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Cop26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)が行われた2021年11月、開催地だったイギリスのグラスゴー市は、市中心部における自動車通行の禁止(カーフリー)を発表。一方、ニュージーランドの首都であるウェリントンでは、交通量の多い2つの大通りを歩行者に優しい道にする計画が承認され、アメリカのオハイオ州クリーブランドでは、市長が「車より人」を優先することを約束した。
世界の都市生活者たちは今、自分たちの住む街の在り方について、一様に「空間をもっと広く、車を少なく」というアイデアを選択をしている。その結果、自転車と歩行者に重きが置かれた都市の根本的な「リデザイン」が各地で進められ、また、パンデミックを機に大規模な都市計画が加速されるという状況も起きている。野心的な計画のいくつかが具体化し始める2022年は、都市の様相が変わる大転機となるかもしれない。
敏腕市長がリードするパリの歩行者天国化
例えば、フランスのパリ。同市では2022年、市中心部の4つ区でほとんどの車の乗り入れが禁止となる。住民や配達員を除き、合計約5.59平方キロメートルの広大なエリアで、自動車による通行ができなくなるのだ。
陣頭指揮を取るのは市長のアンヌ・イダルゴ。彼女はヨーロッパでも有数の密集都市であるパリにおいて、大胆な都市空間の解放政策を提案、実現することで名をはせている。彼女はすでに、汚染度の高いディーゼル車の利用を禁止。セーヌ川の土手を歩行者天国にすることにも成功した。2020年の市長選挙では、パリを人に優しい都市にすることを誓った政策が支持を集め、再選を果たしている。
イダルゴの1期目に、交通と公共空間分野担当し、現在は緑地分野の担当の副市長であるクリストフ・ナジドフスキーは、市中心部の歩行者天国化は、次のステップとして自然だったと言う。
「時代とともに歩むべきでしょう。21世紀では、都市の生活の質や魅力に、街の中心部を通り過ぎる車を含めて考えることはできません。車ではなく、木々や自転車道、テラスのための空間を回復させることが大事なのです」
バルセロナは6月から「スーパーブロック」を導入
スペインのバルセロナでも、中心街のアシャンプラ地区を対象に計画されている歩行者天国プロジェクトが、街の様子を変えようとしている。「スーパーブロック」と名付けられたこの取り組みでは、3本に1本の割合で道路の車通行を遮断。生まれた空間には、植物やストリートファニチャーを置いていくという。工事は2022年6月から始まる予定で、最終的には2030年までに、21本の道路をリモデルすることを目指している。
バルセロナ市長のアダ・クラウは、これまで3500台の駐車スペースを撤去、大気質改善のために街全体を低排出ゾーンとする政策を実行し、住民からは上々の評価を得ている。市の都市政策担当副市長のジャネット・サンスは、住民の意識の変化を感じているようだ。
「住民の意識もずいぶん変わりました。住みやすく、健康的な空間が必要だという認識が広がっています。煙と車でいっぱいの騒々しい汚染された都市にはもう満足できないのでしょう。私たちは都市がより良くなることを望んでいるのです」
これらの「革命」においては、歩くことを前提に街が作られているヨーロッパが先駆者のよう思えるが、同じような動きは、世界のほかの地域にも広がっている。
例えば、世界最大のカーフリーイベントを開催しているコロンビアの首都、ボゴタ。同地では、2024年までに280キロメートルの自転車専用道路を増やすという目標達成に向けて、整備が進められている。またニューヨークでは、ブルックリンのダウンタウン地区にある20もの道路が通りがカーフリーになる計画もある。
パンデミックを機に「カーフリー」が加速
パンデミックがこうした変化を加速させているという状況も見逃せない。ロックダウンや外出禁止令で、街には人がいなくなった。しかし不気味な反面、多くの人々はクラクションが聞こえないこと、空気がきれいなこと、空間的な広がりを感じることを歓迎したのだ。
各国が規制を緩和していく中では、社会的距離が確保できるモビリティを奨励することが重要視された。パンデミックをきかっけに、200以上の都市が道路の封鎖を発表したが、その多くで、「ポップアップ」だった自転車専用道路や歩道が最終的に常設化されている。
ミラノでは、同市がまだ新型コロナウイルスの壊滅的な第1波にあった中、市長のジュゼッペ・サラがロックダウン後の自動車利用を減らすために、35キロメートルの道路を自転車と歩行者に割り当てるというヨーロッパで最も野心的な計画を発表した。それ以来サラは、このパンデミックを機会に持続可能な政策を加速させようと、ほかの都市に呼びかけている。
見え始めた改革を受け入れるメリット
街の中心部が歩行者天国になることについて、まだ強く反発するドライバーもいる。「混乱を招くだろう」というのが彼らの意見だが、環境や健康上の利点がそれを上回ってきているといえる。ヨーロッパではいまだに大気汚染が毎年30万人の早期死亡の原因となっている。また、交通量が減ることで、道路もより安全になるだろう。実際オスロでは2019年、市中心部から多くの駐車場を撤去した後、歩行者と自転車の死亡者数がゼロになった。
一方、経済的メリットといったほかの利点はまだ見え始めたばかりだが、今後数年のうちに歩行者天国の存在を主張するのに役立つようになると思われる。パリの商店主たちは、歩行者天国によって配達に支障が出たり、商売に支障が出るのではないかと心配しているが、これまでのところ、むしろその逆の効果が現れている。
慈善団体Living Streetsの報告によると、ニューヨーク市のある交差点で歩道を改良したところ、小売店の売上がなんと48%も増加したそうだ。オスロでは駐車スペースを減らした結果、歩行者数が10%の増加を見せた。
「15分都市」も波及
都市での交通について、もう一つ次々と波及していることがある。それは「15分都市」という、日常生活に必要なものは全て、徒歩か自転車で15分以内にあるべきだとする考え方だ。
ソルボンヌ大学の教授、カルロス・モレノが最初に考案したもので、ヒューストンから成都までのさまざまな都市で採用されてきた。最近では持続可能な都市環境づくりにおける価値が認められ、2021年のオベル賞を受賞。気候変動対策に重点を置く都市主導の連合体、C40 Citiesが、新型コロナウイルス以降の復興の青写真として、このアイデアを推進するまでに至っている。
モレノは、「人々が必要なサービスに簡単にアクセスできるようにすれば、移動時間が減り、家族や同僚との交流の時間が増えて、より幸せになれるだろう」と主張する。
こうして見てきたように、交通量の減少は市民の幸福につながるのは間違いといえるだろう(例えばコペンハーゲンのように)。2022年にはこのチャレンジに取り組む都市がもっと増えることが期待できそうだ。
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