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横浜のバー・スターダストへ行ってきた。 米軍施設「横浜ノースドック」がある瑞穂ふ頭の入り口付近に位置する、1954年創業の老舗中の老舗だ。巨大なネオンサインの看板が瞬き、窓の外を見遣ればハマの海と夜景が広がっていて「すげー。わたせせいぞうの世界観じゃん」とか思ってたら、マジで店内にわたせせいぞうが描いたスターダストのイラストがあって驚いた。
さてこのスターダスト、一言でいってしまうと「古き良きアメリカ文化」を体現するスーパークールな店なのだが、ここのすごいところはマジで50年代から営業している、という点だ。
1954年創業という「迫力」
50年代の古き良きアメリカ文化を体現する店は、古着に雑貨屋、レストランといろんなジャンルに存在するが、そういう店は大体にして店主が「アメリカン・フィフティーズ」の信奉者である。
所ジョージか高橋ジョージみたいな服装をして、パステルピンクの店内にペプシのブリキ看板やエルヴィスの人形やマリリン・モンローのブロマイドなどを散りばめ、ナイフ型コームで自慢のリーゼントを整えながら「ビートルズはシルバー・ビートルズまでだね」とか言ったりしているのだが、要するにそれらはすべてリスペクトであって、どこまでいっても50年代ふうの域を出ない。
だが同店のように、50年代から存続しているお店というのは「リアル」である。アメリカン・フィフティーズに拘泥していないのだ。若干の修復を加えている程度で、創業当時からほとんど変わっていないという内装はたしかにムチャクチャ雰囲気があるのだが、その一方でカウンターの中に能面が飾ってあったりして、なんというか、すごく自然体である。こんなのは後追いのアメリカン・フィフティーズ信奉者ならば絶対にやらないし、できないだろう。普通にwi-fi飛んでるし。
老舗としての誇り
また、スターダストは多くの映画やドラマ、MV等に登場する「聖地」としても知られている。
たとえばサザンオールスターズが社会性の強い詞を前面に打ち出し、ヒット・ソング多数の80年代作の中でも最も売れたアルバム『NUDE MAN』に収録されている『思い出のスターダスト』はまさにこのバーを歌った楽曲であり、サザン初のMVもここで撮影されている。ほかにも『あぶない刑事』だとか『西部警察』だとかゴールデンボンバーだとか枚挙に暇がないワケだが、それほどまでに時代を超えて幾多のコラヴォレートをしているにも関わらず、そこをことさら全面的に打ち出している印象は受けない。
もちろんサザンの写真などは飾ってあるがそれもほんの数点で、有名人のサイン色紙を壁中に陳列するラーメン屋のようなことはしていない(バーなんだから当たり前だろと言われたらそれっきりですが)。逸話だって山のようにあるだろうに、公式ウェブサイトを見てもそこに対する記述はない。エピソードトークとか記念品とかそういうものに全然頼っていない。こういったスタンスにも老舗のバーとしての誇りを感じる。
創業当時には周りに6軒あったというバーがすべて姿を消し、ヴェトナム戦争やコロナ禍によって何度も苦境に立たされながらも、いまだこの店が営業を続けているというのは、夜景が綺麗とか酒がおいしいとかヴィジュアルがフォトジェニックだとか勿論そういう面もあると思うが、いちばんは「誇り」によるところが大きいのではないだろうか。「聖地巡礼」をことさらにフィーチャーせず、かつ多岐にわたるコラヴォレートに対してオープンであるという自然体のスタンスを続けてきたからこそ、スターダストは愛され続けてきたのではないか。
人気カクテル「ヨコハマ」とは?
まあまあ、長々と能書きを垂れたけども、せっかくバーに来たのだから一杯いただくことにした。100種類以上あるカクテルの中でどれが人気なのか尋ねると『ヨコハマ』という答えがかえってきた。ヨコハマは日本の地名がついた数少ないカクテルのひとつだそうで、「バンブー」「ミリオンダラー」「チェリーブロッサム」と並んで横浜4大カクテルと言われているらしい。それならばということでヨコハマをオーダーしてみた。
カクテルとカクテキの区別もままならないほどの酒音痴である僕がどーのこーの言うのもアレだと思うが、すごくおいしかった。超飲みやすい。オレンジとザクロによるフルーティーで控えめな甘さと、ほのかに感じるアニスのスパイシーな香りが絶妙である。
良い酒場には良い音楽が流れていなければならない(本当かね)
最後に、店内でもビンビンに雰囲気を放っている年代物のジュークボックスをチェックした。世界4大ジュークボックスブランドの一つであるSEEBURG社製のもので、とにかくすげえ音が良かった。太くて暖かくて腹の底に来るサウンドだ。ラインナップを見てみると、『アンチェインド・メロディ』とか『男が女を愛するとき』といったジュークボックス定番のクラシックが並ぶ中、いしだあゆみの『ブルーライト・ヨコハマ』とか藤竜也の『ヨコハマホンキートンクブルース』とか矢沢永吉の『時間よ止まれ』とか、まさにハマといった感じの楽曲もチラホラ。
CKBの横山剣いわく、横浜のバーのジュークボックスには必ず入っているというオーティス・レディングの『ドック・オブ・ザ・ベイ』もあった。横浜っぽ~いなどというバカみたいな戯言をほざきながらしばしハシャいだ。ちなみにマウントされていた楽曲群の中でいちばん新しいものはローリング・ストーンズの『エモーショナル・レスキュー(1980)』であった。
つーワケで読者諸君におかれましては、ハマの香りを嗅ぎに、フィフティーズの空気を味わいに、足を運んでみてはいかがだろーか。いずれにせよ「リアル」であることは僕が保証する。
追記:取材当日、某フィメール・ラッパーがミュージックビデオの撮影をしており、20歳頃に楽曲を良く聴いていた僕は、「うおお、本物じゃんか」。と思ってテンション上がってつい話しかけてしまった。うれしかった。
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