ニュース

シカゴのピザ屋にレトロなレンタルビデオショップが新オープン

目指すのはゆっくりと映画を楽しむこと、オーナーは映画監督のジョー・スワンバーグ

Emma Krupp
テキスト:
Emma Krupp
Joe Swanberg Analog
Photograph: Emma Krupp
広告

シカゴ市の北部に位置するレイヴンズウッドに、Borelli'sというピザ屋がある。最近この店が入る建物のハミルトン・アベニュー側の入り口に、「Analog Pizza & Video Store」と描かれた看板が掲げられた。週末の20時以降、この場所で営業しているビデオレンタルショップのものだ。この店は2021年5月上旬にオープンしたばかり。オーナーは、『Easy』や『Drinking Buddies』などの作品を発表してきた映画監督のジョー・スワンバーグだ。レンタルできるのは、彼自身のコレクションである約275本のVHSビデオ。ここでは上映会も行われ、映画を見ながらピザやビールも楽しめるので、「長居」もできる。

10代の頃、ビデオレンタルチェーンの一つであるHollywood Videoで働いていたスワンバーグは、映画館の閉鎖やオンライン映画の普及に幻滅。最近サブスクリプションサービスの契約を解除し、ゆっくりと映画を楽しみたいと考えていた彼は、ビデオレンタル店、特にピザも扱う店をオープンすれば、懐かしさをまた味わうことができると思いついた。

1カ月半ほど前、スワンバーグはBorelli'sにアプローチ。このピザ店の奥の部屋で、営業時間外にビデオレンタル店を開き、ビデオのレンタルとピザの購入がワンストップで済む、昔ながらの場所を作りたいと相談を持ちかけたのだ。

「この場所でやりたいと思った理由の一つは、Borelli'sに残る1980年代のファミリー向けピザ店の雰囲気。この店に来ると、いつも子どもの頃を思い出していたので、ぴったりだと思ったのです」と、スワンバーグはレンタルビデオ店を始めようと思いついた時のことを語ってくれた。

紆余(うよ)曲折を経て、スワンバーグの新しい店、Analog Pizza & Video Storeが誕生。彼は年間60ドル(約6,537円)で、ビデオが借り放題(一度に借りられるのは2本まで)というレンタルプランを設定し、ビデオデッキや本、レコードなどのグッズも扱うことにした。店の営業時間中、一部ではあるがもちろん、Borelli'sのピザやドリンクも買うことができる。

店名に「アナログ」とある通り、スワンバーグはショップにまつわる全ての業務をパソコンを使わずにこなそうとしている。ウェブサイトやソーシャルメディアのページもなく、会員になりたい客は直接店に出向き、スワンバーグやスタッフとやりとりしなければならない。会員管理に活用されているのは、パタパタと回転するローロデックスの小さな名刺ホルダーだ(スワンバーグは「私はデータを管理するが苦手」と説明)。追加作品やプログラムの情報などを含む、連絡事項やニュースも郵便で送付される。

古風なアプローチは、店内の装飾にも及ぶ。80年代の雰囲気を醸し出しているキャンディーカラーの棚、ネオンサイン、そして、Borelli'sに残っているヴィンテージのアーケードゲームが目を引く。

Joe Swanberg Analog
Photograph: Emma Krupp

このビデオレンタル店で、90年代の大ヒット映画をレンタルできると思ってはいけない。このショップは明らかにマニアックな映画ファン向け。そもそも、ビデオを見るためにはビデオデッキを持っているか、購入する必要がある。セレクションは、スワンバーグの個人的な好みに偏っていて、現在は約25年間かけて集めた個人的なコレクションで構成されている。

棚に並ぶのは、故リン・シェルトンの初期のドキュメンタリー、海外のアートハウス系作品、ラース・フォン・トリアーの大学時代のプロジェクト、『グッド・バーガー』や『クール・ランニング』といった90年代の人気作品など。数百本のビデオが近日中に到着する予定で、そうすれば在庫総数は約500本になる。ただ、今後もレアでユニークなビデオを探していくそうだ。

扱う作品についてスワンバーグは、「今増やそうとしているのは、例えば、PBS制作のアーティストに関する、古いけれどもクールなドキュメンタリー作品。BBC制作のモダンアートに関する8巻のシリーズのビデオは注文したばかりです。誰でも手に入るようなタイトルは避けて、徐々にそういうものを増やしていきたいと思っています」と教えてくれた。

彼はこのビデオレンタル店のキュレーションのプロセスを、レストランで観察したことになぞらえている。彼が注目した店では、品数の多いメニューは廃止し、少なくて、合理的な選択肢に絞っていたのだ。

Analog Pizza & Video Storeの棚は監督別、ジャンル別の区切りはあるが、どの作品をどう並べるかは、その日の担当者のキュレーションによって変わるという。スワンバーグは、客が自分の好みに合わせて、特定の日に訪れるようになるのが理想だと考えている。

「『ああ、あの人が働いていると、いつもメインストリームの作品を隠して、本物のパンクな作品を置いてくれるんだよな』と思ってもらえるようになりたいですね。あるいは、『この人はいつもミュージカルにスポットを当てている』とか」

現在のところ、年間会員になったのは27人で、スワンバーグは、現在の運営レベルだと、合計150人程度の年間会員を受け入れることができると試算。2021年初めにDavis Theaterで実施したイベント『Secret Saturdays』のように、いずれは、Borelli'sの屋上で新作映画の定期上映を行うことも目指している。また将来的には、ピザと映画の両方を配達したり、ビデオデッキのレンタルを提供したりすることも考えているという。ただ、当面の目標は、世界が孤立から立ち直り始めているなかで、映画を一緒に体験したい人たちのコミュニティーを作ることのようだ。

「夢のような話ですが、夜の9時から11時まで屋上で映画を上映。その後、下に降りてきて、もっと誰かと映画を楽しみたい人のために(メインルームで)さらに映画を上映することができるかもしれません。みんながどう一緒に過ごせる方法を考えながら、この夏を送ることにとてもワクワクしています」

Analog Pizza & Video Storeは、Borelli's(住所:2124 W Lawrence Ave) のバックルームにオープン。営業時間は、木〜土曜の20〜24時

原文はこちら

関連記事

1980年代のエアロビクラスをオンラインでリバイバル

ピザレストランのパイオニア、シェーキーズ 渋谷店が復活

ロンドン流、持ち帰りピザのちょい足しレシピ 12選

アメリカでピザ好きが多い街はやっぱりニューヨーク

東京、昭和レトロなラブホテル6選

最新ニュース

    広告