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渋谷区・神宮前にある「トランクホテル キャットストリート」展示スペースで2023年11月15日から開催されている、タトゥーアーティストやグラフィックデザイナーとして活動するTAPPEIのライヴタトゥーイベント「TAPPEI ART SHOW “INK,NEEDLE,HUMAN“」に行ってきた。
TAPPEIはそのオリジナリティーあふれるスタイルが高く評価されており、ナイキやアンダーカバーといったブランドとのコラボレーションや、雑誌「EYESCREAM」での4コマ漫画の連載、渋谷パルコで個展を開催するなど、現在あらゆるシーンから注目を集めている気鋭のアーティストである。
3日間(17日まで)にわたって行われている本イベントは、毎日16時から21時まで、1人のモデルの背中にタトゥーを掘りつづけ、それをTAPPEIの頭部に取り付けられたアクションカメラによって撮影し、その映像をリアルタイムでプロジェクターで映し出すというものだ。
僕が訪れたのは初日の18時前、つまり施術が開始されてわずか2時間足らずというところであったが、もう下絵はすべて終わっていて、筋彫りも20パーセントほど進行していた。
タトゥーのことは詳しくないが、少なくともライヴイベントとして十分に成立するスピード感ではないだろうか。タトゥーアーティストの友人がいるので、タトゥーを彫られている光景というのは世間平均と比して見慣れている方だと思うのだが、やはり彫られてゆくさまというのはシンプルに画としてカッコいいし、とても面白い。
針が皮膚に触れたときのヴァイブレーションや、ゴム手袋をはめた両手のせわしないタッチ、職人的霊感、背骨の隆起や関節の微動、機材やワセリン、ひそやかな呼吸、期待をはらむ緊張感など、どれをとっても「現場」でしか味わえない独特の質感がある。
何か悪いことをしているときのような、息をひそめてドキドキする感覚。壁面に大写しにされたTAPPEI本人の視界と手さばきから、その静かで深い集中力が伝播してゆくようだ。
近年はこうしたイベントというのは珍しくなくなってきているそうだが、集中力を共有するようなその感覚はなかなか刺激的なもので、会場にいた10人ほどの観客も固唾(かたず)をのんでそれを凝視していた。施術されているスキンヘッドのモデルは、何やら小説を読みふけっており、このなかなか異様な環境においてひとりだけ完全にリラクシンしていて、それも含めて面白かった。
ポップなサイケデリック風味とサグなストリート感覚、そしてシニカルなユーモアセンスが渾然一体となった、アメリカのアンダーグラウンドコミックのような彼の作風は、一言で、ひじょうに「かわいったらしい」ものであり、ともすればソレは「ヘタウマ」とも称されるのかもしれないが、そのバランス感覚はとてもすぐれている。会場の壁面におそらく油性ペンの一発描きでえがかれたであろうグラフィティを見ればそれがすぐに分かる。
さまざまなキャラクターやアイテムが随所にちりばめられているが、そのアンサンブルが実に絶妙なのだ。クールにヨレた描線も相まって、視覚的な「ゆらぎ」の快感がある。そうした独特の描線やバランス感覚がドライブするさまを、本イベントではじっくり堪能することができた。
こういうタイプの「おもしろさ」というのは結構なかなか、味わえないモンである。僕は腕組みをしながら、息をひそめて、じいっと、その様子に見入っていたのであった。目の下までびっしりとタトゥーを入れたTAPPEIの仕事風景は、すげえクールだった。
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