ニュース

映画史に残るスタントウーマンの軌跡を公開、監督にインタビュー

注目作『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』

Hisato Hayashi
テキスト:
Hisato Hayashi
Editor/Writer
広告

胸のすくようなアクションが繰り広げられる映画は、日常を忘れさせてくれる娯楽の一つ。映画の撮影現場では、カーチェイスや派手な格闘、爆破など危険を伴うシーンの際、スタントパフォーマーと呼ばれる専門の役者たちが出演俳優の代わりに演じている。多くは男性が行うものと認識されているが、実は1910年代のサイレント映画の時代から、女性たちが活躍する職業でもあった。

© STUNTWOMEN THE DOCUMENTARY LLC 2020
© STUNTWOMEN THE DOCUMENTARY LLC 2020

現在公開中の『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』は、製作総指揮を『ワイルド・スピード(2001)』でおなじみの俳優、ミシェル・ロドリゲスが務めたドキュメンタリー映画だ。

ハリウッドで活躍するスタントウーマンたちとその歴史にスポットを当てた内容は、アクション映画ファンをはじめ、フェミニズムの歴史の証言として、さまざまな方面で波紋を呼んでいる。タイムアウト東京では、注目作を監督したエイプリル・ライトにインタビューを行った。 

知られざるスタントウーマンの歴史、本をきっかけに

© STUNTWOMEN THE DOCUMENTARY LLC 2020
© STUNTWOMEN THE DOCUMENTARY LLC 2020

―本作を観て、心も体も強い女性たちが映画の歴史を変えていく姿に胸を打たれました。この映画を撮るきっかけを教えてください。

Stuntwomen: the Untold Hollywood Story(原題)』というスタントウーマンの歴史を書いた本があり、それをアクションドキュメンタリー映画にしたいと考えました。本では2007年までの事が書かれていますが、映画の中では現在までを記録しています。

素晴らしい女性たちの物語を伝えることができたのは本当にラッキーでした。とても刺激を与えてくれる人たちで、直接一人一人に会って話を聞き、彼女たちが闘ってきた歴史を学びました。

―作中では、まず性別や人種を理由にした差別がある中で、スタントウーマンは女優の代役として痩せていなければならない。走りづらいハイヒールや、露出が多い衣装に衝撃防止パッドを着けられず危険なシーンを演じるなどの厳しい側面が描かれています。一番に伝えたかった事実はなんですか?

本作では「女性が求められている容姿」がスタントをより困難なものにし、時には男性以上に危険が伴う事実を伝えています。

また、あるスタントウーマンが海に車で飛び込み、水中で脱出するスタントの話をするシーンがあります。この仕事は危険なため報酬が高いですが、残念ながら女性たちは長い間、こういった報酬の高いスタントをさせてもらえず、技術を磨くことができない時代もありました。

© STUNTWOMEN THE DOCUMENTARY LLC 2020
© STUNTWOMEN THE DOCUMENTARY LLC 2020

そして100年前のサイレント映画の時代には、たくさんの女性たちが危険なスタントを行っていた事実にも触れています。歴史があるにもかかわらず、スタントウーマンたちは長い間見過ごされてきたのです。私はこの映画で、彼女たちは有能で、機会さえあればどんな種類のスタントも、それを成し遂げるためのトレーニングもできるのだと示したかったのです。

―筆者の祖母は子どものころ、「女だから」という理由で自転車に乗ることを禁じられたと話していました。もっと昔の1910年代に、オートバイから走る列車に飛び乗ったり、飛行機からつるされたロープにしがみつくスタントウーマンたちがいたことを知ったら驚くでしょう。この時代のハリウッド映画は、監督にどんな印象を与えましたか?

そうですね、冒頭のサイレント映画でスタントを行う女性たちの映像を紹介するシーンはとても重要です。スタントウーマンたちは、すでに100年前、とてつもないスタントをやっていたのです。「女性にスタントができるのか?」と聞かれた時、私は「絶対にできる。なぜならずっと昔からやっていたのだから」と事実を見せたかったのです。

© STUNTWOMEN THE DOCUMENTARY LLC 2020
© STUNTWOMEN THE DOCUMENTARY LLC 2020

―撮影の中で、一番印象に残っているシーンを教えてください。

ミシェル・ロドリゲスとスタントドライバーのデビー・エヴァンスが、車でドリフトレースをするシーンです。実際に2台の車をチェイスさせたアクションシーンを撮ることができました。

―スタントウーマンたちのリレーションシップをとても尊敬します。映画を観た人々の反応で、印象に残っているエピソードはありますか?

彼女たちは、お互いのことを本当の家族のように思っています。スタントマンのことはブラザー、スタントウーマンのことはシスターと呼んでいます。

最初に本作をスタントウーマンたちに観せた時、私はとても誇らしく思いました。彼女たちは「私たちのストーリーを正しく伝えてくれた。これが真実の私たちで、私たちが感じていることだ」と話してくれたのです。

私が作ったのはドキュメンタリー映画ですが、これは彼女たちの人生であり、彼女たちのストーリーそのものです。なので、「これが真実の私たち」と言ってもらえたことが、一番の収穫でした。

―スタントウーマンからアクション監督に転進したメリッサ・スタッブスが伝える、「もっと自分を押し出して、攻撃的にとは言わないけど、ぜひ自信を持って」という言葉は、女性に勇気を与えます。この記事の読者にコメントをお願いします。

本作を観れば、自分たちも夢を追求し、障害を乗り越え、物事を成し遂げられるんだと感じられると思います。

大抵の撮影現場で、特に上のポジションにつくのは男性が多いです。メリッサのこの言葉は、女性としてアグレッシブに主張をするのと同時に、彼女がリーダーである必要性を示しています。

リーダーシップが必要な場所で、自分が思っていることを胸に留めず、かつ他人の気分を害さずに声を出すことは、成功するための鍵となります。長年女性たちが抱えてきた難題ですが、まずは女性が責任を持つポジションを担うことに、男性たちが慣れることでもっと変わっていけるでしょう。

―ありがとうございました。監督が思う、スタントウーマンの活躍が一番最高な映画はなんですか?

今だったら先月公開の『ワンダーウーマン1984』ですね。オープニングの競技シーンの出演者は、全員が女性のスタントです。ガル・ガドットのダブルを担当する方をはじめ、たくさんの女性たちが活躍しているので、スタントウーマンに注目するにはとても良い作品です。 

© STUNTWOMEN THE DOCUMENTARY LLC 2020
© STUNTWOMEN THE DOCUMENTARY LLC 2020

2021年1月8日からTOHOシネマズ シャンテほか全国公開中。

『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』の詳細はこちら

関連記事

1970年代の東映版スパイダーマンのドキュメンタリー番組が配信

ハーモニー・コリンによる7年ぶりの新作が4月に日本公開

ハリウッドが恐怖したベストジャパンホラー映画6選

今こそ観てほしい、日本のLGBT映画5選

社会現象となったカエルのペペの運命を描く映画が3月公開

最新ニュース

    広告