インデペンデントおすすめ書籍
Photo: Kisa Toyoshima
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東京のインデペンデント書店がおすすめする本13選

個性的な書店の店主や書店員が薦める、その店ならではの1冊

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テキスト:大橋洋介

インターネット上では、本は人工知能(AI)による予測レコメンドが定着している。自分の趣味や嗜好(しこう)に近いものや、人気の本は何も考えず入手できるようになった。だが、未知の世界への扉を開いてくれるような本に出合う機会はその分減っている。そんな得難い瞬間を用意してくれるのが、「インデペンデント書店」だ。それぞれが異なる選書や店舗のスタイルを有し、その本棚にはユニークな魅力があふれている。

本記事では、東京のインデペンデント書店13軒に「ならでは」のおすすめを1冊選んでもらった。村上春樹訳の隠れた傑作や、プルーストを読み続けるサラリーマンの日常をつづったものなど、色とりどりのラインアップになっている。

もし興味を持ったなら、オンラインもいいが、近所にあるならぜひ薦めた店へ足を運んでみてほしい。そこには、明日の自分が求める世界が広がっているかもしれない。

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かもめブックス 前田隆紀おすすめの1冊

『心は孤独な狩人』は、大切な人を失った男がその後にたどる運命をつづった、映画『愛すれど心さびしく』の原作小説だ。

「舞台は1930年代アメリカ南部の田舎町。貧しく、欠落や鬱屈(うっくつ)を抱えた、満たされない人々の『孤独』が描かれています。『孤独』は(もちろん『愛』とセットに)、どこまでいっても人間を悩ませるもの。安易な共感を誘う文章はありませんが、作者の視線は深い優しさに貫かれています。 そこに救いはなくとも、そんな『なけなし』の優しさだけが人を生かし続けるのでは?と反すうさせられる、半永久的に古びない傑作です」と、かもめブックスの前田は薦める。

フライングブックス代表 山路和広おすすめの1冊

DJとして活躍し、その後写真家に転向した上出優之利による、盛り場を撮影した写真集。

「10年間、自転車で夜な夜な巡回し続け捉えた奇跡的で珍奇な風景や、バックDJだからこそ引き出せる踊り子たちの裸の表情。まだ夜の街を人々が自由に闊歩(かっぽ)できた時代、みんなが愛した街の騒がしさとエネルギーの記録写真集」と山路はその写真の特色を語る。

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コ本や ホンクブックス(honkbooks) 青柳菜摘おすすめの1冊

板坂留五が設計者の一人として関わった淡路島にある「半麦ハット」という名の建物を、数々の人たちの多様な表現から迫る1冊。

同書は2冊の本を1冊にまとめる形になっており、片方は栗田萌瑛による「半麦ハット」の写真と共同設計者である西澤徹夫との対話。もう片方は青木淳らによる批評や小説となっている。たった一つの建物への、ここまで多様なアプローチを本という表現に落とし込むことができるのは、ZINEという媒体ならではであろう。

ユトレヒト おすすめの1冊

「アーティスト長谷川有里によるハンバーガーのポートレイトをまとめた一冊。笑っていたり、目を白黒させていたり、表情はそれぞれ。ぜひお気に入りのバーガーを探してみてください」とアートの書籍を扱うユトレヒトが薦めるこの本は、200部限定のZINE形態の写真集。

長谷川有里は近年ポップで緩い雰囲気のぬいぐるみを精力的に制作している作家だ。この写真集に収められたハンバーガーも、ぬいぐるみ作品のうちの一つである。

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旅の本屋のまど店主 川田正和おすすめの1冊

旅に関する本の品ぞろえで右に出るものはない書店である同店の店主、川田はこの本の魅力を下記のように語る。「『世界の台所探検家』として活動する著者が世界16の国と地域を巡り、現地の家庭で料理や食事をした体験を通して感じた食への思いをつづったエッセイ。普通の人の暮らしが台所を通して垣間見えます」

料理の豊富な写真が満載のこの本は見ているだけでも楽しく、腹が減ってきてしまう。

ブックス 青いカバ店主 小国貴司おすすめの1冊 

ろう者の両親のもとに生まれた聴者の子ども「コダ」である韓国人の著者イギル・ボラが自身の成長過程で通った、ろう者の文化と、聴者の人々の間で生きることをめぐるエッセイ。小国は「たとえ完全に理解して共有することは不可能だとしても、私たちはなんとか相手を知ろうと『技術』を見つけ出し、発達させ続ける。その人間らしさに希望を感じる1冊」と評する。

