池田大亮

インタビュー:プロスケーター池田大亮

「せっかく五輪競技になったのに...」若きスターが憂う、ストリートの今

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テキスト:鷲見洋之
写真:谷川慶典

オリンピックは嬉しい。でもみんなの視線は冷たい

「あれだけ街中で滑って怒られていたスケートボードが、オリンピック競技になるなんて…」。

日本スケートボード界の未来を背負って立つ期待の星 池田大亮(だいすけ)は、スケボーの東京オリンピック正式競技化について、未だに驚きの念を持っているようだ。

「今では、近所のおじいちゃんやおばあちゃんが応援してくれているんです。帰宅途中に『大会で優勝したらしいじゃん』とか『海外の大会ってどんな感じなの?』とか話しかけてくれるんですよ」。

池田大亮のラン

日本中から注目を集める18歳のストリートの新鋭がスケートボードを手にしたのは、3歳ごろ。スノーボードの選手だった父から教えてもらい、羽田にある公園で練習を重ねた。「当時はパーク(練習場)なんか全然なく、みんながセクション(障害物)を手作りしていました」。

14歳でアマチュア世界大会で優勝を飾った池田は、昨年に初開催された全日本選手権で優勝、初代王者となると、同じ年の6月には世界大会『ダムナム』でも1位、今年4月に初めて日本で開催されたFISE広島大会も制覇するなど、破竹の勢いで日本トップスケーターの地位を確立した。

スケートボードには、街中の障害物を模した会場で行う「ストリート」と、お椀型のボールや深皿型のプールなどを組み合わせたコースで行う「パーク」の2種目があるが、どちらにおいてもワールドクラスの実力を秘めている逸材だ。 2020年東京オリンピックの初代日本代表候補の最右翼と言われている。

「オリンピックで日の丸を背負ってみたいという気持ちが強いです。個人競技のスケボーには、そういう機会がないので、経験してみたいですね」と、2年後に向けて気持ちを高めてはいるが、一方で気になるのが、日本のスケートボードに対する偏見だ。

「日の丸を背負ってみたい」と声を弾ませる池田

設計がミスっちゃってるようなパークが結構ある

「せっかくオリンピック競技になったのに、いい練習の場だった宮下公園がなくなってしまったり、パークが増えていなかったり、なんか変な感じはします」。 

オリンピックを目指すスケーターたちにとって最適な練習の場だった宮下公園は、昨年3月に突如閉鎖。「東京オリンピック・パラリンピックを迎えるにふさわしい施設の整備」(渋谷区ウェブサイトより抜粋)を目指し、新たに「緑の拠点として整備」(同)される、という皮肉な事態になっている。 

3月に閉鎖された宮下公園のスケートパーク。トップスケーターにも人気のスポットだった

練習環境についても、充実しているとは言い難い。そもそも「設計がミスっちゃってるようなパークが結構ある」のが現状で、世界を目指す選手たちには満足できないものが多い。「ランニング(乗る前の助走のスペース)が短かったり、手すりにジャンプするまでのスペースが狭かったりするんです」。

池田のお気に入りの街ロサンゼルスでは、各地にパークが点在しており、それぞれ設計が異なるため、様々なテライン(障害物)の体験を積むことができる。雨が少ないため、パークの路面は綺麗で怪我をすることも少ないし、街中に有名なスポットも散らばっている。

もちろんパーク間をスケートボードで移動しても、白い目で見られることもない。むしろ憧れの目でも見てくれる。東京でも視線は集めるが、「だいたい嫌な方の視線です。いつの日か、スケボーが街で怒られない存在になってほしいです」と嘆く。

正式競技化の一方で練習環境が向上しない現状を指摘する池田

正式競技化で心配な点はほかにもあるという。

1つは服装。ユニフォームはまだ発表されていないが、「ダサいユニフォームは嫌ですね。靴は履き慣れたものを使いたいです。そのあたりもしっかり気を使ってほしいですが」と不安顔。 

もう1つは採点基準。「実は、大会では同じ技を決めても、名前がある人の方が得点が高かったりするんです。それが結構普通になってきています」と明かす。だが、それだけに「(オリンピックで)そういう場合に会場にブーイングが起きたりするなら、それはそれでいいかもしれません」とも期待している。

緊張をほぐしてくれるXXXテンタシオン

国内トップクラスの選手と言っても、池田も、数いるスケーターの1人であることには変わりない。彼らと同じような価値観を共有し、ファッションや音楽などの嗜好も似ている。池田の場合、大会でよく聴く音楽が、海外のヒップホップだ。

「XXXテンタシオン(故人)とか聴いています。結構緊張するタイプなので、テンション上げるために、自分のランの前とか、滑っている最中とかに聴くんです。特に『Look at me』とか」。

XXXテンタシオン

あどけなさが残るが、いざ板を手にすれば表情はキッと引き締まる。池田の堂々たる滑りを見ていると、緊張しやすいタイプとはとても思えない。だが本人は首を横に振り、冷静に分析する。

「まだまだメイク(成功)率が足りないと思います。同じパークで練習を重ねるより、いろんなパークで、いろんなセクションに触ったりしないとメイク率は上がらないかなと」。 

憧れのスケーターは、カリフォルニア出身のクリス・ジョスリン。「彼はステア(階段)が得意なんですが、でかい階段でも余裕で飛んで、すごい迫力あるんです」。もう1人がブラジル出身のルアン・オリベイラで、「板を回すのが速かったり、ジャンプが高かったり、なんと言うか、はきはきしているんです」と目を輝かせる。

クリス・ジョスリン

ルアン・オリベイラ

家に帰るのは、昼食時と夜の練習後だけ

東京オリンピックと並ぶ、いやそれ以上に池田が出場を念願する大会が『ストリートリーグ(Street League Skateboarding)』だ。ジョスリンもオリベイラも制しており、この舞台で優勝した者こそ真のベストスケーターとして認められる。国内大会で優勝したくらいでは簡単には出場できない最高峰の大会だが、池田は「20歳までには出場しておきたいです。今の調子ならいけそうです」と、自信をにじませる。

高みに少しでも近づこうと、池田は生活のほぼ全てをスケートボードに捧げている。

「スケボーの練習がしやすいように、高校は通信制にしました。学校がある日は6時間、ない日は8時間くらいやっています。技をひたすらやって、フロントフリップが上手い人の映像を見たりして、メイク率を必死に上げています」。家に帰るのは、昼食時と夜の練習後だけだ。 

欲しいのは、金メダル

オリンピックの正式競技に採用されたことによって、スケートボードやBMXなどのアーバンスポーツはにわかに注目を集めている。池田自身への取材依頼も殺到しており、大会と高校、メディア対応などを分刻みでこなす毎日だ。だがせわしさにも、池田は決してイライラを表したりはしない。

穏やかな笑顔が印象的な池田

そんな穏やかな人当たりと、内に秘めた強い気持ちのギャップが、ストリートからも、一般の人たちからも広く愛される所以(ゆえん)だろう。取材の最後、2020年に向けた抱負を聞くと、間髪入れずにきっぱりと言い切った。

「金メダル取りたいっすね」 

池田大亮(いけだ だいすけ)

2000年8月生まれ、東京都大田区出身。3歳のころ、スノーボード選手だった父の手ほどきを受けスケートボードを始める。15年に14歳以下世界選手権で優勝し、17年に初開催された全日本選手権ストリート種目も優勝。2020年東京オリンピックの強化指定選手に選ばれている。

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