住宅街に突如現れる漆喰とステンドグラスの建物。銭湯の多い大田区の中でもひときわ個性が光るのが、はすぬま温泉だ。3代目の近藤はこれまでも何度かリニューアルを行ってきたが、2017年は配管設備の工事もあり、最も大々的なものとなった。リニューアルのテーマは「大正ロマン」だ。館内の床板や脱衣所のロッカー、さらに漆喰の白い天井を照らすシャンデリアも木製という徹底ぶり。照明が青白いLEDでないのも、雰囲気作りに一役買っている。
浴室に入ると目の前に大きな湯船があり、男湯と女湯を貫く正面の壁には大きな滝の絵が描かれている。熱めの温泉風呂、炭酸温泉、そして水風呂と設備はいたってシンプルだが、どの風呂も壁にもたれかかって滝を眺められるよう設計されている。滝はよく見ると壁に直接描かれているのではなく、無数のタイルからできていることに気がつく。滝の流れの先にある鯉が2匹彫られた壺から、湧き出た温泉が注がれている。言うまでもなく、湯処の道後温泉を意識した造りだ。休憩室には銭湯絵師の丸山清人による富士山の絵が飾られている。本来浴場内にあるはずのものだが、銭湯に来た記念を写真で残してもらうための配慮だと言う。大田区の観光特使を務める三代目の近藤ならではのアイデアと言える。「日本文化、銭湯文化の継承に少しでも貢献したい」という思いが詰まった銭湯だ。
今井健太郎によるコメント
「日本の窓口であり、東京の窓口である羽田空港、そして品川に至近のはすぬま温泉。『旅情銭湯』を設計コンセプトとして、日本の郷愁を感じる空間造りを目指しました。はすぬま温泉の入浴体験を通じて、利用者がそれぞれの旅感を感じられるような空間演出をしています。」