東京をひらくヒト・モノ・コト(3)

多様性豊かな街づくりに向けた最新の取り組み

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in collaboration with 日経マガジンFUTURECITY

1300万人を超える人々が暮らすメガシティ、東京。そこでは日々、街をより良くするためのサービスやプロダクトが生まれ、さまざまな取り組みが続けられている。東京の未来をインスパイアする、重要なファクターの宝庫である。ここでは東京のオープン化を理解するために知っておきたいヒト・モノ・コトを、独自にピックアップして紹介する。

「リハビリできる街づくり」に情熱を注ぐ医師・酒向正春の挑戦

高齢化で身体機能が衰えたり、脳卒中などの後遺症で身体が不自由になったりする人々の数は、全国で増え続けている。そんな中、新しいリハビリ医療で、患者の社会復帰に情熱をささげる医師がいる。ねりま健育会病院院長の酒向正春だ。

「もともと脳卒中が専門の脳外科医でしたが、様々な重症患者と出会う中で、病後の人生を左右する鍵は、命が助かった後のリハビリにあると気付いたのです。そこで2004年、43歳でリハビリ医に転身しました」。

彼が実践するのは、医師や看護師、セラピストらの連携による「攻めのリハビリ」と呼ばれる手法だ。発症後できるだけ早い段階から始め、リハビリ以外にも食事や着替えなどで積極的に体を動かしていくのが特徴だ。そのため院内には、リハビリを実践しやすい環境が整う。1周すると300mの歩行が可能な回廊型通路と、365日いつも花が絶えない美しいガーデンテラスは、酒向の発案だ。

「寝たきりに近い重症患者でも、歩くという運動と声かけによる刺激で症状が改善するケースは多い」。その言葉を裏付けるように、彼が担当した患者の自宅退院率は82%にも上る。

現在、ライフワークとして力を注いでいるのが「リハビリのできるまちづくり」だ。せっかく病院のリハビリで回復しても、自宅に戻ると体を動かす機会が減り、再び症状が悪化するケースは少なくない。酒向は「体が不自由でも積極的に街に出て歩き、人々とコミュニケーションを取り続けて生きがいを持つことが、人間力の回復には不可欠」と力を込める。

「練馬区の協力を得ながら、お年寄りや障がいのある方も街歩きを楽しめるヘルシーロードの整備を進めています。私たちの事例をモデルケースに、病院を起点とした健康な街づくりを地方都市にも広げていきたいですね」

酒向正春(さこう まさはる)

1961年、愛媛県生まれ。愛媛大学医学部卒。脳神経外科医として活躍した後、脳リハビリテーション医に転向。世田谷記念病院副院長・回復期リハビリテーションセンター長、健育会竹川病院院長補佐をへて、2017年4月から大泉学園複合施設施設長、ねりま健育会病院院長。著書に『あきらめない力』(主婦と生活社)がある。

誰もが文字を読める世界へ、開発が進む眼鏡型デバイス

視覚障がいや低視力、失読症などによって文字を読むことが困難な人々は、全国に3000万人以上いると言われている。「オトングラス」は、そのような人々を対象に、視覚的な文字情報を音声変換することで「読む」行為をサポートする眼鏡型デバイスだ。通常の眼鏡と同じように装着し、文章などを捉えた状態で側面のボタンを押すと、デバイスに組み込まれたカメラが文字を認識。情報がテキストデータに即時変換され、端末に接続したイヤホンまたはスピーカーから音声として読み上げられる仕組みだ。

OTONGLASS代表取締役・島影圭佑の父親が失読症になり、誰もが文字を読めるデバイスの必要性を感じたことが開発のきっかけになったという。視覚障がいや失読症の人々だけでなく、言葉が分からない外国で過ごす際など、最終的には誰もが利用できるデバイスとしての展開を目指す。現状は受注生産のみだが、2019年の一般販売に向けてクラウドファンディングを実施中だ。

介護現場で活躍、排泄のタイミングを知らせるデバイス

超高齢社会を迎えた現在、介護分野のイノベーションに期待が高まっている。中でも排泄(はいせつ)ケアをサポートする製品として注目されているのが、排泄予知ウェアラブルデバイス「DFree」だ。タイミングが予想しにくい排泄のケアは、ほかの介護に比べて負担が重いと言われている。「DFree」は、排泄のタイミングの予測に超音波を活用。下腹部に小さなデバイスを装着し、内蔵の超音波センサーで膀胱(ぼうこう)の大きさを計測することで、排尿のタイミングを判断する。膀胱が一定の大きさに達すると、内蔵ランプが点滅するとともに介護者のスマートフォンなどに通知が行く仕組みだ。排尿の時間はアプリに記録されるため、被介護者の排尿パターンと傾向を把握するのにも役立つ。

現在は介護施設向けの販売が中心だが、夏には在宅介護向けの販売開始も予定している。介護者の負担を軽減するだけでなく、介護を受ける側の自立にもつながる「Dfree」のさらなる進化に期待したい。

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車いすやベビーカーも簡単に通行、ゲートのない駅改札

誰もが快適に利用できる交通システムを目指し、三菱電機が、ゲートのない改札や乗客見守り支援ツールなど、開発中の3つのコンセプトを発表した。ゲートのないフラットな改札は、専用のICカードパスケースに埋め込んだチップの情報を、床の通信機が読み取る仕組み。チャージ金額などを基に、通過できない場合は警告音とともに床が赤くなり、通過可能なら青くなる。カードのタッチが不要になれば、車いす利用者や、大きな荷物を持った人も通りやすくなるだろう。鉄道事業者向けに、介助が必要な乗客をすぐ把握できるツールも開発中。障がい者や杖(つえ)を使う人がいれば、位置情報や容姿などを画面に強調表示。駅員が情報を共有することで、介助作業がスムーズになる。3つ目は、車両内サービス提供ツール。ICカード情報を使い、降車駅手前で起こしてくれる目覚まし機能や、座席の液晶画面におすすめ映画が表示される機能などを想定する。同社は「様々な人が快適に移動できる『スマートモビリティ』を実現したい」と話している。

有識者が夜間経済について議論、「OPEN TOKYO LIVE」

日本のナイトタイムエコノミー(夜間経済)の現状と課題を考えるシンポジウム「OPEN TOKYO LIVE」が、都内で開かれた。夜間経済は近年、生活様式の多様化や経済活性化などの文脈で注目を集めている。シンポジウムでは、その社会的影響や市場の可能性、今後の動向などについて、有識者らが意見を交わした。A.T.カーニー日本法人会長の梅澤高明は、夜間市場が秘めるポテンシャルの高さを強調。「ロンドンの夜間経済GDPは約3.9兆円、ブロードウェイは約1.4兆円と言われている。東京も5兆円くらいを目指していい」と提言した。衆議院議員の秋元司は、インバウンド市場活性化の鍵が夜間経済だとし、「ニューヨークでは、夕食後にショーを観に行こうとなれば、スマホでチケットを発行し、そのまま行ける」と紹介。「ふらっと観に行ける環境を作ることが、日本の文化を高めることにもつながる」と持論を述べた。夜間経済は指標や統計がないと指摘されており、観光庁次長の水嶋智は「予算をとって研究したい」と、意気込みを語った。

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