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今から1世紀余り前、スペインのバルセロナに同地を近代的な大都市に生まれ変わらせることに情熱を注いだ都市計画家、イルデフォンソ・セルダがいた。彼の業績で最も知られているのは19世紀に作られた地区、アシャンプラ(「拡張」の意)の都市計画だろう。中世に作られた城壁内での人口増、それにより常に発生していた疫病を解決するため、彼はグリッド状の区画が連なった広い大通りと長い真っすぐな道が交差する街をデザインした。
実は、ヨーロッパ有数の人口密度を誇る現代のバルセロナも、同じような大規模改革のさなかにある。その改革とは市長のエイダ・コラウがリードする、市街地における自動車専有空間の解放だ。彼女はアシャンプラ地区にある複数のブロック(区画)を束ねて自動車の侵入を制限する「スーパーブロック(superilla)」を設置し、新たにできた空間に広場や緑地を設け、歩行者や自転車が優先されるゾーンを増やしている。
これまでに実現したスーパーブロックは6つあり、それにより3500台分の駐車スペースが消滅した。街全体に「超低排出ゾーン規制」が導入されたこともあり、5年前に比べて、バルセロナでの徒歩や自転車での移動は、はるかに快適になったといえる。
しかし、これはほんの始まりに過ぎない。2022年6月からは第2フェーズが開始され、2030年までにアシャンプラ地区の3つの通りのうち1つの歩行者優先化が完了。将来的には合計21のスーパーブロックが設けられ、周囲200メートに住民がいない「グリーン・ハブ」網が誕生する予定だ。都市計画を担当する副市長のジャネット・サンズは、こうした取り組みによる変化を「自動車が主役からゲストになる」と表現した。
スーパーブロックは自動車関連のロビー活動家からは典型的な激しい批判を受けているが、住民からはおおむね歓迎されている。それは、公衆衛生上の懸念が大きいからだと考えられる。言わずもがな、交通量の多さは市民が吸う空気の質に直結するからだ。
事実、数年前までバルセロナの空気はヨーロッパの中でも悪く、常に欧州連合(EU)や世界保健機関(WHO)の基準値を超えたレベルで汚染されていた。サンズは、19世紀にセルダがバルセロナを健康的な場所にするためにデザインしたグリッド上の区画が、同じ問題のために見直されていることを指摘。「街をより健康的にし、きれいな空気、病気になりにくい環境を作るために設計されたエリアが、市内でも最も汚染されたエリアになってしまったのです」と述べている。
スーパーブロックの成果
スーパーブロックによる空気の改善は明らかだ。例えば、19世紀から続くサン・アントニ市場近くでは、2018年に市内で2番目のスーパーブロックが設立されたが、2年間で同エリアの自動車量は82%、二酸化窒素汚染は33%減少。バルセロナ国際保健研究所の試算によると、市が500のスーパーブロックを作れば、毎年667人の早世を防ぐことができるという。
空気がきれいになり、騒音も減ることで、地中海の生活様式に欠かせない屋外での過ごし方も快適になっている。居住者や配達業者のための例外があるので、道路から完全に車が消えたわけではないが、恩恵は多い。交差点には遊び場、ベンチ、植木鉢、ピクニックテーブルなどが置かれ、周辺のカフェやショップは人通りが増えた。
サン・アントニ市場近くにある、Düal Caféの共同オーナーであるフランチェスカ・パボルッチは、次のように語っている。「市場が目の前にあるので、買い物客のためには歩行者天国の方が都合がいい。スーパーブロックは、特に午後になると、若者や子ども連れの家族によく利用されます。中小のビジネスをしている人にも、近隣住民にとっても、プラスでしかありません」
2020年のロックダウンにより、バルセロナ市民、特に小さなアパートに住む人たちの多くが、初めて車のない街を実体験し、その光景を気に入ったといえるだろう。パリやアムステルダムの役人と同様、コラウはこの普通でない期間を利用して計画を進め、新たに21キロメートルの自転車専用道路と3万平方メートルの歩行者エリアを設置した。
しかしその中でも、市長の野心が足りないという声も聞こえてくる。特に子どもを持つ住民の中に、自動車を全面的に禁止するには至らなかったことで、子どもがより安全に遊べるようにはなってないと残念に思う人がいるのだ。
サンアントニのスーパーブロックの隣に住むパブロ・ペラルタもその一人。3歳の息子がいる彼は「この取り組みのアイデアは素晴らしいものでした。しかし、私やほかの多くの親にとっては、まだやるべきことがたくさんあります。許可された自動車しか入れないはずですが、それを守らない人もいるのです」と率直な気持ちを教えてくれた。
物足りない部分もあるかもしれないが、世界的に見ると、このような急激な変化を遂げている都市はほとんどないだろう。コラウにとってスーパーブロックは、車社会をやめ「セルダの精神を取り戻す」ためもの。それを象徴するように、彼女はセルダが実現できなかった緑地の設置も計画に含んでいる。
彼女は最近、ポストコロナ都市についての会議で、「そう遠くない将来に我々は、聞く人が信じられない、それはないと思う中、自分たちの街が汚染にまみれていたことを語るようになるだろう。それは公共交通機関や映画館、病院での喫煙が許されていたことを思い出すのと同じようなものだ」と述べた。そう考えると、彼女の取り組みはそれほど過激ではないように思える。
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