車いす目線で考える 第9回 ハードのバリアをハートで解消

バリアフリーコンサルタント大塚訓平が考える、東京のアクセシビリティ

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テキスト:大塚訓平

「このあと新宿駅周辺で飲みましょう」。なんてことのない日常会話だ。すぐにスマホを取り出し、グルメサイトをチェック。料理の種類や店の雰囲気、価格帯、口コミなどを参考に、簡単に店を決めるだろう。しかし、車いすユーザーの店探しは、そう簡単にはいかない。なぜなら、店舗内外に段差はあるか、扉や通路の幅はどのくらいか、エレベーターや車いす対応トイレはあるかなど、事前に知りたい情報がいくつもあり、それらを容易に調べることはできないからだ。

最近では、グルメサイトで「バリアフリー」表記をしてくれていたりするが、その情報の信頼性や正確性の低さが課題になっている。例えば、あるグルメサイトで「バリアフリー」の表記があったとする。しかし、実際に行ってみると、エントランスに段差があったり、入口の扉が狭くて入れなかったり、車いす対応のトイレがなかったりするのが現状だ。これは、車いすユーザーが考えるバリアフリーと、事業者側が考えるバリアフリーに大きなギャップがあることから生じる課題と言える。

具体的な事例を2つ紹介しよう。まずは、僕が障害者デビューして間もない頃、某サイトに記載してあった「バリアフリー〇」という記載を頼りに、店を予約して行ってみたときの話だ。店の前に着くと、入口に2段の段差があったので、店に電話をしてアシストをリクエストした。店のスタッフは快く手伝ってくれ、無事に入店することはできた。しかし、残念ながら店内のトイレにも段差があり、車いす対応のトイレもなかったのだ。店のオーナーに話を聞くと、「店内がフラットであれば、バリアフリーとして良いと思ってしまっていた。トイレまでは考えが及ばなかった」とのこと。そう、ここにズレが生じていたのだ。

当然、車いすユーザーが求める「バリアフリー」を完璧に実現できている店は数少ない。しかし、リクエストに応じてアシストをする。車いす対応トイレが店内になければ、近隣の多目的トイレを調べ、その情報を提供するなど、ちょっとした工夫でバリアをなくすことはできる。つまり「ハード(施設や設備など)のバリアをハートで解消する」ことがポイントだ。

もうひとつの事例は、経験値があるからこそのズレ。メディアや雑誌でも取り上げられた某有名店に行きたくて、車いすユーザーである旨を伝え、店内外の状況を問い合わせたことがあった。返ってきたのは「入口に段差が3段、店内にも2段ありますが、そこだけ立って歩いてもらえれば……」という言葉。これはおそらく、以前そのスタッフが対応した車いすユーザーは立つことのできる人で、その人を基準に話をしたのだと思う。だが、障害は十人十色。同じ車いすユーザーでも、できることとできないことは皆異なるし、もちろん、リクエスト内容も異なる。「車いす=少しなら歩ける」「車いす=まったく歩けない」というような決めつけをなくし、相手の状況を正確に把握しながら、できることを提案していくのがベストと言えるだろう。しかし、自店のバリアを正確に把握していたことは、とても素晴らしいことだ。

バリアフリーの定義は、皆異なる。だからこそ、店舗内外のハード面については、ありのままの情報を公開する。そして、リクエストに応じて、あらゆるバリアをハートで解消するという意思表示があると、さらに多くの人から選ばれる店になるはずだ。これからの時代は、ハード面を整備する「人にやさしい店舗づくり」と同様、ソフト面(心や情報)のバリアフリー化を推進する「人がやさしい店舗づくり」も同時に行っていくことが望まれている。

大塚訓平(アクセシブル・ラボ代表理事)

1980年、栃木県宇都宮市生まれ。2006年、不動産会社オーリアル創業。2009年に不慮の事故で脊髄を損傷。車いすで生活を送るようになったことで、障害者の住環境整備にも注力するように。2013年には、外出環境整備事業に取り組むNPO法人アクセシブル・ラボを設立。健常者と障害者のどちらも経験している立場から、会社ではハード面、NPOではソフト面のバリアフリーコンサルティング事業を展開中。

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