精進料理や仏教料理は、そう頻繁に目にするものではない。6世紀に仏教の伝来と共に調理方法が紹介され、禅宗が広まった13世紀に人気を博した精進料理は、時代の経過に合わせて地元の食材や味付けを取り入れるようになった。
その主な特徴として挙げられるのが、「殺生をしない」という仏教の戒律に基づき、動物性の食材を使用しないことだ。さらにタマネギやニンニクなどの根野菜も、「興奮作用」があり、僧侶の徳に差し支えるとされ、使用が禁止されている。精進料理はベジタリアン料理であり、言うなればビーガンに近い。
これまでは、東京で精進料理を味わいたいなら、食事を提供する寺院に泊まる機会に恵まれるか、高級レストランで高級風にアレンジされた精進料理に散財するしかなかった。だが今では、西浅草の料理クラス茶御飯東京で、精進料理の調理を体験することができる。
真剣な表情で調理する茶御飯のヒラノ(左)と住職の青江覚峰
ここでのメニューは、近くの緑泉寺の住職・青江覚峰の協力を得て作成される。かつて僧侶全員分の料理を担当していた青江は、今は自身の寺で『暗闇ごはん』というイベントを不定期で開催している。このイベントでは、訪れた客は目隠しをされた状態で先入観を排除して住職の料理を味わう。幸運なことに、茶御飯でのレッスン中は、住職が私たちに付き添い、精進料理の細かいポイントまで褒めたたえてくれる。
レッスンは数時間で、かなりの品数を作る。とろろ蒸し(おろしたダイコンととろろイモを蒸したもの)と、豆腐を使った「卵」が上に乗るベジタリアン押し寿司、野菜の串揚げ、季節野菜の焼きもの、さらに和食には欠かせない味噌汁だ。
茶御飯のヒラノは調理中、参加者らが自ら手を動かすように促す一方で、料理の手順を一つ一つ確実に指導してくれる。住職は、精進料理に関する貴重な知識を教えてくれる。例えば、味噌汁のだしにはかつお節を用いることが多いが、精進料理の味噌汁にはコンブのみを用いるのだと住職は教えてくれた。
油で揚げた串揚げから余分な油を落とそうと振っていると、止めるように言われた。油がついているのなら、そのことにも意味があるというのだ。与えられたものと食材そのものに感謝を示す必要があり、余分な油があるとしてもそのままにしておくべきだという考えだ。串揚げに使った食材にも同じことが言える。不要なゴミを出さないとの考えから、だしに使用した後の昆布も串揚げにした。
とろろとダイコンを合わせた汁の残りも、とろろ蒸しのトッピングとして後に使用できる
実際、精進料理は何を料理するかより、食事に対する捉え方によって定義づけられることがある。「イタリアンの精進料理も、和風の精進料理もあります。そこにはこだわりがありません」と青江は語る。禁止されている食材(主に動物性の食材といくつかの根菜)を使用しなければ、どんな料理も仏教料理にフィットさせられるのだ。ただし料理中と食事中は、「今」に意識を向ける必要がある。心を穏やかに保ち、自分が与えられたものに常に感謝する、それが食べるということだ。
完成
青江はレッスンの最初から最後まで側にいてくれる訳ではない。だがヒラノと彼の奥さんは、住職の(食への)教えをレッスンに十分に取り入れてくれる。ヒラノは、教室で教えてくれるメニューは、寺院で提供される一般的な精進料理と比べ、少し手の込んだものかもしれないとし、「1回の食事でこれほどたくさん食べるとは思えません」と語る。だが結果的に私たちは、なかなか美味しい料理を味わえた(すりおろしたとろろの味わいを新発見した)し、このあまり知られていない料理の魅力を理解しつつあるように思う。