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古代ローマや日本の入浴文化を紹介する展覧会「テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本」が、「パナソニック汐留美術館」で2024年6月9日(日)まで開催中だ。
展示は「序章:テルマエ/古代都市ローマと公共浴場」「第2章:古代ローマの浴場」や「第4章:日本の入浴文化」など5章から構成される。監修には、日本における古代ローマ研究の第一人者である青柳正規と芳賀京子、さらに漫画「テルマエ・ロマエ」で知られるヤマザキマリが協力する。青柳が長年調査に関わってきたイタリア・ナポリにある「ナポリ国立考古学博物館」所蔵の作品が30点以上来日するのが特徴だ。
そもそも「テルマエ(thermae)」とは、カラカラ帝ことルキウス・セプティミウス・バッシアヌス(Lucius Septimius Bassianus)が建設した「カラカラ浴場」(216年)など、狭義には古代ローマの浴場施設を指す。古代ローマの帝政初期には、皇帝は食糧や見せ物などを提供して大衆の人気獲得を図ることが多く、テルマエもその一環であったという。
「第1章:古代ローマ都市のくらし」では、テルマエを取り巻く古代ローマの住環境にまつわる作品や遺物を展示。意外とふっくらとして食べやすそうな「炭化したパン(レプリカ)」や、日本ではほとんど見る機会がない古代ローマのフレスコ画は必見だ。
「ヘタイラ(遊女)のいる饗宴」には当時の宴席の様子が描かれ、リュトン(角の形をした容器)や饗宴(きょうえん)用の食器なども描き込まれている。リュトンも宴席用のモザイクガラスの皿も実際に展示されているので、併せて観ておきたい。
続く2つの章では、テルマエの実情が細部にわたって解き明かされる。
第2章では、入浴時に肌をかいたりマッサージに使用したりしたストリギリスや、体に湯をかけるパテラ(小皿)、オイルを塗布する香油つぼなどが並び、行き届いた入浴事情を垣間見ることができる。
テルマエのルーツの一つは、神域に設けられた医療用の入浴施設。そうしたルーツを反映するように、当時の人々が奉納した手足の模型や浮き彫り彫刻が並ぶ。現代の私たちが神社に奉納している、治したい部位をかたどった模型と思わず重ねてしまう。
「2-3 女性たちの装い」では、「化粧用スパチュラ(ヘラ)」や鏡などのほか、「国立西洋美術館」所蔵の「橋本コレクション」から古代ローマの指輪を大量に展示。アスリートの肖像など、テルマエにまつわる指輪もある。それぞれがとても小さく繊細なので、じっくりと時間をかけて眺めてほしい。
テルマエの装飾には、水に強いモザイクが好んで使われた。「第3章:テルマエと美術」の会場では、こうしたモザイクの床などを再現。当時のテルマエに飾られていたであろう、愛や美をつかさどる神々の彫像などを紹介している。右手で胸を、布をつまんだ左手では恥部を隠すしぐさをする「恥じらいのヴィーナス」と呼ばれるタイプの彫像は、ヘレニズム時代からローマ時代にかけて数多く制作されたという。
テルマエには、古代ギリシャの有名な作品のコピーも飾られたというが、本展覧会監修者の芳賀は、こうした彫像のコピーに関する研究成果も発表している。単なる再現ではなく、監修者の関心が反映されているのかもしれない。
掉尾(ちょうび)を飾るのは、日本の入浴文化を紹介する第4章。戦国時代から現代までの入浴に関する資料を概観している。特に近現代の資料は見応え抜群だ。昭和30年代からの「ケロリン」桶の変遷や、町田忍が制作した「明神湯」の緻密なジオラマは、思わず見入ってしまう。
現在も使われている「花王石鹸」の19世紀の実物は、ポンペイの遺跡と同じくらい良好な保存状態。見ていると、古代ローマに似た、親しさと距離感とを感じてしまう。
さらに、会期中は東京都浴場組合との協力でスタンプラリーを実施。同組合加盟の約450軒(2023年5月現在)の銭湯の中から2軒を巡ってスタンプを集めた後、展覧会を鑑賞するとオリジナルグッズがもらえる。詳細は公式ウェブサイトを参照してほしい。
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