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大麻ベンチャーArdent Cannabis社CEOインタビュー

大麻菓子などが簡単に作れる「大麻入り食品メーカー」の開発ストーリーを語る

Morgan Olsen
テキスト:
Morgan Olsen
Global Food & Drink Editor
Shanel Lindsay of Ardent Cannabis
Image: Time Out / Ardent Cannabis
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Ardent Cannabis社は、大麻菓子などを簡単に作れる調理機器を発売しているアメリカのベンチャー企業。この会社の最高経営責任者(CEO)兼創業者であるシャネル・リンジーは、自分のライフワークが大麻を中心としたものになると確信した瞬間を覚えている。

当時、彼女は新進気鋭の弁護士として「頂点」にいた。家を買ったばかりで、息子を育てており、キャリアも順調。しかしリンジーはある朝の出勤途中、ささいな交通違反を起こしてしまう。彼女の車を止めた警察は、彼女の財布に大麻の袋を見つけ、その場で逮捕した。彼女が暮らしていたマサチューセッツ州では、大麻がすでに2009年から(軽犯罪として扱うため)非犯罪化されていたにもかかわらずだ。

リンジーは当時を思い出し、こう話してくれた。

「『何かを変えなければならない』と強く思うようになったのは、その時からです。大麻の非犯罪化が進み、さらに合法化が進んでいるように見えても、それが人々にとって公平で、女性や母親、有色人種を守る方法であるとは限らないのです」

教育を受け弁護士として活躍していたリンジーは、体の痛みを和らげるためにその時点で何年も大麻を使用し、自分の権利も知っていた。逮捕時に彼女が所持していた大麻は、1オンス(約28グラム)以下。その時のマサチューセッツ州のルールでは、最高100ドル(約1万900円)の違反切符だけで済む量だった。その後警官の対応は軟化したが、「本当に怖かったです。私の弁護士としてのキャリアが終わる気がしました」と彼女が言うように、この出来事の衝撃はリンジーを動揺させた。

新しい道を切り開く

しかし彼女が感じていたフラストレーションは、最終的にエネルギーに変わった。リンジーは大麻の利用で個人として得られた経験を誇りに思い、自分はその価値を他人に伝えるべきだと確信。勤めていた法律事務所を辞めて独立し、自分のキャリアパスをじっくり考えた。そうして、自分が得意としていた2つの要素である「教える力」と「おいしい大麻入り食品を作る能力」の融合を目標としたのだ。

ただリンジーは一般向けのビジネスをスタートさせる前、自家製の大麻入り食品が効果的であることを確認する必要があると考え、地元のラボで検査を実施。その結果、彼女が大麻入り食品を作るために使っていた調理機器(オーブンやオーブントースター)では、大麻の花に含まれるTHCとCBDが十分に得られないことを知った。すでにたくさんの大麻を無駄にした後だった。

しかしこの時、リンジーは今の仕事に結びつくアイデアをひらめた。彼女は、大麻の生の花をより正確に加熱し活性化(専門用語では、脱炭酸)できる機器を開発すれば、自宅にいながらにしてよりおいしく効果的な大麻入り食品を作れるようになるのではないかと考えたのだ。こうして、ボストンを拠点とする医療用大麻の加工機器を生産するバイオテック企業であり、大麻を摂取する方法に革命を起こしているArdent Cannabis社は誕生した。

同社が初の自社製品『Ardent Nova』をリリースしたのは2016年。開発に費やした歳月は4年で、リンジーはその間、ホームセンターや1ドルショップ、クラフトショップへ何度も通った。

完成した脱炭酸機器は、簡単に大麻の花に含まれるTHCやCBDを活性化すること、それらの成分をホームベーカリー用バターやオイルに含ませることを可能にした。リンジーによると、「何から何まで非常に簡単できるようにする」というのが基本のアイデアだったようだ。

THCとCBDを最大限に活性化し、大麻を無駄にしない独創的な包括型加熱システムについて、また機器の中で起こっている全てのことについて、リンジーはいつでも喜んで説明してくれる。しかし、彼女の商品を手にしたユーザーはそんなことを気にせずに、文字通りボタンを押すだけでいい。

