「敷地の広さでは(スーパー銭湯に)勝てないし、そうなると設備の豊富さで競っても仕方が無い。ではどうしたら差別化できるのか」。直近に手がけた大蔵湯について、今井は語る。
「いかに付加価値を作れるかを考えるなかで提案したのが、(スーパー銭湯の)逆を行きましょうという案。まっさらで静かな銭湯、大きな浴槽でゆったりとくつろげる空間を目指しましょうと提案してみたら、意外とオーナーさんから共感をいただけて、やりましょうと。昨今の改修といえば、だいたいスーパー銭湯にならってマッサージ風呂とか炭酸泉とか色々と設備的な付加価値を付けることを頑張っていたのですが、これはその逆をやったわけです。
大蔵湯
設備が少ないと(浴場内の)音が静かになって、落ち着く。大蔵湯での試みは、個人的にやってみたかったことのひとつであり、ああいった空間に浸るというのは銭湯好きとしての小さな夢でもありました。お客さんからは、何が足りないという意見は特にありません。要するに、お客さんがなんらかの満足を得られれば、それで良いわけです。その満足を得られるものが、ある場合では設備であったり、空間であったり、はたまた番台としゃべることであったりという人もいると思うのです」。
最近では「デザイナーズ銭湯の仕掛人」として取り上げられることもある今井だが、彼の仕事を細かく拾ってみると、オシャレのひと言では片付けられない、銭湯文化への深い愛情と挑戦が見て取れる。