式年遷宮で最も大切なのは「繰り返し行うこと」
三重県沿岸部にある伊勢神宮は、御正宮の「皇大神宮(内宮)」と「豊受大神宮(外宮)」に加え、14の別宮と、109の摂社や末社、所管社の125社から成り立つ。また、約5500ヘクタールにおよぶ広大な「宮域林」と呼ばれる神宮の森がある。
神聖な森の中にひっそりとたたずむ内宮は、太陽にたとえられる神である天照大御神(あまてらすおおみかみ)を祀る神道で最も重要な場所である。江戸時代から庶民の人気の参拝地としても知られ、同時代のおよそ10%の人々が伊勢神宮を訪れたという記録もあるほどだ。
木造萱葺(かやぶき)屋根の社殿は、7世紀に創建された当時とほとんど変わらないように見える。しかし伊勢神宮の主要な社殿は、内宮の入り口にある象徴的な宇治橋とともに、1300年前からの伝統に基づき、20年に一度、全面的に建て替えられている。「式年遷宮(しきねんせんぐう)」として知られるこの慣習は、神道の「常若(とこわか)」の概念を示しており、音羽は「とこわかとは循環であり、原点に戻ることです」と語る。
「20年とは、萱葺の寿命であるとともに新しい世代が成長するのにかかる時間でもあります」と音羽は続ける。式年遷宮では、伊勢神宮の歴史の中で培われてきた建築技術をそのままに、伊勢神宮を再建する。「何度も同じことを繰り返すのは、伝統を受け継ぐためでもあるのです」
式年遷宮は、ただ建て直すのではない。古い建物から出る木材や資材は、神宮とゆかりのある日本中の神社にお頒(わか)ちされ、新しい社殿の建設に再利用する。また、伊勢神宮の職員は定期的に新しい木を植え、環境に優しい方法で森林を管理し、将来の再建に必要な木材を十分に確保している。
さらに、伊勢神宮の林業は、19世紀後半に薪(まき)のために多くの木が伐採され、神宮周辺の森が受けたダメージを回復することを目指しているという。「将来的には、(式年遷宮に必要な)全ての木材を周辺の森から調達したいと考えています」と音羽。神道の「とこわか」の概念は、永遠を追求するために絶え間なく更新しているのである。