大塚訓平(アクセシブル・ラボ代表理事)
1980年、栃木県宇都宮市生まれ。2006年、不動産会社オーリアル創業。2009年に不慮の事故で脊髄を損傷。車いすで生活を送るようになったことで、障害者の住環境整備にも注力するように。2013年には、外出環境整備事業に取り組むNPO法人アクセシブル・ラボを設立。健常者と障害者のどちらも経験している立場から、会社ではハード面、NPOではソフト面のバリアフリーコンサルティング事業を展開中。
15000人以上の犠牲者を出した東日本大震災から8年。あの時に感じた、大きな揺れと押し寄せる不安はかつてないものだった。しかし、そうした記憶も時間とともに薄れてしまうものだ。毎年3月になると、震災の記憶を風化させないために各メディアで特集が組まれ、震災当日の様子や、今なお続く避難生活、復興支援、地域再生に向けた取り組みなどが取り上げられるが、皆さんは何を思うだろうか。
僕は昨年のこの時期に、ネットニュースである町の存在を知り、防災意識が高まった。その町は、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』の舞台となった、岩手県北東部にある人口約17000人の洋野町。東北3県の太平洋側沿岸地域で唯一、死者・行方不明者がゼロという、防災意識が極めて高い町だ。
洋野町は、明治、昭和の時代に起きた過去の地震による津波被害を教訓に、自主防災組織を作り上げたのだ。平時から、高台への避難路の草むしりや除雪を行い、訓練では「逃げる」ことを徹底して教える。いざというときに助け合えるように、日頃から住民同士がコミュニケーションをとって、顔の見える関係を構築していた。町のどこに障害者や高齢者、妊産婦がいるのかを近隣住民が把握し、助け合うというように。つまり「向こう三軒両隣」で防災意識を高めていった結果、犠牲者ゼロどころか、負傷者さえ出さなかった。この洋野町から学ぶことは多い。
洋野町で行われた、大地震に伴う津波を想定した避難訓練の様子。車両から車いすへの移動の訓練も
東日本大震災のような地震に限らず、台風や集中豪雨による洪水や土砂災害、噴火などによる被害が全国各地で起きている。こうしたとき、避難勧告があると避難所を目指し移動するわけだが、ここで問題になるのは、避難所がどこにあるかということ。皆さんは自宅や勤務先近くの避難所をしっかりと把握しているだろうか。自治体の防災情報を検索すれば、あっという間に避難所を見つけることができるだろう。しかし、車いすユーザーの場合は、その避難所に段差はないか、スロープはあるのか、車いす対応トイレがあるか、などを調べる必要がある。残念ながら、避難所のバリアフリー情報を公開している自治体は非常に少ない。つまり事前に調べることができないわけだ。熊本地震の時は、ある車いすユーザーが避難所に行くも、そこには段差があり、車いす対応トイレもなかったため、別の避難所に移動。しかし、次に行った避難所も整備されておらず、また移動する……というように避難難民になってしまった事例も報告されている。避難所のバリアフリー状況が一目でわかるような情報が公開されていたり、行政職員がそれらの情報を知っていれば、その方は避難難民にならずに済んだことだろう。
避難生活において、障害者と健常者で差が出ないよう、情報のバリアを解消するとともに、障害者も参加できる避難訓練の実施、そして向こう三軒両隣で防災意識を高めることが、災害時の混乱や被害を最小限にすることに繋がるはずだ。まずは、家族や職場の人と防災計画を立て、それを共有することから始めてみよう。
大塚訓平(アクセシブル・ラボ代表理事)
1980年、栃木県宇都宮市生まれ。2006年、不動産会社オーリアル創業。2009年に不慮の事故で脊髄を損傷。車いすで生活を送るようになったことで、障害者の住環境整備にも注力するように。2013年には、外出環境整備事業に取り組むNPO法人アクセシブル・ラボを設立。健常者と障害者のどちらも経験している立場から、会社ではハード面、NPOではソフト面のバリアフリーコンサルティング事業を展開中。
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