「リハビリできる街づくり」に情熱を注ぐ医師・酒向正春の挑戦
高齢化で身体機能が衰えたり、脳卒中などの後遺症で身体が不自由になったりする人々の数は、全国で増え続けている。そんな中、新しいリハビリ医療で、患者の社会復帰に情熱をささげる医師がいる。ねりま健育会病院院長の酒向正春だ。
「もともと脳卒中が専門の脳外科医でしたが、様々な重症患者と出会う中で、病後の人生を左右する鍵は、命が助かった後のリハビリにあると気付いたのです。そこで2004年、43歳でリハビリ医に転身しました」。
彼が実践するのは、医師や看護師、セラピストらの連携による「攻めのリハビリ」と呼ばれる手法だ。発症後できるだけ早い段階から始め、リハビリ以外にも食事や着替えなどで積極的に体を動かしていくのが特徴だ。そのため院内には、リハビリを実践しやすい環境が整う。1周すると300mの歩行が可能な回廊型通路と、365日いつも花が絶えない美しいガーデンテラスは、酒向の発案だ。
「寝たきりに近い重症患者でも、歩くという運動と声かけによる刺激で症状が改善するケースは多い」。その言葉を裏付けるように、彼が担当した患者の自宅退院率は82%にも上る。
現在、ライフワークとして力を注いでいるのが「リハビリのできるまちづくり」だ。せっかく病院のリハビリで回復しても、自宅に戻ると体を動かす機会が減り、再び症状が悪化するケースは少なくない。酒向は「体が不自由でも積極的に街に出て歩き、人々とコミュニケーションを取り続けて生きがいを持つことが、人間力の回復には不可欠」と力を込める。
「練馬区の協力を得ながら、お年寄りや障がいのある方も街歩きを楽しめるヘルシーロードの整備を進めています。私たちの事例をモデルケースに、病院を起点とした健康な街づくりを地方都市にも広げていきたいですね」