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ナディッフ アパート おすすめの1冊

「アレ・ブレ・ボケ」と形容される、荒々しいモノクロ写真で日本の写真界に大きな影響を与えた森山大道。彼の作品のうち、東京工芸大学芸術学部写大キャラリーに収蔵された1960年から1982年に撮影された初期作品、930点を収めた大著だ。

森山は、ナディッフ(NADiff)のギャラリーで時折展示される、書店と関わりの深い作家である。今回の写真集の発売を記念して本に収められた写真の展示も行う。

※緊急事態宣言発令により店舗は休業中。それに伴い、展覧会の会期終了日は未定。今後の動向は公式ウェブサイトを確認してほしい

タイトル店主 辻山良雄おすすめの1冊

辻山はこの本をこう薦めている。「日本中、そして世界中にいる「おすもうさん」を訪ねたルポルタージュ。国籍、性別関係なく、どんな人でも相撲をとれることの風通しの良さが、閉塞感を吹き飛ばす一冊です」

文章担当の和田靜香 とイラストを描く金井真紀コンビによるこの作品は、イラストと軽快な語り口で、おすもうさんたちの多様なバックグラウンドから彼らの人生を描写し、深く掘り下げる内容だ。

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ブックショップトラベラー店主 和氣正幸おすすめの1冊

日本全国の小さいけれども、わざわざ行きたいすてきな本屋を紹介し大好評となった『日本の小さな本屋さん』の続編。全国を巡り、小さくても個性的な本屋を紹介し続けてきたブックライター和氣正幸が新たに提示する「止まり木になるような心落ち着く24の本屋さん」が詰まっている。

小さな山の集落にある緑豊かな店や、予約制の不思議な店、酒を飲みながら本に酔える店など全てが唯一無二の存在だ。本書で旅の目的地にしたくなるような本屋を見つけてみよう。

ブック ショップ 無用之用共同店主 片山淳之介おすすめの1冊

映画監督として有名なマルチタレント、伊丹十三の手によるさまざまなものごとへ言及する、ライフスタイル誌の元祖的なセンスを持つエッセイ集だ。

片山は「伊丹さん自身の欧州での体験から基づく、受け売りではない、伊丹さんのセンスが詰まった1冊。パリの街を粋に歩き、アレコレ指を差しながら話しているような雰囲気がとても楽しいです」とその妙味を語る。

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ヤト店主 佐々木友紀おすすめの1冊

文化系の人間ならば「投資」と聞くとつい「FX」などお金を増やすことのみを連想してしまい、どうしても先入観から苦手意識を持ってしまう。だが「投資」とはそれだけを指すのではない、文化を維持することもまた「投資」の一つだとこの本は語る。

地域の小さな商店で日々の買い物をすることでその店を維持し、個性的な特色を持つまちの文化を未来へつなぐことも「投資」なのである。そんな「投資」の捉え方を変えさせてくれる優れた1冊だ。

百年の二度寝共同店主 河合南おすすめの1冊

「気鋭の若手研究者たちによる社会学の入門書。大学での初学者向けだが、平易な文章で書かれているため高校生でも読める。

スマホ、飯テロ、スニーカーといった若者の身近にある文化、労働、LGBT、差別などの現代社会のアクチュアルな問題を入り口に「社会学的な視点」を持つことの大切さを優しく、楽しく、かつ真摯(しんし)に説く一冊だ」と河合は解説する。学術書が持っているお堅い先入観なしに、まずは手にとってみてほしい。

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双子のライオン堂店主 竹田信弥おすすめの1冊

とにかく長いことで有名なプルーストの『失われた時を求めて』を、サラリーマンである著者が仕事や生活の合間に読んだ日々をつづった日記。ゲームの実況動画の日記版的なものを期待して読んでみると、ほとんどの場合が別の本や生活の話などで拍子抜けしてしまう不思議な本である。

竹田は「自分は学生時代、苦行のように読んだのに、プルーストが生活の一部として馴染んで、楽しそうに読んでいてうらやましい」と語る。

もっとブックカルチャーに染まる

  • コーヒーショップ・喫茶店

温かいコーヒーを片手に、お気に入りのと向き合う時間ほど、心安らぐものはない。慌ただしく時間が過ぎていく東京だからこそ、ときには静かに本の世界に没頭できる、ブックカフェに出かけてみよう。

どの店も、本のセレクトから、メニューの質、空間のあり方まで、それぞれに工夫が凝らされている。客の居心地を考えた店づくりがなされ、帰りたくなくなるほどの居心地の良さだ。タイムアウト編集部がセレクトした25軒から、お気に入りを見つけてほしい。

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