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六本木の「国立新美術館」で「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」がスタートした。日本初公開のドレスなどオートクチュールのルック110体をはじめ、ドローイング、写真、映像など、貴重な資料262点を紹介。イヴ・サンローラン没後初の国内大回顧展にふさわしい、圧巻の展示構成となっている。
イヴ・マチュー=サン=ローラン(Yves Henri Donat Mathieu-Saint-Laurent)は1936年、フランス領アルジェリアのオランで上流階級の家に生まれた。絵本の装丁や挿絵などを描くうち、ファッションデザインに魅了されパリへ赴く。クリスチャン・ディオール(Christian Dior)に才能を認められ、19歳でアシスタントになるも、ディオールが急逝。弱冠21歳でブランドの後継者となり、熱狂的な人気を集めた。
1961年、パートナーのピエール・ベルジェ(Pierre Berge)らとオートクチュールメゾン「イヴ・サンローラン」を設立。2002年に引退するまでの約半世紀、モードの世界で活躍し続け、2008年に71歳で亡くなった。
ジェンダーイメージを超越、普遍的なエレガンスへ
全12章で構成された本展は、サンローランの半生だけではなく、革新的なスタイルの数々を提案した彼のクリエーションの全貌と、現代女性のファッションの変遷をもたどることができる内容だ。まず、ファッションデザイナーを夢見た10代の頃の資料群や、ディオール時代のアイコニックな作品を展示した「第0章」からスタートする。
続く第1章では、1961年1月に発表した最初のオートクチュールコレクションを紹介。ランウェイのフィナーレを想起させる展示空間が広がり、スカートスーツやピーコ―ト、白いパンツにミュールを合わせたルックの数々と、生地サンプルのついた当時コレクションボード、バックステージの写真などが並ぶ。
サンローランは、女性解放運動やヒッピームーブメントなど、時代や文化が大きく動いた1960年代に、男性のファッションアイテムというイメージが根強かったパンツスタイル、タキシードやジャンプスーツ、サファリルック、トレンチコートなどを、女性が着るアイテムとして次々と提案。
紳士服のカッティングの美しさや快適性、機能性や実用性を維持しつつ、シンプルさとエレガンスを組み合わせ、女性をより美しく見せるシルエットやデザインを生み出した。
彼は「ファッションは時代遅れになるが、スタイルは永遠である」という言葉を遺している。展示室に並んだルックは、30~40年近く前のものとは思えない、まさに普遍的なスタイルだ。
1968年には、手に届きやすい既製服(プレタポルテ)が時代の主流になると読み、「サンローラン リヴ・ゴーシュ」をいち早くオープン。既製服が当たり前となった現代、女性のワードローブの定番アイテムやスタイルの数々は、サンローランによる革新から始まったと言えるだろう。
至高の芸術品、オートクチュールコレクション
第3章から第6章にかけては、オートクチュールコレクションのアイテムが、惜しげもなく展示されている。そもそもオートクチュールとは、限られた顧客のためだけに、最高の素材と職人の技術の粋を集め、オーダーメイドで作られる特別な一着のこと。パリ・クチュール組合に加盟しているメゾンが手がけ、1945年から法的に保護されている。
サンローランは、多大なるインスピレーションを得たモロッコ・マラケシュの地をはじめ、日本や中国、アフリカ、スペインなど世界各国の服飾文化や、古代から近代までの西洋の服飾史をイメージソースに、特別な顧客のため、多彩なデザインの一着を作り続けた。帽子からシューズ、ジュエリーまで、完璧にコーディネートされたルックが並んだ様子は壮観だ。
「イヴ・サンローラン美術館パリ」の全面協力によって実現した展示は、多くのアイテムがアクリルケース越しではなく、直接、間近で鑑賞できる。艶やかで美しい発色のシルクや漆黒のベルベットといった最高級のテキスタイル、繊細な刺しゅうや上質なレース、宝石のようなボタンやビーズなど、「身につけられる至高の芸術品」を、ぜひじっくりと楽しんでほしい。
演劇や文学、日本の文化など、ジャンルを超えたクリエーション
サンローランはオートクチュールの製作と並行し、映画や演劇など数多くの舞台芸術も手がけていた。実現しなかったものもあるが、スケッチや当時のグラフィック、実際の衣装も数多く紹介されている。
カトリーヌ・ドヌーヴ(Catherine Deneuve)が主演した映画「昼顔」の衣装や、前衛芸術家であり詩人でもあったジャン・コクトー(Jean Cocteau)、バレエダンサーで振付家のローラン・プティ(Roland Petit)が芸術監督を務めた舞台の衣装などが展示され、幼少期から演劇や舞台に魅了されていたサンローランの情熱が伝わってくるようだ。
また、1965年発表の「モンドリアン・ルック」だけではなく、1980年代にかけ、キュビズムやポップアート、ゴッホやマティスなど、アートへのオマージュとも言えるオートクチュールコレクションを多数発表している。多くの芸術家たちと交流し、文学作品やバレエ団「バレエ・リュス」にも関心を寄せるなど、幅広い文化芸術に造詣が深かったことがうかがえる。
時代とともにありながら、創造性豊かなコレクションを発表し続けたサンローランは、生前、3度ほど来日。1963年と1975年に東京・帝国ホテルなどでオートクチュールコレクションを発表し、1990年には、現在の西武池袋本店にかつてあったセゾン美術館で、国内初の回顧展を開催している。
展示の終盤では、日本の文化がデザインソースとなったルックや、ビジネス面でも多大なる協力関係にあった日本との関わりについて、当時の資料などで紹介。また本展の公式図録では、当時の回顧展を手がけた小池一子がエッセイを寄せた。
来場者だけが購入できるグッズが多数
特設ショップでは、本展でしか手に入らないオリジナルグッズが販売されている。デザインと実用性を兼ね備えたロゴ刺しゅう入りのトートバッグやシックで美しいノート、全40種のポストカードがセットになったボックス、アクリルキーホルダー、ポスターなど、どれも完売必至だろう。
展覧会は2023年12月11日(月)まで。事前予約は不要で、毎週金・土曜日は20時までオープン。また、10月7日(土)〜9日(月・祝)は高校生は無料で観覧できる(要学生証提示)。
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