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ここ最近、我々を飲酒に走らせるものがあるとすれば、2年弱に及ぶ終わりのないパンデミックであると考えるのが妥当かもしれない。しかしコロナ禍のもとでは、ローアルコールやノンアルコールへの移行が盛んだ。
このトレンドは、「マインドフルドリンキング(mindful drinking)」「ソーバーキュリオス(sober curious)」「ノーロー(NoLo)」などのようにさまざまな呼ばれ方をする。呼び方はともあれ、このトレンドの台頭は、アルコール摂取に関する我々の考え方を揺るがすものといえるだろう。
シドニー在住の心理学者レイチェル・ヴージーによると、コロナ禍の浮き沈みが、人々が飲酒と真逆の行動に出ることに影響を及ぼしているという。
「パンデミックが始まった頃、つまり物事が本当に不確かだった時期と比べると、今の心理状況は大きく変わっています。パンデミック初期は何が起こるか分からないため、人々の反応は恐怖に基づくものが多かった。『もういいや、何でもやってやる、思い切ったことをしよう』と考える癖がつき、暴飲暴食のような不健康な習慣が増えました」
「一方、今人々が感じているのは、恐怖より不満。飲む量を減らすなど、自分の選択をコントロールしようとする傾向が強いのでしょう。例えば私のクライアントには、昨年ロックダウンから抜け出した時、調子が悪かったことを覚えている人が多いのですが、彼らはその時の身体には戻リたくないと考えています」
2020年の嫌な気持ちを晴らすための飲酒は、2021年のウェルネス復活への道を開き、マインドフルネスムーブメントを絶好のチャンスと捉えるホスピタリテー業界を刺激。その結果、飲みの席でも酒を控えることが簡単になった。タイムアウトロンドンのフード&ドリンクカテゴリーのライターであるアンジェラ・フイは、そう分析して次のように語っている。
「ホスピタリティー業界では、ノンアルコールメニューに力を入れ、料理との相性もよく考えるようになりました。アルコール抜きでも飲みに行き、楽しむことが社会的に受け入れられてきたのです。ウェルネスの世界的なトレンドは、人々がアルコールの消費量や日々のライフスタイルにおける選択を見直すきっかけとなり、ローアルコールやノンアルコールの選択肢が増え、完全に酒を断つ人まで出てきています」
選択肢の多様化
さらに酒を控える動きには、「なぜ」の変化だけでなく、「どう」の進化も見られる。レモン、ライム、ビターズの甘ったるいモクテルや、コーラ1杯で済ませる時代は終わり、今ではアルコールが入っていない「スピリッツ(蒸留酒)」がますます多様化。そのおかげで二日酔いなしで「大人のドリンク」の洗練された味わいも提供できる。
ローアルコールやノンアルコールのビールやワインを造るメーカーも、製品の風味と仕上がりの向上に力を注いでおり、「模造品」でもこれまでの本物の酒に負けないくらいおいしく飲めるようになっている。アルコール業界の大手企業もこの急成長する市場に注目しており、2021年には、Gordon's Ginなどの大手ブランドがアルコール度数ゼロの代替品を発売した。
また禁酒生活を常態化させるという目標は、商品単位の動きを超え、専門の蒸留所やバーも登場。オーストラリア初のノンアルコール蒸留所であり、シドニー初のノンアルコールバーであるSeadriftのオーナー、キャロライン・ホワイトリーは、ローアルコール飲料やノンアルコール飲料がブームの背景は、単にアルコールが取り除かれただけ以上のものがあるという。
「人々はホリスティック(全体論的)なライフスタイルを望んでいます。彼らが知りたがっているのは、アルコールが含まれていない飲み物であることはもちろん、土地に根ざした持続可能な方法で調達された本当に良い原材料を使って誠実に作られた製品。生産者としても、そのような価値観を全て受け入れる必要があるのです」
飲酒サイクルの断ち切り
皮肉なことにホワイトリーは、ライフスタイルを変えるには、完全に禁酒をするよりも、時折酒を飲む方がより賢明な方法だと考えているようだ。
「最近は節度を守り、生活におけるバランスについて話す人が増えました。例えば金曜の夜は大いに飲み、平日はノンアルコールを飲む、というようなこと
ここ数年、私たちはストレスにさらされており、人々が悲しみを紛らわせたいと思うのは理解できます。でもノンアルコールという選択肢は、よりよい対処法を見つけるための手段となるでしょう。この種のスピリッツが果たせる本当に重要な役割は、ただ酒に溺れるというサイクルを断ち切ることなのです」
ケーキポップや液体窒素ジェラート、ターメリックラテのように、食べ物や飲み物の流行は移り変わるものだが、酒を控える動きに関してはどうだろうか? 一過性なのだろうか、それとも長く続くのか。タイムアウトニューヨークのフード&ドリンクエディター、アンバー・サザーランド・ナマコは、今のトレンドは実は昔からあるものだという。
彼女は「ローアルコールやノンアルコールのカクテルは、有史以来人々が初めて二日酔いになった時から、何度もトレンドになっています」と前置きし、こう続けた。「しかしニューヨークでは、昨夏のフローズンカクテルのブームや最近のマティーニメニューのブームのように、ノンアルカクテルに本格的に火がつくことはありませんでした。どちらも以前からバーやレストランで散見はされていましたが、最近の話題の新店のほとんどがこのジャンルを取り入れているのを目にしています」
飲酒は悪い習慣であると同時に、性格的特徴になることももあり得るが、ノンアルコールを選ぶことはことは、そうしたサイクルから抜け出すのに役立つ。
「2000年代半ばから後半にあったニューヨークのカクテル復活時代に飲酒年齢に達した年長のミレニアル世代は、強い酒を好むことが個性と見せかけて、ちょっとしたアルコールからの休憩を必要としているか、望んでいるかもしれない」とサザーランド・ナマコは締めくくった。
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