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2023年4月にオープンしたばかりの歌舞伎町タワーで開催された「ZERO TOWER FES」に行ってきた。2部構成、全7会場を使用した回遊型タワーフェスで、僕が観覧したのは第1部、デイタイムの後半戦である。本稿はその様子をレポートしたものであるが、そのまえに同所についての個人的な所感を少々書いておきたい。
SNSユーザーであれば周知の通り、歌舞伎町タワーは現在、あらゆる意味において話題をかっさらいまくっている物件であるが、僕はこの日まで足を踏み入れるどころか、まだ建物を目視したことさえなく、「一体どんなもんだべか~」という物見遊山テンションでホテホテ出かけてったのだが、なんつーか色々と感じ入ることの多い施設だった。
サイバーでハイパーでエキゾチックなフロアデザイン
エスカレーターを上ってすぐの新宿カブキホール 歌舞伎横丁は、「祭りをテーマにした次世代エンターテインメントフードホール」とのことだが、まぁすげえ簡単にいうと『スト2』のエドモンド本田ステージの豪華版みたいな感じだ。
外国人が思い描く、サイバーでハイパーでエキゾチックな日本の歓楽街のイメージを逆輸入し結晶化したようなフロアデザインははっきりとイミテーションであり、それ自体は別にいいのだが、かの「ミヤシタパーク」の渋谷横丁のようなグロテスクさが滲んでいると感じた。こうした横丁が歌舞伎町につくられたというのはとても現代日本的だと思う。色々な意味で。
異形で現代日本的なナイトスポット
で、地下の1~4階がライヴホールZepp Shinjuku (Tokyo)、クラブゼロトウキョウなのだけれども、これは2つの施設が併設しているワケではなく、営業時間帯によって名称が変わる仕組みになっているそうだ。
前述した横丁とは打って変わって、地下フロアは全体的に削ぎ落とされたソリッドなデザインだった。1960年代に思い描かれた近未来都市をアップデートしたような意匠で、特にエスカレーターなどはなかなか面白く、『ここから非日常空間ですよ~』と頭のスイッチを切り替えるような役割を果たしていると思う。
全階にバーカウンターがあり、廊下で仕切られたトイレ(しかも全部作りが違う)が設置されているあたりもとてもアテンド力が高い。フロアデザインだけでなく照明や音響にもこだわりを感じる。
だが、最も気になった点はその雰囲気にある。なんというかヒリヒリしないのだ。精緻にデザインされたデカダン、希釈、ろ過されたストリートといったムードが渦巻いていて、まったくヒリつきがない。これはナイトスポットとして異形であると同時に、とても現代日本的であると思う。
急に誇大妄想めいた話になるが、石原都政が打ち出した浄化作戦の極致ではないか、というインプレッションを受けた。この場所がこれからどう発展していき、新宿、ひいては東京にどのようなフィードバックを与えていくかがとても気になる。
LOVEの波動
長々と所感を述べたが、ここからイヴェントレポートへ移る。
まず歌舞伎町タワーの入り口そばでプレイしていたのがDJのnasthugである。フェスのラインアップが映し出されたクソデカスクリーンの真下、そしてテナントで入っているスターバックスのウィンドウの真ん前という、冷静に考えて結構すごいロケーションに組まれた仮設ステージで、トラップやダンスホールをかけるnasthugの姿はひとことでいうとすげえクールだった。笑顔を浮かべ、音と戯れるように身体を揺らしながらプレイするnasthugにはLOVEの波動がみなぎっていて、フェスの観客のみならず多くの人々が足を止めていた。
次に観たのは、地下4階でやってたバンドALIである。これまで『お前絶対好きだと思う』とか友人に言われながらもライヴ未鑑賞だったALIだが、すばらしい完成度だった。ひじょうにエンターテインメント性の高いライヴ・ショーで、70'sソウルマナーに則りつつもジャパニーズ・ポップスとしての強度がある。ルーツ・ミュージックへの信仰心と大衆性の両立。おそらく立ち位置としていちばん近いのはスカパラだ。1500人収容可能というホールもほぼ埋まっていて、この日僕が観た中では一番の盛況ぶりだった。
違うジャンルを別のテンションで
続いて観たのはZEN-LA-ROCKだ。パンパンに詰めれば100人入るぐらいの薄暗いフロアにソリッドな照明が走り、祝祭感に溢れたハッピーなDJで若者たちがブチ上がっていた。さらに地下2階へ行くと、高級感のある豪奢なデザインのバーでは、明るめのゆったりしたスペースで椅子に腰掛けながら音楽を愉しむ観客たちの姿が印象的だった。
そのすぐ裏側には「BOX」というフロアがあり、DJのGYPSYがプレイ。僕が足を踏み入れたとき、体育倉庫ぐらいの広さのフロアには誰もいなかったのだが、ゴキゲンなR&Bからヒップホップに乗って調子をこいていると、ノリの良い観客がなだれ込んできた。
こういうフロアごとに雰囲気やジャンルの違う音楽がそれぞれ別なテンションで楽しめる感じは、昨年惜しまれつつも閉店した渋谷VISIONに少し似ていると思う。
驚愕のエンディング
飲酒をしてから一気に17階まで駆け上るとバック・トゥ・バックがはじまっていた。パーティールームではCYKが、テラスではYAGIがプレイ。第1部終了間近ということもあり人影はまばらだったが、ここでも僕は思う存分楽しんだ。さていよいよラスト、RED VELVETのTシャツを身にまとったオカモトレイジが最後の楽曲をプレイしたとき、僕は己の耳を疑った。そして爆笑しながらアホみたいに踊った。
彼がかけたのはなんと『ガキンチョでOK!』という、僕が作詞・歌唱した楽曲だったのである。こんなエンディングがあるか。僕はTシャツを脱ぎ捨て、上裸で踊った。「向かい風乱すhair style うつむいたらそこで負けさ さぁ今夜は一体何をしでかそうか?」、当時大友康平と氷室京介をキャンプ的価値観で鑑賞し大いに影響を受けていた僕の歌が、摩天楼に鳴り響く。なんというか、痛快だった。
何に対してなのかは自分でもよくわからないが「やってやった」というような気分だった。歌舞伎町タワーで初めて上裸で踊ったのはおそらく僕だろう。しかも自分の歌で。歌舞伎町タワーのこれからに幸あれ。
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