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丸の内のランドマークとして知られている「三菱一号館美術館」。2023年4月から、空調設備の入れ替えや全館LED照明化、壁面と絨毯の色の変更などの修繕工事のため長期休館していたが、2024年11月23日に晴々しいリニューアルオープンを迎えた。
待ちわびた初回の展示を飾るのは、フランスを代表する現代アーティスト、ソフィ・カル(Sophie Calle)と、同館のコレクションの中核を成すアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(Henri de Toulouse-Lautrec)だ。所蔵作品と現代アーティストとの協働である『「不在」―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル』は、2025年1月26日(日)まで開催されている。
カルから提案されたテーマ「不在」
かねて喪失や不在についての考察を行うカルから提案された、本展のテーマ「不在」。カル発案の主題をもって、同館はロートレックのコレクションを構成した。
19世紀に人物そのものに迫る作品を描いたロートレック。テーマに対しては、色彩・線描・形態の不在、女性の存在と男性の不在、あるいは、不在と存在の可視化など、不在という視点を交えて、ポスター32点や主要版画作品などの合計136点の作品群を改めて読み解いている。
カルは、死にまつわる『自伝』や、額装写真の前に垂らされた布をめくると写真が現れる『なぜなら』といった代表的なシリーズをはじめ、ピカソ作品の不在を示す『監禁されたピカソ』、絵画の盗難がきっかけとなったシリーズ『あなたには何が見えますか』、映像作品『海を見る』など、多様な創作活動を紹介している。
ロートレックによって「存在」を記録された友人たち
ロートレックは、生涯にわたって人物画を描き続けた。ダンスホール、キャバレー、サーカスと、自らも大いに娯楽を楽しんだ彼は、パリ・モンマルトルでの歓楽の様子を描いた鮮やかなポスターなどで知られている。常に人間を観察してきた彼によって、その存在を作品に記録されたモデルや友人たちにも注目したい。
その中でも印象的なのが、コメディー要素を持つワニと人物画が出てくるメニューカードである。シンプルに描かれたワニは、ロートレックの死後、そのコレクションを守り抜いた友人であり画商のモーリス・ジョワイヤン(Maurice Joyant)を表している。その存在は何とも愛らしい。
また、ロートレックに代表されるポスターとは異なった印象を持つ、動物たちを描いた作品群も紹介したい。1894年に出版されたジュール・ルナール(Jules Renard)による小説『にんじん』に感銘を受けたロートレックが、ルナールとともに制作した。
それぞれの動物を短文で見事に描写するルナールと、微細なたたずまいを感じさせる生き物の姿を捉えたロートレック。簡潔かつ見事なデッサンから、生き物に対するロートレックの強い関心と優れた観察力が伝わるだろう。ロートレックの作品群からは全体的に、彼の人々と生物全般に対する温かい愛情が伝わってくる。
私的な領域へと誘うカル作品
喪失や不在に関する考察を主な主題として、作品を制作するカル。家族との死別を描き、私的な領域へと鑑賞者を誘う。カルにとってこれらの作品は、死者に語りかけたいのではなく、死や別れと距離を置いて見つめているものだ。耐え難い状況を作品に仕立て上げることで、それを受け止める助けになるという。
また、同館所蔵の19世紀末フランスの画家、オディロン・ルドン(Odilon Redon)による代表作『グラン・ブーケ(大きな花束)』にカルが着想を得て制作した絵画は、初公開となる。ルドンの作品は、限られた期間しか公開されず、それ以外は室内の壁の裏側でひそかに保管されており、カルはこの「不在」に着目した。美術館のスタッフやそこに携わる人々の言葉に耳を傾け、テキストとイメージが交差する自身の『グラン・ブーケ』を完成させたのだ。カルの作品群は大部分が撮影禁止なので、展示空間で作品世界を深く感じ取ってほしい。
最後に、吹き抜けの高い天井が特徴で、クラシックな趣が人気の併設のミュージアムカフェ・バー「Café 1894」も営業を再開。展覧会とのタイアップメニューも提供されるので、鑑賞後にぜひ立ち寄ってほしい。ホリデーシーズンに、三菱一号館美術館で特別な時間を過ごしてみては。
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