デザインとエンジニアリングの越境行為がイノベーションを生む
ものづくりにイノベーションを起こす手法として注目される「プロトタイピング」。日本においてこの分野をけん引するひとりが、気鋭のクリエイター集団「タクラム・デザイン・エンジニアリング」代表の田川欣哉だ。「プロトタイピングとは、試作を繰り返し、短期間で製品のベースを生み出すこと。言わば、まだ世界に存在しないモノを形にする正解のないものづくりと言うことができます」。田川は東京でエンジニアリングを、その後ロンドンでデザインを学んだ。現在はデザインと工学の深い知見をもとに、両者の視点から課題にアプローチする「デザイン・エンジニア」を名乗る。
「技術革新のスピードが加速する昨今、製品やサービス自体の仕組みもどんどん複雑になっています。そうなると、従来のように専門家が分業する体制では間に合わない。複数のスキルを持つひとりの人間が、異なる領域を振り子のように行き来しながら、統合的にものづくりを行う重要性がますます高まっていると感じています」。
だが田川は、こうした新しいものづくりを行う土壌が日本にはまだ足りないと指摘する。「日本社会は極端に同質性が高く、構造的にイノベーションが起きにくい。そんな状況を変えるべく、東京大学とイギリスのロイヤル カレッジ オブ アート(RCA)と共同で『RCA-IISデザインラボ』を設立しました」。ラボは東京大学生産技術研究所内にあり、外部企業を招いたワークショップも行っている。「現在、多国籍な生徒や教師陣が集まり、先端的な研究に取り組んでいます。ここをアメリカの『MITメディアラボ』のような世界最先端の研究機関に育てることが大きな目標です」