和牛のルーツの一つでもある「比婆牛」など、おいしいものには困りません。

「原爆ドーム」や宮島の世界遺産が注目されがちですが、それ以外にも先人が築き上げてきた素晴らしい価値を秘めた魅力が豊富にあります。ぜひ実際に広島を訪れて、体験してほしいです。

湯﨑英彦(ゆざき・ひでひこ)

広島県知事

1965(昭和40)年生まれ。広島県出身。東京大学法学部を卒業後、1990年に通商産業省(現経済産業省)入省。通商政策やエネルギー政策に関わる。また、スタンフォード大学で経営学修士(MBA)を取得。2000年に情報通信会社のアッカ・ネットワークスを設立。2008年まで代表取締役副社長を務める。2009年に県知事選に当選、現在4期目。

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