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『東京都コレクションでたどる〈上野〉の記録と記憶』が2022年1月6日(木)まで、東京都美術館で無料開催中だ。この展示は、東京都が所蔵する美術コレクションの中から「上野」に関する約60点の作品や資料を展示するもので、「第1章 戊辰戦争と博覧会の時代」「第2章 関東大震災と復興」「第3章 戦争と上野」「第4章 昭和30年以降」の4章で構成される。
担当学芸員の大内耀は、本展の出発点として「上野の美術館ではさまざまな展示が行われてきた。では、美術館から出て、上野という街はどうなっていたのか、といった疑問がある」と語る。
第1章では、戊辰戦争や内国勧業博覧会といった出来事を描いた浮世絵などを展示。まずは、橋本周延『東京上野不忍競馬之図』(1884年、東京都江戸東京博物館蔵)を見ておきたい。文明開化後の出来事を描いているにもかかわらず、空には虎や福禄寿など現実とは遊離したモチーフが描かれるほか、馬や馬に乗っている人物の体勢や身ぶりなどは明治期以前から描かれてきた騎馬像の典型的な描写を思わせる。時代が進んでいるのに、全てがそれにただちに追いつくとは限らないことを作品自体が教えてくれる好例だ。
変わったところでは1890(明治23)年、イギリス人曲芸師パーシヴァル・スペンサーが披露した、気球を用いた軽業などを描いた永島春暁『上野公園風船之図』(1890年、東京都江戸東京博物館蔵)も面白い。
鹿子木は、同じく震災を描いた『大正12年9月1日』(1924年、東京都現代美術館)を残しており、その形を正確に捉える造形力には定評がある。しかしこの作品では、省略された筆使いと抑制された色彩を採用することで、一層その被害の大きさを強調して伝えることに成功しているといえよう。ほかにも、1926(大正15)年に現在の東京都美術館の前身として開館した、東京府美術館を巡る資料なども充実している。
第3章のおすすめは、学芸員いちおしの桑原甲子雄『出征軍人留守家族記念写真』(1943年、個人蔵)だろう。上野で育ったアマチュア写真家として名をはせた桑原は、ほかの写真家と共に在郷軍人会の指揮下で出征軍人の留守家族を訪問、家族写真を撮影したという。
当時の上野駅の地下道は、戦争で焼け出された人々らが寝泊まりする場所でもあった。林忠彦『引き揚げ(上野駅)』(1946年、東京都写真美術館蔵)や佐藤照雄『地下道の眠り』(1947~56年、東京都現代美術館)は、そうした光景を活写し、歴史的な資料として本章では扱われている。
戦後を特集した第4章では、花見をするホームレスを写した内藤正敏の作品のほか、米田知子の作品なども展示される。米田の『東京都美術館(ゾルゲ/宮城)―「パラレル・ライフ:ゾルゲを中心とする国際諜報団密会場所」より』(2008年、東京都写真美術館蔵)では、ソ連のスパイ、リヒャルト・ゾルゲが東京都美術館付近でスパイ活動を行っていたという実話をもとにしている。
展示の後で上野の街を見渡せば、それまでなかった「記憶」をもって街の景色を見られるようになっているかもしれない。なお、東京都立の美術館と博物館の収蔵作品を検索できるウェブサイト、『Tokyo Museum Collection』では、本展にちなんで「上野公園」に関連する作品を特集している。こちらも併せて閲覧してみては。
『東京都コレクションでたどる〈上野〉の記録と記憶』の詳細はこちら
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