リンジーが、家で大麻入り食品を簡単に作れるようにしたことについて、次のような表現をしている。「私は、普通の料理と同じように考えました。レストランで食べるばかりが料理ではないのです。家庭で生きていくために、家でどう食事を作ればいいかは誰もが知っているべきではないでしょうか」 

大麻菓子の簡単クッキング

『Ardent Nova』の成功を受けて、リンジーは2020年3月、大麻を使った焼き菓子などが簡単に作れる『Ardent FX』をリリースした。ちょうど新型コロナウイルスが人々に「ステイホーム」を強いていた頃だ。彼女は自信の使命をさらに一歩進め、大麻入り食品作りに必要な脱炭酸、抽出、注入、溶解、ベイキングの全てを一つの機器で行うことができるポータブルな「大麻入り食品メーカー」を作り出した。この機器は無臭で可動するため、家全体に臭いを振りまくこともないという。

リンジーはこの製品のリリースについて「私たちは、食品、大麻、利便性の全てを融合させて、人々に受け入れてもらおうとしたのです」と振り返っている。

またArdent Cannabis社では、オーブン不要であっという間にブラウニーやライスクリスピーから、朝食向けケーキやトリュフカップまで作れる、自社製素材キットも豊富にラインアップした。

『Ardent Nova』と『Ardent FX』はどちらも紫色のスマートなデザインが際立っていて、「大麻調理機器」などとは一切書かれていない。リンジーは、炊飯器や鍋などほかのキッチンアイテムと調和するような、美しさと控えめさを兼ね備えたブランドであることが重要だと言う。

 「昔、大麻に関わる人たちはステレオタイプのイメージが常にありました。私がいつも家庭のテーブルに届けたいと思っていたのは、私にとっての大麻を体現するものです。それは洗練されていて、モダンで美しいものなのです」 

控えめなデザインに比べ、リンジーは自分と彼女のチームが長年にわたって行ってきた研究については、声を大にして伝えたいと考えている。Ardent Cannabis社のウェブサイトには、ユーザーが大麻入りのバターを作ったり、焼き菓子を作ったりする時に役に立つ、分かりやすく親しみやすい情報が満載されている。ラッパーの2チェインズが出演している教育的アプリーチの動画は、同社製品のコンセプトをより明確に伝えているといえるだろう。

「科学はうそをつきません。そして、それまで活性化に用いていた手段の半量の大麻で同じような効果が出せるのは、本当にうそではないのです」と彼女は自社製品に揺るぎない自信を見せている。

全てのことにおける公平性

リンジーは製品開発の傍ら、マサチューセッツ州の大麻法における公平性の規定を維持し、大麻業界における女性や有色人種のための機会を創出するための非営利団体、Equitable Opportunities Nowを共同設立した。

「アフリカ系やヒスパニック系の人々の犯罪化と、これほどまでに本質的に結びついている産業はありません」と彼女は言う。「もし大麻に公平性がないとしたら、アメリカの有色人種に対する不公平な扱いに関して、ほかに正義を貫くためのどんな希望が残されているでしょうか」

リンジーは自分の歩みを振り返り、収益性の高いビジネスを一から築き上げたことを非常に誇りに思っている。しかし、特に白人が多い男性優位の業界に身を置く有色人種の女性として、それは必ずしも容易なことではなかった。会社設立当初は、資金調達に非常に苦戦。ほかの大麻ビジネスは夢物語のようなアイデアでも資金が殺到しているのに、自分の作った実績もある製品はほとんど評価されないということを目の当たりにしたという。

「私はもっと無駄なく、別の方法で会社を成長させなければならなりませんでした。振り返ってみても、不幸中の幸いだなんてことはなかった。というのも、それでうまくいったように見えるけど、実はそうではなかったから。でもその結果、より優れたビジネスオーナーになることを余儀なくされました。間違いを犯す余地もないので、ビジネスをより良く運営することができ、誰よりもクリエーティブにならざるを得なかったです」

彼女はこうした自ら培った自信を、製品のユーザーや未来の起業家にも伝えていきたいと考えているようだ。

「人にとって大麻はとても個人的なことです。我が社における基本理念の一つは『自信』。私たちは大麻にまつわるプロセスを簡単に、楽しく、教育的にするたのツールを提供したいと考えています。それができれば、全面的な勝利だと思うんです

原文はこちら

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