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戦士の姿に擬人化された日本の刀剣=「刀剣男士」たちが、「時間遡行軍」から歴史を守るため戦うゲーム「刀剣乱舞 ONLINE」が2023年7月、新作歌舞伎になる。公演に先立って会見が開かれ、尾上松也、尾上右近、中村鷹之資、中村莟玉が出席。果たしてどんな舞台が観られるのだろうか?
刀剣乱舞 ONLINEは、史実を交えながら展開する虚実の物語や、剣士たちの美しいビジュアルが人気のゲームだ。2015年にはミュージカル、2016年にはストレートプレイ(演劇の一形態)、2016年と2017年にはアニメ、2019年には実写映画化……と、さまざまなジャンルに派生している人気コンテンツが、新作歌舞伎「刀剣乱舞 月刀剣縁桐(つきのつるぎえにしのきりのは)」として、尾上菊之丞と尾上松也の演出で新たな姿を表す。
登場する刀剣男子は、松也演じる三日月宗近、尾上右近扮する小狐丸(足利義輝と2役)、中村鷹之資の同田貫正国(松永久直と2役)、中村莟玉の髭切(義輝妹紅梅姫と2役)、上村吉太朗の膝丸、河合雪之丞の小烏丸の6人。このほか、大谷龍生、中村歌女之丞、大谷桂三、中村梅玉らが、舞台を引き締める。
「『刀剣乱舞』は派生したメディアミックス全てが基本的にはオリジナルのストーリーなのも面白い」と松也が指摘する通り、今回の歌舞伎版でも独自の物語が展開。今回、時代背景として選ばれたのは、室町幕府13代将軍足利義輝が、三好義継、松永久通らに京都二条御所で襲撃され、殺害された「永禄の変」だ。
松也は、まず三日月宗近を中心に据える中、義輝がその最初の持ち主だった可能性があることから、永禄の変に注目したという。足利義輝は剣術の達人で、名刀を多く所持する中に宗近があったといわれる。
「義輝と宗近のクライマックスから着想をふくらませ、歌舞伎に関わりのある刀剣を、ということで、髭切、膝丸、小狐丸といったキャラクターが決まっていきました。そんな中、男らしいキャラクターが欲しくて、(ほかのキャラクターとは少し時代が違う)同田貫正国の起用という、トリッキーなサプライスも生まれました」(松也)
あらすじは以下の通り。 次期将軍である足利菊幢丸と妹の紅梅姫の命を奪おうと、時間遡行軍が襲い掛かるが、三日月宗近ら刀剣男士がこれを阻止する。やがて松永弾正の助力もあって菊幢丸は元服し、足利義輝を名乗って将軍となるが、魔物に取り憑かれてしまう。弾正の嫡男の松永久直はそんな義輝を諫めるが⋯⋯。
名匠・三条宗近が稲荷明神に祈り、現れた狐と共に名剣・小狐丸を打つ「小鍛冶」など、刀剣乱舞に登場する逸話が数多く存在する歌舞伎はもともと、刀剣乱舞の世界とは親和性が高い。一体どのような歌舞伎作品が出来上がるのだろうか?
「ありそうで見たことのなかった『古典歌舞伎』というのが、僕のイメージ。皆さんが想像するような王道の歌舞伎のテイストをふんだんに盛り込みたいと考えています。音楽は邦楽器しか使わず義太夫などを入れるほか、附(つ)け打ちが入ったり立ち回りがあったりと、『ザ・歌舞伎』なニュアンスを込め、生の舞台の良さを表現したいですね」と松也は意気込む。
その松也を、年の近い共演者としてサポートする右近も「ほかの舞台でご一緒した刀剣男士の先輩たちも、今回の歌舞伎化を喜んでくれています。『歌舞伎を念頭に置きながら自分たちもやってきたところがある』『それを歌舞伎役者たちにがっつり歌舞伎でやられたら困っちゃうよ、というような舞台を作ってほしい』と背中を押されました。自分たちも変に寄っていくのではなく、自分たちが知っている歌舞伎の手法、様式を正々堂々と貫いて、向き合っていきたいです」と力強くうなずく。
あくまで歌舞伎として、刀剣乱舞の世界を表現すること。それは、刀剣乱舞ファンにとっても当の歌舞伎俳優にとっても新鮮な体験となりそうだ。 「新作歌舞伎で新しいことをやろうとしても、意外と過去にやっていたりして、僕らの中でも『歌舞伎ってすごいね!』という結論になることが多いんです。今回の場合も、歌舞伎ではもともとこういうやり方があるんですよ、というプレゼンになるのではないでしょうか」と莟玉は語る。
鷹之資も「(今回の装束の)拵(こしら)えをした時、すごくすてきな作品になっていくのではないかと感じました。それは刀剣乱舞の作品の素晴らしさでもあり、古典にもともとある手法の素晴らしさを感じながらどう歌舞伎になっていくか、私自身、楽しみです」と目を輝かせる。 原作の世界を重視しながら工夫を重ねて作り上げたビジュアルについては、ぜひ写真をじっくり観てほしい。
「残すべきは残し、削ぎ落とすところは削ぎ落として、大胆にビジュアルを作りました。作品自体も同じように作っていきたいですね。僕は新作をやる時は常に一度だけのつもりはなく、その後、古典歌舞伎として皆さんに愛され、後輩たちがやりたいと思ってくれるようなものを残したいという思いで臨んでいます。歌舞伎の良さを再認識し、意見を出しながらブラッシュアップして初日を迎えたいです」(松也)
古くて新しい、私たちを引きつけて離さない新作歌舞伎の誕生に期待しよう。
テキスト:高橋彩子
舞踊・演劇ライター。現代劇、伝統芸能、バレエ・ダンス、 ミュージカル、オペラなどを中心に取材。『エル・ジャポン』『AERA』『ぴあ』『The Japan Times』や、各種公演パンフレットなどに執筆している。年間観劇数250本以上。第10回日本ダンス評論賞第一席。現在、ウェブマガジン『ONTOMO』で聴覚面から舞台を紹介
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