夜がもたらす価値と商業主義的モノカルチャー
まず初めに、ナイトタイムエコノミー推進協議会とChicks On A Mission Tokyoがこれまで行ってきた活動を共有し、ナイトタイムにおける夜の観光・経済・文化的価値についてのトークが繰り広げられた。
日本におけるナイトタイムエコノミーの議論は2016年に実現した風営法改正に遡る。法改正を契機としてどのような夜間市場を創出していくか。日本におけるナイトタイムエコノミーの議論は、常にナイトライフ先進都市のアムステルダムから多くの示唆を受けて推進されてきた。
インバウンド観光の受け皿として注目されていたナイトタイムエコノミーだが、経済効果だけではない文化的価値や社会的価値を忘れてはならない。これらの重要性を明らかにするとともに、都市の創造性を可視化しつつ、ローカルと行政との連携体制についての課題を示したアムステルダム・ベルリンと東京によるリサーチ「Creative Footpront TOKYO」は以前タイムアウト東京でも紹介した。
またナイトシーン、クラブシーンやエンターテインメント業界で活躍する女性たちの活動環境の向上、シーンの活性化、安全化と環境の構築などを目的とする「CHICKS ON A MISSION TOKYO」もアムステルダムとの共同プロジェクトだ。2017年にアムステルダムで開催された国際会議「CHICKS ON A MISSION」に招待された臼杵杏希子は、世界中のナイトシーンで活躍する女性にさまざまな意見があるということを確認し合うこの会議に大きな魅力を感じ、日本のクラブシーンにとって必要であると確信したと話す。
臼杵杏希子:アムステルダムでの「CHICKS ON A MISSION」から帰国した後、日本でもDJやアーティスト、議員など多くの賛同者を得て活動を開始しました。これまで各種メディアでの情報発信、トークイベントなどでのネットワーキング、アムステルダムのアーティストとのコラボレーション、国際女性デーでのDJイベントなどさまざな活動を行ったきましたが、パンデミック後に向けて今後活動を活発化していきたいと考えています。
フェムケ・ハルセマ(以下、ハルセマ):オランダは長い年月にわたり、ナイトライフを大切にしてきました。アムステルダムの心臓部であり、アイデンティティーでもあるのです。
ナイトライフには社会階層がなく、文化的な分断もありません。私たちの生活には女性や異なる民族、宗教に対するハラスメントがあるのは周知の事実ですが、夜という時間帯は、そうした差別や文化的な階層を取り払ってくれます。若者にとって夜は、日中のしがらみから開放され、自由になり、自身のアイデンティティーを発見していくための大切な場所なのです。
また、疎外されたグループがエンパワーメントを引き出す場所でもあります。例えば、アムステルダムのLGBTQ+コミュニティーは、ナイトライフを通じて本当に活発になりました。アムステルダムのある通りはゲイコミュニティーの人々がいつも夜に出歩く重要な場所で、新しいトレンドや新しい議論が始まる場所であり、人々が安心できる場所でもあります。
トランスジェンダーやドラァグクイーンなど、多くの疎外されたグループがナイトライフに自由を見いだすのも、同じことがいえるでしょう。ナイトライフは、クラブや音楽施設、ファッション産業、ポップカルチャー全般にとって、経済的にも大きな意義を持つものです。人々は互いに顔を見合わせながら、どんな服を着たいか、どんな人になりたいか、どんな音楽が好きかを考える。そして、そこからトレンドが生まれるのです。
しかし、良いニュースばかりではありません。ここ10年、コロナ禍以前から、アムステルダムのナイトライフはどんどん活気がなくなってきています。その理由の一つは、中心街で商業化が進みすぎたことです。商業的な要素が少ないナイトクラブが街の外に追い出されてしまいました。