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日本の「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録される意義とは?

12月に最終決定、ユネスコの業務に精通する専門家・高橋政司にミニインタビュー

テキスト:
Genya Aoki
酒造りイメージ
Photo: AdobeStock_999283691
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日本酒や焼酎、泡盛といった日本の「伝統的酒造り」について、国連教育科学文化機関(UNESCO、以下ユネスコ)の評価機関は、無形文化遺産に登録することがふさわしいとする勧告を発表した。2024年12月2日(月)からパラグアイで開かれる政府間委員会で最終決定されれば、国内23件目の無形文化遺産の誕生となる。

500年以上前に原型が確立した日本の「伝統的酒造り」は、こうじ菌を使い、コメなどの原料を発酵させる日本古来の技術。異なる工程を1つの容器の中で同時並行して進行させる「並行複発酵」という世界でも珍しい製法で造られる。

杜氏(とうじ)や蔵人(くらびと)ら酒蔵の職人により、伝統的に手作業で、各地の風土や気候と深く結び付きながら伝承されてきた。製造される酒は儀式や祭礼行事などに使われ、いにしえから今日まで日本文化において欠かせない役割を担っている。

ところで、ユネスコ無形文化遺産に登録されると一体どんな意味や意義があるのか。実はよく分からない人もいるのではないだろうか。ここでは、元外交官で、諸外国との経済連携やユネスコの業務を通じた歴史文化・自然遺産に精通する専門家であるORIGINAL Inc.顧問の高橋政司に聞いてみた。

高橋政司(Photo: Kisa Toyoshima)
高橋政司(Photo: Kisa Toyoshima)

「世界遺産というと、まず思い浮かぶのは壮大なピラミッドや美しい歴史的建造物かもしれません。でも、ちょっと待ってください。世界遺産には『形のあるもの』だけではなく、『形のないもの』も登録されています。その形のないもの、つまり世界無形文化遺産とは一体何でしょうか?例えば、伝統舞踊、祭り、そしておばあちゃんから教わる秘伝のレシピなどもその候補に入ります。

『有形』と『無形』の違いは、単に形があるかないかだけではありません。有形は物理的な不動産、無形はその土地で人々が続けてきた行為や知恵、いわば生きた文化が登録されます。無形文化遺産の本質は、その文化を守り伝える人々がいてこそ成り立つことです。これは地元の祭りで太鼓を叩く若者たちがいてこそ、その祭りが存続するのと同じですね。国境なんて『そんなの関係ないよ』とばかりに超えていくのも、この無形文化遺産の特徴です。

さて、ユネスコの無形文化遺産登録にはいくつか条件があります。例えば、『その文化が世界中の人々にとって多様性や創造性を示しているか』や『ちゃんとその文化を守るための計画があるか』などです。しかし、無形文化遺産は有形のものと違って、時間が経つにつれてちょっとずつ変わっていくものです。新しい世代が『もっとこうしよう!』と、改良を加えることも。だから『守る』と言っても、石像をそのまま保存するのとはちょっと違う。変化も含めて守るのがこの保護の難しさであり面白さでもあります。

無形文化遺産は地域の人々が「大事にしよう」と思ってこそ、その価値が続いていくものなのです。ユネスコの登録によって、『これが、うちの文化なんだ!』と地域の誇りが生まれ、次世代にも引き継いでいこうとする気持ちが育つなら、それは素晴らしいことです。文化の保護と新しい活用、その絶妙なバランスを見つけるのが、我々の課題なのかもしれません」と高橋は語る。

これまで無形文化遺産には、国内では「山・鉾・屋台行事」や「和食」、2022年に加わった「風流踊」など22件が登録されている。「伝統的酒造り」が決定すれば、すでに世界的なムーブメントになっている日本酒をはじめ、焼酎や泡盛がさらに注目されることになるだろう。そこから世界に誇る地域の文化として成長し、その時代ごとに形を変えつつも、確かに継承されていくという未来を夢物語ではなく、思い描けることこそ大きな意義なのかもしれない。

なお、無形文化遺産に登録するために必要なことや有形文化遺産との違いを詳しく知りたい人は、高橋が以前に寄稿してくれたnoteを参照してみてほしい。

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