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「東京都現代美術館」にて毎年行われている、アートブックの祭典「TOKYO ART BOOK FAIR 2023」に行ってきた。今年は11月23〜11月26日(日)の4日間にわたって開催されているのだが、その初日に足を運んだ。
津々浦々、世界各国から集結した約300組もの出版社やギャラリー、ショップやアーティストが出展し、さらにはゲストを招いてのトークショーや子ども向けのワークショップ、サイン会やライヴパフォーマンスも行われるという、なんかもう文化系の楽園みたいな催しなのだが、いやもう超ヤバかったっスねー。
人が。
超ヤバかった客入り
僕が訪れたのは16時ごろだったのだけれども、現代美術館の前には『新型iPhoneの発売日ですかな?』と思うぐらいの長蛇の列ができており、会場内に入るとかなり盛り上がってるパーティー並みの人。とにかく来場客でゴッタ返しまくり。
しかも、なんかオシャレでシュッとしてる人ばっかりなんで、寝癖丸出しでひときわ見すぼらしい格好をした僕は肩を縮こまらせ、なるべく迷惑にならぬように息を潜めて回遊していたワケなんだけど、いやあ、それにしても面白かったー。面白すぎ。「こんだけ面白くて見応えあるんだから、そりゃあ人も集まるわな」っていう、マジで超志の高いイベントだった。
実は僕は今回が初めてではなく、去年、友人の出店ブースを間借りして自著のサイン会をやったので(3人しかサインしてない上に、そのうちの2人は僕から「よかったらサインとか要りませんか?」とありがた迷惑な営業をかけた格好なので、サイン会と呼ぶのもおこがましいのだが)、この盛り上がりっぷりは知らなくもないのだけれど、去年より人が多かったんじゃないだろか。
出店ブースの豊かすぎるバラエティー
まず地下2階と1階に分けられた出店ブースだが、もうこれだけで既に来る価値がある。「アートブック」と銘打たれてはいるけれども、実際に扱われる品目たるや大変バラエティー豊かで、画集、写真集、ZINE、漫画、絵本、ポスター、Tシャツ、トレーナー、キャップ、ポーチ、トート、ステッカー、ポストカード、カセットテープ、フィギュアなど多岐にわたる。しかも、そのどれもこれもがハイクオリティーでハイセンス。
古着屋のカウンターに手慰みに並べられるような雑貨類のレヴェルではなく、確かな審美眼と高い文化水準と熱量に裏打ちされた「グッド・シングス」ばかりなのだ。眺めているだけで、脳と視神経をつないでいる部分が喜んでいるのが解る。そしてその喜びは、ダイレクトな知的興奮をもたらす。
根底に息づくリベラルさ
僕はスッカリ興奮しまくりながら、「うわおー! なんだこのチープでケバくて異様にサイケデリックな漫画! 超かっけー! この超巨体の女性のヌードしか載ってない写真集もクソやっベー! なんだこれ、ハングルのタイポグラフィ!? 初めて見た! うわおー! 全部うわおー!」などと騒ぎ、混雑するブースを次々に見て回った。
本当にいろいろなものがあるが、その振れ幅はとても大きい。
気候変動や貧困、ジェンダーについて取り組んだZINEも、ハリウッドスターの卒アル写真に「ACID喰ったらGODに会える」という文言を書き添えたステッカーもある。
だが、その根底にはすべて、リベラルな価値観が息づいていると感じた。リベラルという単語は現在、とても多義的になっているが、冷笑的でも露悪的でも商業主義的でもない、ラヴ&リスペクトを重んじる姿勢といえばいいのか、とにかくそういう誠実で自由な空気があった。それが何より心地よかった。
本当にナイスなお店
到底網羅しきれるわけもないが、いくつか印象に残ったブースについて書く。
まずは札幌のセレクトショップ「OVEN UNIVERSE」である。ちなみに去年、サイン会をやらせてもらったのもここだ。身内ノリのエコ贔屓ではなく、このお店は本当に凄い。店主の有田は大変な目利きであり、ピュアな好奇心と軽妙なユーモア感覚が存分に発揮されたオリジナルなセレクトっぷりはとてもすばらしいのだが、そればかりではなく、彼は制作にも携わる。
仕入れを通して親しくなったというアメリカのアーティスト、カラテマンの新作ZINEを見せてもらったのだが、これは彼がリトグラフを手がけたものだそうで、一見トボけた、だがどこかにねじれた闇を感じさせるポップなイラストと印刷の質感がかなりマッチングしていて、かなり目をひかれた。繰り返すが、身内ノリのエコ贔屓ではなく、インディペンデント精神を持ったナイスな店だと思う。
それから「FancyshopDrivein」も面白かった。置かれているのは主に写真集だが、いずれもアーティストのアウトテイクスやボツ作品をコンパイルしたものだそうで、独特のあたたかみを感じた。
あとは「LEE KAN KYO&Lee man studio girls」だろうか。LEE KAN KYOは去年発表した作品集も話題になった台湾人アーティストなのだが、スーパーや薬局のチラシをそのまま直筆で描き出すというような作風で、実際にナマで見ると「こんなん面白いに決まってんじゃん」としか言いようがない。この手があったか! と爆笑してしまうような、胸がすく痛快感がある。写真は撮り損ねてしまったのだけれども、これはぜひ、万難を廃して拝見されたし。
充実の展覧会
運営が企画した展覧会も見どころのひとつ。ヨーゼフ・ボイス、アーノルフ・ライナー、フルクサスを中心に現代アート作品をコレクションしていた「清里現代美術館」のアーカイブはユニーク極まりないし、自身のコンビニエンスストアをコラージュで埋め尽くしたトーマス・コンの作品群のイノセンスさは心が洗われるようだった。
ムーミンの作者、トーベ・ヤンソンを「本を作るアーティスト」として捉え直し、日本との深い関係性なども踏まえて構築された「トーベ・ヤンソンの視点」展も、小規模ながらとてもハートウォーミングなものだった。講談社の編集者に宛てて書かれたヤンソン直筆の手紙などは、涙ぐむようなやさしさを感じた。
いくら時間と予算があっても足りねえよ
ツラツラと書いたが、本イベントの魅力は到底、レビューしきれるものではない。僕が会場にいたのは2時間ほどだったが、まったく、ぜんぜん、味わいきれなかった。楽しみ尽くすには、時間も、予算も、たっぷり必要だろう。そしてそれだけの準備をしていく価値があると、責任をもって断言する。
あれもこれも欲しかったが、財布に千円札1枚きりしか入っていなかった僕が唯一買ったものは、「大和板紙株式会社」ブースの、上質紙セットである。このブースではとても質の良い紙が、かなり良心的な価格で販売されている。こちらもぜひ、立ち寄ってほしい。
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