大塚訓平(アクセシブル・ラボ代表理事)
1980年、栃木県宇都宮市生まれ。2006年、不動産会社オーリアル創業。2009年に不慮の事故で脊髄を損傷。車いすで生活を送るようになったことで、障害者の住環境整備にも注力するように。2013年には、外出環境整備事業に取り組むNPO法人アクセシブル・ラボを設立。健常者と障害者のどちらも経験している立場から、会社ではハード面、NPOではソフト面のバリアフリーコンサルティング事業を展開中。
タイムアウト東京 > Open Tokyo > 車いす目線で考える > 第3回 バリアフリーの「ルール化」
テキスト:大塚訓平
2006年にバリアフリー新法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)が施行されたことにより、建築物や交通機関など、ハード面のバリアフリー化が進んできた。それに伴い、車いすのマーク「国際シンボルマーク」が様々な場所に設置表示され、日常に溶け込んできている。
特に目にする機会が多くなったのは、駐車場やトイレ、エレベーターではないだろうか。国際シンボルマークが普及してきたとはいえ、適切に理解・運用がされているかと言えば、まだまだだ。今回はこれら3つの場所における課題を、車いす目線で考える。
車いすユーザーは、車の乗降に広いスペースが必要なことから、一般駐車区画より幅が約1メートル広い障害者等用駐車スペース(幅3.5メートル以上)を利用している。
残念ながら日本では現在、健常者の不適正利用が問題視されている。店舗や施設の入り口に近いことから、「便利な区画」としてイメージが定着してしまっているのだろうか。
日本国内では、利用対象者の範囲を広げ過ぎたり、法令で「努力義務」という何とも歯切れの悪いワードを使い、いつまでもマナーやモラルで管理しようとしているが、欧米先進国は明確にルール化している。
5年前に訪れたラスベガスのネバダ大学構内で見たのは、対象者以外が駐車した場合、レッカー移動された上に、250~1,000ドルの罰金(場所によって罰金額は異なる)という標識。
州発行の許可証に加え、大学の許可も必要と警告する標識
何が素晴らしいかと言うと、このルールは健常者だけではなく、障害者側にも適用しているのだ。たとえ障害者が駐車したとしても、州が発行したプラカードを掲げていないと、アウトなのだ。権利と義務のバランスがとても良い。
身体障害を示す州発行のナンバープレート。プラカードかどちらかを所持していなければ専用駐車場は利用できない
次に多機能(多目的)トイレについて。最近、「みんなのトイレ」や「だれでもトイレ」というネーミングのトイレが増えている。ここまで来ると、もはや誰に配慮して整備したのか全く分からない。
僕が実際に見かけたのは、イベント時の着替え場所として使う学生や、高校生カップルら。ほかにも小説片手に出てくるサラリーマンもいるし、お風呂がわりに使う路上生活者までいた。
車いすユーザーとしては、一般トイレでは扉の幅が狭く、車いすのまま入れないから多機能トイレを使っているのだ。決して「便利だから」使っているわけではない。
一般のトイレでも、扉幅や内部がもう少し広くなれば、より多くの人が使いやすくなるはず。ハワイで見た事例は、車いす「専用」よりも「対応」を多く設置するというもの。一般のトイレの一番奥の個室のみ、扉と室内を広くしてあり、手すりも設置している。さらに、その広めのトイレを必要としている人の優先利用に関しても、みんながきちんと理解していた。
広い作りになっている個室トイレ
車いす対応の個室トイレ内部
上下階の移動を便利にするエレベーターについても考えてみよう。僕が商業施設や主要駅での乗り換えなどで途中階から移動する場合、時間帯にもよるが平均2、3回は乗れずに見送ることになる。最近増えてきた「車いす・ベビーカー優先」と書かれているエレベーターでさえ乗れないこともある。扉が開くと、乗っている人が一斉に下を向いて視線をそらす、というシーンに何回出くわしただろうか。
しかしある百貨店では、そうした声をくみ取って、「平日優先」「土日祝専用(時間帯限定)」とし、エレベーターガールを配置して、本当に必要としている人が円滑に移動できるよう、アナウンスで理解を求めていた。
車いすやベビーカー利用者らの優先利用などを促すエレベーター
その内容は、より多くの車いす・ベビーカーユーザーが利用できるよう、車いすなどの利用者が途中階から乗る場合、同伴者には階段やエスカレーターなどを利用するようお願いするものだった。
つまり同伴者が健常者の場合、当事者と同伴者には目的階で待ち合わせをしてもらうという取り組みだ。例えば、お父さんとお母さんがベビーカーを押しているなら、乗れるスペースを確保できる時には、両親のどちらかが乗り、もう1人は階段やエスカレーターなどで移動することを促す。それによって、歩行困難者らがエレベーターに乗れずに見送らなくてはならないという状況を可能な限りなくすように取り組んでいた。当事者の目線で考え、ニーズを正確に捉えた好事例と言える。
このように、対応策の好事例は、国内外問わずたくさんあるので、気付きのアンテナを高く張り、情報をキャッチして真似ることから始めてもらいたい。同時に、駐車場やトイレ、エレベーターを使う際、ほかの誰かを思いやるという、気持ちにゆとりを持つこともあわせてお願いしたい。それが、日本のバリアフリーをもう一段上に押し上げることに繋がるはずだから。
大塚訓平(アクセシブル・ラボ代表理事)
1980年、栃木県宇都宮市生まれ。2006年、不動産会社オーリアル創業。2009年に不慮の事故で脊髄を損傷。車いすで生活を送るようになったことで、障害者の住環境整備にも注力するように。2013年には、外出環境整備事業に取り組むNPO法人アクセシブル・ラボを設立。健常者と障害者のどちらも経験している立場から、会社ではハード面、NPOではソフト面のバリアフリーコンサルティング事業を展開中。
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