大塚訓平(アクセシブル・ラボ代表理事)
1980年、栃木県宇都宮市生まれ。2006年、不動産会社オーリアル創業。2009年に不慮の事故で脊髄を損傷。車いすで生活を送るようになったことで、障害者の住環境整備にも注力するように。2013年には、外出環境整備事業に取り組むNPO法人アクセシブル・ラボを設立。健常者と障害者のどちらも経験している立場から、会社ではハード面、NPOではソフト面のバリアフリーコンサルティング事業を展開中。
タイムアウト東京 > Open Tokyo > 車いす目線で考える > 第5回 Don’t think. Feel!
テキスト:大塚訓平
知られていない「障害者差別解消法」
先日、某所で講演をした時に、参加者に向けてこんな質問をしてみた。「2016年4月に施行された『障害者差別解消法』という法律をご存知の方はいますか」。知っている人に挙手を求めたところ、手が挙がったのは全体の2割以下。内閣府の世論調査でも同法の周知度は21.9%という結果だったので、認知度は約2割と言って良いだろう。
しかし、障害当事者に同じ質問をしたらどうなるか。恐らく割合は逆転し、8割以上の人が「知っている」と回答することだろう。なぜなら、多くの障害当事者にとって待望の法律だったからだ。法施行から2年経過するが、まだまだ障害当事者と社会の間には、浸透のギャップがある。
合理的配慮とは...
この「障害者差別解消法」では、「不当な差別的取り扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」が求められているわけだが、「差別」はなんとなく分かったとしても、「合理的配慮」というものが、一般の人にとっては分かりにくいものとなっている。
理解を進めるために、内閣府のウェブサイト「合理的配慮サーチ」というページでは、シーン別、障害の種別ごとに具体例を紹介しているので、小売企業や飲食店をはじめ、事業者はこれを参考に、事前的改善措置や環境整備にあたるのが良いと思う。しかし、障害は十人十色であり、求める合理的配慮が何なのかは人によって異なるので、障害を理解し、その場その場で柔軟に対応していくことも求められる。そのために必要となってくるのが、積極的かつ、建設的な対話だ。
しかし、対話といっても、障害のある人を目の前にすると、急に距離を感じてしまったり、必要以上に構えてしまったりしていないだろうか。日本人の控え目でシャイな気質が「断られたらどうしよう。迷惑なのではないか......」と、互いにコミュニケーションをとることを邪魔しているような気がする。勇気を振り絞り、思い切って声をかけるにはどうすれば良いか。
*合理的配慮の定義:障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう(国連総会『障害者権利条約』より)
Don’t think. Feel!
行動を起こすのに必要な心構えを僕の大好きな映画から紹介しよう。1973年に公開された『燃えよドラゴン』の劇中で、ブルース・リーが蹴りの稽古をつけていた少年に向けて言った言葉だ。「Don’t think. Feel!」。「考えるな。感じろ!」だ。
「車いすで自動販売機の前にいる人、何か困っているのかな」「坂道を上るの大変そうだな」「手助けした方が良いかな」「声をかけても大丈夫かな」など、あれこれ(手段を)考えるのではなく、感じたまま行動する。それによって得た経験(結果)は必ず糧となり、次に同じような場面に遭遇した場合には、さらに良い結果を得ることができるはずだ。
障害のある人とない人が接し、関わり合う機会が増えないことには、理解も進まないし、慣れることもできない。だからこそ、障害当事者側も、もっと外に出て行くべきだとも思う。それと同時に、自分が手助けをしてほしいことを、簡潔に、そして明確に伝えられるスキルは少なくとも身につけておきたい。また、世の中に課題があれば、それを嘆いたり、不満を言うのではなく、解決策を適確に提示して、一緒に改善していってほしい。そんなたくましい障害当事者が増えていくことが、社会全体の障害に対する意識を変えていくきっかけになるはずだ。
これからは、目の前にいる人がハンカチを落としたら拾うように、障害の有無にかかわらず、すべての人が、声かけや手助けをスマートにできるようになりたい。行動を起こすのに必要な心構えは、「Don’t think. Feel!」だ。心を開いていこう!
第1回「"Thank you"と"Excuse me"」はこちら
第2回「とりあえずバリアフリー」はこちら
第3回 バリアフリーの「ルール化」はこちら
第4回 ホテル予約が取れないはこちら
大塚訓平(アクセシブル・ラボ代表理事)
1980年、栃木県宇都宮市生まれ。2006年、不動産会社オーリアル創業。2009年に不慮の事故で脊髄を損傷。車いすで生活を送るようになったことで、障害者の住環境整備にも注力するように。2013年には、外出環境整備事業に取り組むNPO法人アクセシブル・ラボを設立。健常者と障害者のどちらも経験している立場から、会社ではハード面、NPOではソフト面のバリアフリーコンサルティング事業を展開中。
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