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中目黒駅近くのアートギャラリー「N&A Art SITE」で、現代ドイツを代表する映画監督で写真家、ヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders)の展覧会「ヴィム・ヴェンダースの透明なまなざし / Wim Wenders’s Lucid Gaze」が開幕した。
30年以上前に公開された映画「夢の涯てまでも」から制作された、鮮烈な電子絵画作品など、初公開の貴重な作品や映像が楽しめる展示だ。同作でアソシエイトプロデューサーを務めた御影雅良(みかげ・まさよし)が企画し実現した。
劇場公開中の最新作「PERFECT DAYS」が、最高傑作とも言われるほど大きな話題を集める今、写真家・アーティストとしてのヴェンダースの魅力を改めて味わおう。
ヴィム・ヴェンダースは1945年ドイツ・デュッセルドルフ生まれ。ミュンヘン・テレビ映画大学で実験的な短編作品を制作した後、「ゴールキーパーの不安」(1971)で長編映画デビュー。「パリ、テキサス」(1984)で「カンヌ国際映画祭」の最高賞であるパルムドールを、「ベルリン・天使の詩」(1987)でカンヌ国際映画祭で監督賞を、「ミリオンダラー・ホテル」(2000)で「ベルリン国際映画祭」の銀熊賞を受賞したほか、ファッションデザイナーの山本耀司を追った「都市とモードのビデオノート」(1989)や「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」(1999)などのドキュメンタリー作品も手がけている。
長年にわたって小津安二郎監督の作品と、日本や日本の文化を敬愛しており、1983年4月の来日時には、小津が描いた“東京”を探して歩き回り、『東京物語』主演の笠智衆(りゅう・ちしゅう)や、小津組の名カメラマン厚田雄春(あつた・ゆうはる)との対話を撮影し、『東京画』(1985)として発表した。
「エレクトロニック・ペインティング」全12点を初公開
本展の由来である映画「夢の涯てまでも」は、1991年にドイツ、アメリカ、フランス、オーストラリア、日本の合同で制作されたSF大作。主人公が世界を旅しながら撮影したイメージを、盲目の母親が、最新鋭の機械を通して脳内で見る様子が作中で描かれているが、まさにそれが本展で初公開となる電子絵画作品「エレクトロニック・ペインティング(Electronic Painteing)」全12点につながっている。
ヴェンダースは、誰も観たことのない映像表現を生み出すべく、当時、世界最先端と言われた日本の「ハイビジョン(Hi-Vision)」技術を用いて、「夢のシークエンス」と名付けた一連の映像作品を完成させた。制作時は東京に滞在し、8ミリフィルムや16ミリフィルム、写真やドローイングなどのアナログデータをデジタルデータに変換できる、ソニーのプロトタイプ機材が揃ったNHKの編集室へ通い詰めたという。
また当時、諸般の事情でお蔵入りとなった「エレクトロニック・ペインティング」のプリント12枚セット「ELECTRONIC PAINTEING BY WIM WENDEERS」が、30年以上の時を経て、本展の会場で購入可能に。長らく倉庫で大切に保管されてきたため、新品同様の状態、かつ限られた点数のみしか制作されていないので、世界的にみても非常に貴重だ。
会場では、笠智衆に宛てたヴェンダースの直筆サイン入りの「ELECTRONIC PAINTEING BY WIM WENDEERS」のケースも展示されている。残念ながら「夢の涯てまでも」公開翌年に笠は亡くなってしまったため、最晩年の貴重な出演作品となった。
「パリ・テキサス」撮影時の写真作品も展示
本展では、写真家としてのヴェンダース作品も楽しめる。風景写真のシリーズ「Written in the west」(1983)は、「パリ・テキサス」の撮影準備のため、テキサス州やニューメキシコ州、カリフォルニア州の誰もいない高速道路を、ドライブしながらロケ地を探した旅で撮影されたもの。ヴェンダースの写真家としての才能が広く知られるきっかけとなった。
ヴェンダースのフィルターを通して収められたアメリカ中西部の風景は、フィルムカメラならではの色合いや味わいと、今となってはもう存在していない古き良き時代の面影が相まって、私たちにさまざまなイメージを呼び起こさせる。作品一つひとつと丁寧に向き合ってみたい。
ここでしか見られないヴェンダースの貴重な資料が多数
会場では、ヴェンダースのファン、そして映画「夢の涯てまでも」のファンにはたまらない貴重な資料が数多く展示されている。例えば、劇場公開された時の、日本やフランス、ドイツで販売された映画パンフレット、イギリスで公開されたときのプレスキットや、オリジナルサウンドトラックCDのブックレット、「エレクトロニック・ペインティング」を制作しているヴェンダースらのスナップ写真などだ。
また、会場で上映されている1時間程のドキュメンタリー映像「ヴィム・ヴェンダース イン 東京」も必見だ。1990年から91年にかけて東京に滞在し、笠智衆や三宅邦子らと映画「夢の涯てまでも」を撮影する様子や、映像作品「夢のシークエンス」をNHKの編集室で制作する姿を知ることができる。
さらに、アーティストとしてのヴェンダースを知ることのできる貴重な書籍も手に取れる。イタリアで発刊された大判の書籍「ELECTRONIC PAINTEING」には、「エレクトロニック・ペインティング」シリーズのほか、1960~70年代にヴェンダースが手がけたペインティングや墨のドローイング、フォトコラージュなどが掲載されている。日本では滅多に読めないであろう一冊なので、ぜひじっくりと眺めてみてほしい。
映画「夢の涯てまでも ディレクターズカット4Kレストア版」が上映決定
2月20日(火)からは、5時間を超える映画「夢の涯てまでも」のディレクターズカット4Kレストア版がスクリーンで楽しめる。「恵比寿映像祭2024 月へ行く30の方法/30 Ways to Go to the Moon」の地域連携プログラムの一環で、会場は恵比寿の「東京都写真美術館」。2月20日(火)から3月20日(水・祝)の期間、当日券(座席指定健)の販売のみで、10分休憩を挟む前後半制で上映される。
また、2月25日(日)には、上映前トークイベントも開催が決定した。「ヴェンダースがみた「過去から未来へのまなざし ―『夢の涯てまでも』から『PERFECT DAYS 』」と題して、本展を企画した御影雅良と、『PERFECT DAYS」の企画・共同脚本・プロデューサーの高崎卓馬が登壇予定だ。本展と併せて楽しんでほしい。
展覧会「ヴィム・ヴェンダースの透明なまなざし / Wim Wenders’s Lucid Gaze」は3月2日(土)まで開催中だ。
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