フードハブ 真鍋太一

インタビュー:真鍋太一(まなべ たいち)

食を通じて地域に新たな循環を生み出す、フードハブ プロジェクト

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タイムアウト東京 > Open Tokyo > インタビュー:真鍋太一(まなべ たいち)

テキスト:日南美鹿
写真:豊嶋希沙

「地方創生」が叫ばれるようになって久しいが、日本の山間部では、依然として農家の後継者不足や、耕作地放棄などが深刻な問題となっている。また、地域固有の食文化も、コンビニやチェーン店の増加により、失われつつある。

そんな状況に変化を起こそうと、徳島県名西群神山町で、地域の産官学と一体となり挑戦を続けているのが、フードハブ プロジェクト(以下フードハブ )だ。2016年に同町役場の出資も受け設立され、「地産地食」を軸に、人口約5300人、農業者従事者の平均年齢71歳の町に、新たな活気を生み出している。活動の要となるのは、地域内で資源や経済が循環する仕組み作り。地元食材をふんだんに使った食堂の運営のほか、地域の教育機関と連携した食育活動などを展開し、地域の農業を担う次世代の育成にも力を入れている。同社支配人の真鍋太一(まなべ・たいち)に、取り組みへの思いを聞いた。

どういった経緯で、徳島県にフードハブ ・プロジェクトを設立されたのですか?

始まりのきっかけは、 神山町地方創生戦略を考えるワーキンググループでした。2015年7月から約半年間、神山町役場と住民が一体となって行われたプロジェクトで、私は町民としてこのワーキンググループに参加させてもらいました。終了後も、取り組みを継続していくために、フードハブの起業の話が持ち上がったんです。役場からの後押しもあり、2016年4月に、神山町役場と神山つなぐ公社、私が部長を務める、東京代々木にある広告制作会社モノサスが共同で出資して設立しました。

―どういったミッションを掲げておられますか?

ひとつは、地域内での経済循環を強固にしていくこと。地方では消費する場所が限られるため、資源もお金も地域から流出していくばかりなんですよ。人材も資源だとすると、地方で育てたもの全てが、東京などの大都市に吸い上げられてしまう構造になっている。だから、地域内で資源を循環させる仕組みづくりに注力しています。

例えば、神山町にあるコンビニでパンを買って食べると、原材料は県外のものである上に、利益は外部の大手企業に流れていきます。しかし、地域のパン職人が、地元の小麦で作ったパンを買える店があれば、地域内で循環が生まれますよね。

もうひとつは、町内に新規就業者を迎えて、定着させること。神山町の農業従事者の平均年齢は71才。業界の継続を考えると笑えない数字なので、新しい事業者を育て、定住してもらえる環境を整えるのは急務です。

―具体的にどのような取り組みされているのですか。 

現在は、地元食材を積極的に使用する食堂、かま屋や、地元の在来小麦で作ったパンを販売するかまパン&ストアなど、2店舗を町内で運営するほか、地域の教育機関と連携して食育にも力を入れています。

食堂とパン屋はオープンから2年が経ち、赤ちゃんからご老人まで幅広い年齢層の方が来店してくださるようになりました。移住者の方も多く、コミュニティのハブのような場所でもあると思います。かま屋では、地元の食材をどのくらい取り入れたかがわかる「産食率」という数値を出して公開しています。昨年の平均は約54パーセントでした。そのように、地域の人にもフードハブの取り組みが伝わるようにしています。

食育は、地元の保育園から高校まで、全学で実施しています。そうした取り組みはイベントになりがちですが、神山町では、学校の教育カリキュラムの中に、農業や食文化について学ぶ機会を組み込んでいるんです。 

例えば小学校では、地域の農家で70年以上、種を継いでいる在来種のもち米を育てています。5年生になると、田植えから、収穫、収穫したもち米で作った餅の販売までを経験し、その米の種を、翌年の5年生に引き継ぐんです。これも、学校という小さな社会の中での、食を通した循環なんですよ。

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高校では、農業研修のほか、3年かけて学科改正に取り組み、2019年度から「食農プロデュースコース」と「環境デザインコース」を開設します。フードハブで農業インターンをして、大学卒業後は神山町に戻って、農家を目指すと言っている子もいて、そうしたステップを目指す若い世代が出てきた印象はありますね。

また、社員全員で、毎月「かま屋通信」という新聞を作っています。地元の新聞に折り込みで配布していて、そうした地道な活動から、じわじわと地元の人へも支持が広がっていると感じます。

―活動のコアとされている「地産地食」は、一般的にいう「地産地消」とは違いますが、どのような思いが込められているのでしょうか。

 消費の「消」だと、モノとお金の交換というのが前提ですが、フードハブが求める循環は、地域で育てたものを地域で食べるということ。地元で採れた良い作物が都会でよく売れるため、結局、地元民は食べられないというのはよくある話なんです。フードハブでは、消費だけではなく、育てる、食べるといった行為の交換を大事にしていきたい。都会に売れば高く売れるので、産業を守るためにも、外への流通は必要な部分もあると思いますが、まずは町内の人に届けることを前提でやっています。

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地方創生のキーワードは、「愛着」

活動を通して、地方を元気にするポイントは「愛着」だと感じるようになりました。コンビニでご飯を買って食べても、地域に愛着って湧かないじゃないですか。それが、地元の人が作った食物を食べられる環境が整うと、家庭で「これはおいしい、誰が作ったカブ?」といった会話が生まれるんです。 

そうした日常が、住民や子ども達の中に、地域に対しての愛着を育むのではないでしょうか。「地産地食」を通して、そうした会話が、繰り返されることで、コミュニティの自活につながると思うんです。

―真鍋さんは東京のご出身ですが、徳島に移住して事業を始められました。個人的にこれまでの感想や、実感などがあればお聞かせください。

昨年からシェフ イン レジデンス(※1)という独自の取り組みをはじめました。ニューヨークのブルックリンの有名店でシェフを務めた料理人が長期滞在しているのですが、彼いわく、都心で料理しているときは、いろんなところから届く食材を扱って、誰のために料理をしているのかよくわからなかったけれど、神山町だと、地元食材を使って調理するので、農家さんと一緒にやっている感覚が得られて、それがすごく楽しいと話していました。

そういう、実体感のようなものを取り戻しているような感覚は、私にもあります。東京のような大都市や大きな会社は、大きなシステムにぐわーっと押されていくような感じがありました。会社の名前や、クライアントの都合などを考え始めると、個人として何かに取り組むのは、なかなか難しい。 

その点、地方は個が大事なんですよね。町で接する人は、私のことを真鍋太一として見ているから、会社としては見てくれないんです。自身が今、何をやっているかということを、常にさらされるわけですから、自分に対しての感覚は、研ぎ澄まされるかもしません。自分で手を動かしてやらないと何も動かないので、そうせざるを得ないんですよね。それが楽しめれば、地方はすごく楽しいですよ。

※1 地方自治体などが、国内外からアーティストを一定期間招へいして、滞在中の活動を支援する事業、アーティスト イン レジデンスの応用版。フードハブでは、シェフもアーティストとして捉え、2018年から実施している。

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