東京に失われた「歩く楽しさ」の価値を取り戻すこと
かつての東京=江戸の街は、人々が歩いて暮らせるコンパクトシティでした。多くの人口を抱えながら、世界でも稀(まれ)に見る、フラットで高密度な街づくりに成功した先進都市だったのです。ところが20世紀以降、無秩序に拡大した東京の街は市民の暮らしから離れ、コンクリートと高層ビルに覆われてしまった。私はこの20世紀的な都市の在り方を一度リセットし、東京が本来持っていた「歩く楽しさ」、そして「環境や人々の暮らしになじむ街」という文脈を取り戻す必要があると感じています。
東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年は、その大きなチャンスとなるでしょう。だからこそ私は、メインスタジアムとなる新国立競技場を、神宮外苑の杜に調和する低層かつ木の温もりにあふれたデザインにしたのです。すでに成熟のフェーズを迎えた東京が激化する都市間競争を生き抜く答えは、巨大な建築物の乱造にはありません。世界では今、サステイナビリティを意識し、市民が当事者意識を持って街づくりに参加する動きが広がっています。欧米のみならず、成長著しい中国の都市も例外ではありません。
そこに暮らす市民ひとりひとりが自分の暮らす場所を見つめ直し、ビジョンを持って街の未来を考える。成熟都市・東京の未来は、そんな小さな意識改革から始まると信じています。