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田名網敬一×赤塚不二夫コラボ展に行ったのだ

山塚リキマルの東京散歩#1:渋谷パルコで開催中の「TANAAMI!! AKATSUKA!! That‘s All Right!!」を訪問

Mari Hiratsuka
Rikimaru Yamatsuka
編集:
Mari Hiratsuka
テキスト::
Rikimaru Yamatsuka
田名網敬一
Photo: Keisuke Tanigawa個展「TANAAMI!! AKATSUKA!! That‘s all Right!!」にて
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往々にして、長いキャリアを持つアーティストというのは、歳を重ねるにつれ次第に削ぎ落とされた作風になってゆくものだ。たとえば画家なら色数やモチーフが少なくなってゆくし、音楽家ならば音数やデシベル数が絞られてゆく。まして、派手でラディカルな作風で世に出た芸術家が、そのスタイルを長年にわたり保持し続けるということは非常にまれである。

だが、田名網敬一はそんな「ゲージュツのオヤクソク」には当てはまらない。歳を重ねるにつれその作風はより強烈に、より奔逸(ほんいつ)的な方向にエスカレートしている。そんな現役バリバリの田名網のNOWが、本展「TANAAMI!! AKATSUKA!! That‘s All Right!!」である。

TANAAMI!! AKATSUKA!! That‘s all Right!!
Photo: Keisuke Tanigawa展示風景

近年、「アディダス」「ステューシー」「GENERATIONS from EXILE TRIBE」「八代亜紀」といった異色のコラボレートで話題をかっさらっている田名網が今回タッグを組んだのは、なんとギャグ漫画家のレジェンドにしてバカ田大学名誉理事長の赤塚不二夫である。生前、親交を持ちながらも深い関係性を築けなかった2人が、令和の世にマンを辞して放つ初のコラボレーション。果たしてどのようなものになるのか期待に胸を膨らませて向かったワケだが、まったくすごかった。場内に渦巻くエネルギーレヴェルの高さが。

TANAAMI!! AKATSUKA!! That‘s all Right!!
Photo: Keisuke Tanigawa展示風景

140×100センチメートルのカンヴァスが20数点も並び、赤塚作品のオノマトペをカラませたネオン作品や、赤塚コンセプチュアル&ポップアート期の絶頂に当たる第3期天才バカボンの「整形手術の熊さんなのだ」を引用したインスタレーションなど、どれもこれもが過剰なまでにエネルギーを放射している。

かつて、ロックシンガーの甲本ヒロトは『ポップとは向こうから捕まえに来るもの』と言ったがまさしくそんな具合で、場内に足を踏み入れた瞬間、あらゆる作品が四方八方からこちらへつかみかかってくるのである。そりゃあもう、ハガイジメのシッチャカメッチャカだ。「ポップ」がはらむこうした暴力性において、田名網と赤塚は完全に共鳴していると思う。 

TANAAMI!! AKATSUKA!! That‘s all Right!!
Photo: Keisuke Tanigawa展示風景

作品は全て赤塚の原画をモチーフに据えて制作されているが、サンプリングソースはそれだけにとどまらない。コロナ禍において田名網が模写し続けたピカソ作品や、田名網の原体験である「パルプ・マガジン」から切り抜いたイラストレーションなどもコラージュされている。田名網は自身の創作動機は記憶に従っているとし、自作は全て記憶のコラージュなのだと語っているが、赤塚作品さえも田名網ワールドを構築する「記憶」の中へ取り込んでしまっているのである。

田名網の「記憶」について、ここでもう少し書いてみたい。過去のインタヴューにおいて、自作によく用いられる「サイケデリック」という形容を否定している。田名網の色彩感覚は、たしかに一見サイケデリックアートのソレと似ている。描く人物は軒並み目がドンギマっているので、なおさらそういう風に見られるのかもしれない。その色彩感覚というのは、幻覚剤摂取時の視覚・心的ヴィジョンをスケッチしようと試みた結果である。

TANAAMI!! AKATSUKA!! That‘s all Right!!
Photo: Keisuke Tanigawa

つまり、ドラッグに基づいた表現だ。だが前述した通り、田名網は自身の色彩感覚を記憶に紐づいたものだと語っている。空襲の際に防空壕の真下から見た水槽の金魚や、服地問屋街や日本橋高島屋で見た着物や刺繍糸が、あの極彩色を構築しているのだ。だから田名網はサイケデリックという形容を否定する。しかし、サイケデリックとは本来『自らの内面を見つめる』という意味である。

60年以上にわたり、己の記憶や経験に基づいて制作を続けているその姿勢は、まさに本来の意味でサイケデリックであると思う。現象学ではなく本質的なサイケなのだ。作品ではなく、田名網自身がサイケと言った方がいいかもしれない。『私はドラッグは使わない。私自身がドラッグだからだ』と言ったダリのように。

TANAAMI!! AKATSUKA!! That‘s all Right!!
Photo: Keisuke Tanigawa

「記憶のコラージュ」というコトバを念頭に置いて鑑賞したとき、とりわけ印象深かったのが「焼夷弾の雨」という作品である。そのタイトル通り、爆撃機が焼夷弾を投下する光景を描いた作品なのだが、これがまたハチャメチャにポップなのである。赤塚のオノマトペをふんだんにサンプリングし、あまつさえコーヒーカップの中で溺れるイヤミまでも挿入して、空襲という悲惨を「ポップ」に集約してしまっているのだ。

展示風景
Photo: Keisuke Tanigawa展示風景

焼け跡世代のクリエーターが自身の戦争体験をこんな風に描いた例を、僕はほかに見たことがない。すべてを素材として起用し、ポップへ落とし込む田名網の姿勢は、畏敬を超えてちょっと恐ろしくもある。また、本展で唯一のシリーズものである「採集旅行」4部作も非常に興味深い作品だ。その名の通りコラージュが横溢する作品なのだが、田名網のルーツである米国大衆文化がここでは存分にあしらわれている。

ウォーホルやリキテンスタインが米国大衆文化を再解釈しポップアートというムーヴメントを形成したという歴史をかんがみると、田名網は正しくその系譜に連なるクリエーターなのだなァと思う。  

TANAAMI!! AKATSUKA!! That‘s all Right!!
Photo: Keisuke Tanigawa

筆者は本展を1時間ほどかけて鑑賞したが、作品から放射される膨大なエネルギーには正直疲れた。けれど、胸のすくような気持ちになった。爆音のファズギターをアンプの真ん前で聴きながら踊った後のような快さを覚えた。田名網×赤塚という、アヴァンギャルドとポップを液状化させた希代のクリエイターによるラディカル・アート・セッション、ぜひとも足を運んでみてほしい。

会場に渦巻くおびただしいエネルギーが、アナタの中の何かを啓発するやもしれない。

TANAAMI!! AKATSUKA!! That‘s all Right!!
Photo: Keisuke Tanigawa田名網敬一

追記:鑑賞後、田名網のインタヴューに同席したのだが、赤塚不二夫との出会いを語っている時にタモリのことを『森田君』と呼んでいたのが忘れられない。タモリのことを森田君と呼ぶ日本人は、おそらく田名網以外にいないだろう。つくづくハンパない人である。

TANAAMI!! AKATSUKA!! That‘s All Right!!」は、2023年2月13日(月)まで、渋谷 パルコミュージアムトーキョーで開催中。

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