Amy Lame
Caroline Teo
Caroline Teo

夜のロンドン 24時間年中無休の都市

ロンドンからシティ・イノベーション分析

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タイムアウト東京 > Open Tokyo > 夜のロンドン 24時間年中無休の都市

in collaboration with 日経マガジンFUTURECITY

Text by Marcus Webb

タイムアウトがロンドン初のナイトシーザーを取材。ロンドンのナイトエコノミーの成長に東京も続くことができるか聞いた。

ロンドンの夜間経済活性化を託されるエイミー・ラメ

市場規模は260億ポンド(約3.7兆円)に匹敵

「私のことをヒーローと思っている人もいますし、夜にしか表に出てこない人間だと考える人もいます。ですが実際は、市役所をベースに働いているんですよ」。そう語るのが、ナイトシーザーのエイミー・ラメだ。「ロンドン市長から任命され、街のナイトライフの振興に取り組んでいます。ロンドンの夜間経済の規模は260億ポンド(約3.7兆円)に匹敵し、無視できない存在なんです」。

ラメは、首都のナイトタイムエコノミー再生のため、陣頭指揮を任されている。「警察や酔っ払い、地方自治体、住民など、様々な人と緊密に連携し、どんなナイトライフを目指すべきかを考えています」。彼女が掲げるビジョンは、夜の街が日中と同じくらい活気に満ち、開かれている姿。夜型の人でも、朝食までの間にディナーに出掛けたり、ショーを観に行ったり、博物館で恐竜の骨を観察したり、ジャズコンサートに出掛けたりできなければいけない。そうすれば、パーティー好きも、日中ずっと働き詰めの人も、ロンドンを最大限に満喫できるはずだ。

ラメの考えるナイトタイムエコノミーの定義は幅広い。「荷物の配達からゴミ収集、リサイクル、製造業、運送業、バー、クラブ、劇場、交通まですべてが含まれます。人が日中に行っていることとまったく同じです。ただ時間が夜なだけです」。

様々な人々との緊密な連携を大切にしているというラメ(右から2人目)

夜間の公共交通網を拡充

2016年の市長選で、サディク・カーンはロンドンの文化的生活の強化を優先事項の一つに挙げ、ナイトシーザーという役職の創設をマニフェストに掲げた。ボリス・ジョンソン前市長が「夜間委員会」を設けて6ヶ月間の調査を行い、ナイトライフの重要性が示されたことで、その方針は強化された。市によると、125万の職(ロンドンのすべての職の約8分の1)が夜間経済に支えられている。ラメらの取り組みが結実すれば、2030年までにさらに115000もの職が加わるという。新たなビジネスチャンスの可能性は計り知れない。

中心となる施策が、ロンドン地下鉄の主要路線を24時間運行するナイト・チューブだ。このサービスについて、初めて本格的に議論されたのは、2012年のロンドンオリンピック・パラリンピックの頃。当初は大会期間中のみ行う予定だったが、恒常的取り組みにしようという機運が高まり、2016819日にセントラル線とヴィクトリア線で実行に移された。その後はジュビリー線、ノーザン線、ピカデリー線も加わり、昼夜を問わずほぼすべての主要地域を行き来することができるようになった。ナイト・チューブは最初の1年で17100万ポンドの経済効果をもたらした。カーンはさらに、夜行バスにも新規路線を追加。2000年以降、夜行バスの乗客数は倍になり、123もの路線が一晩中運行を行うようになった。

ロンドンの地下鉄

就任後2週間経たずに伝説的クラブの営業を再開

交通機関の整備により、夜間活性化の準備は整った。次の課題は、夜間営業店の相次ぐ閉店に歯止めをかけることだ。2011年から2016年までの間に、市内のナイトクラブの数は半減し、バーとコメディクラブ、パブの数も大幅に減少した。これには若者の飲酒習慣の変化が大きく影響している。国家統計局によれば、飲酒をしないロンドン市民は、2005年から2013年の間だけでも40パーセント増加したという。加えて、主要な通りの住宅地化が進んだことで、パブやクラブには騒音を出さないようにというプレッシャーがかかることになった。

カーンらには、人々がもっと夜に外出しなければ、夜間経済が衰退していくのではないかという懸念がある。例として挙げているのが、20169月にライセンスを剥奪された「ファブリック(Fabric)」の営業停止だ。ラメは、この伝説的クラブの営業再開を任された。米ニュージャージーに生まれ育ち、1992年にロンドンを訪れて以来、バーで働いたり、DJとして活動したりしたほか、カムデン区長も務めたラメはうってつけの人物だった。彼女は、20年以上にわたり自分のクラブナイトも開催している。

ナイトシーザー就任後、ラメは早々に成功を収めた。「就任から2週間経たず、ファブリックの営業再開を実現させました。その後は、地方自治体やディベロッパー、オーナーなどの仲介にさらに力を注ぎました。すべては、ロンドンが築き上げてきた多様なナイトライフを守るためです」。ラメは毎月、企業や夜間労働者、一般市民らの考え方を理解するため、彼らとの話し合いの場を設けている。また施設の防音設備の設置費用を、市が負担することで、営業時間の延長や、店舗の出店を後押ししている。

2017年1月に営業再開を果たしたファブリック

重要なのは、各都市がそれぞれに合った方法を見つけること

カーンは、夜間経済の振興を目指す「ロンドン24時間営業構想」の声明の中で、都市を24時間無休にするのは簡単ではないと認めている。「私はロンドンに、ナイトライフの分野でグローバルリーダーになってほしいと考えています。しかしパリやニューヨーク、ベルリン、東京、サンフランシスコもみな夜間サービスの拡充を目指しており、厳しい競争の真っ只中にあります」。彼が描く構想は、2012年のロンドン大会開催時に市が立てた計画とよく似ている。それは、ロンドンの夜は「安全」かつ「開放的」で、「多様性に満ち」「誰もを歓迎する」ものであるべきだというものだ。

ロンドン大会の勢いを利用し、旅行者がより訪れやすい街にするという変化を実現させたことは、東京にとって興味深い前例と言えるだろう。「重要なのは、各都市がそれぞれに適した方法を見つけ出すことです。ベルリンの夜間経済振興計画はクラブとバー、企業によって資金調達を行っていますし、アムステルダムでは非営利組織を設置して運営しています。ニューヨークは先日、ナイトライフディレクターの候補者募集を始めました」。東京のナイトライフ活性化についても、ラメは期待を寄せている。「自分に合ったやり方を見つけ出すことが必要です。多くの人が注目する東京大会は、まさにうってつけの機会と言えるでしょう。少なくとも、私は注目しています」

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