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世界的なアーティスト、村上隆による個展「村上隆 もののけ 京都」の開幕まで3カ月を切った2023年11月14日、京都が誇る花街「祇園甲部」の歌舞練場において、同展の記者発表会が大々的に行われた。東京の「森美術館」で開かれた「村上隆の五百羅漢図展」以来、日本国内では実に8年ぶりとなる大規模個展が京都で開催されることを祝すように、同会は京都固有の日本舞踊「京舞」の披露によって幕を開けた。
現代美術展の記者発表会としては異例のオープニングだが、村上は自身の芸術と京舞との間に通底する共通点を指摘する。「ファッションデザイナーのNIGOさんに連れられて、芸姑祇園甲部の(げいこ)や舞妓(まいこ)が京舞を披露する『都をどり』観た時に、いたく感銘を受けました。奥行きのない舞台にもかかわらず深い奥行きを感じさせる舞台は、私の提唱する『スーパーフラット』という概念に通ずるものがあります」
村上自身が企画し、2000〜2001年に日本やアメリカを巡回した展覧会「スーパーフラット」では、日本美術史上のさまざまな時代に現れる平面性の強い表現を、アニメやキャラクター文化などに代表されるポップカルチャーや消費主義と結びつけたことが大きな話題に。毀誉褒貶(きよほうへん)を伴いながらも結果として世界の現代美術シーンに無視できない影響を与えた。本展でも、曾我蕭白や俵屋宗達など、主に江戸時代の京都に縁の深い絵師たちによる作品を、独自に解釈・再構築した新作が多数公開される。
記者会見で村上とともに登壇した「京都市京セラ美術館」事業企画推進室の高橋信也について、村上は「私が監督だとすると、脚本家を務めたのが高橋さん」と話す。1970年代後半から1980年代を通して、日本の先鋭的な文化をけん引したセゾングループの美術系書店「アール・ヴィヴァン」を経て「NADiff」を立ち上げた高橋は、京都生まれということもあり、美術にも京都の歴史にも深い知識を持つ。
そんな高橋から村上に対して、「洛中洛外図」などの京都の美術史における重要なテーマを、いわば「お題」を出されるようにして準備が進められてきた本展において、出品される約170点のうち大部分を占める160点ほどが新作というから、両者の展覧会への意気込みがうかがい知れよう。
日本美術史に対して、村上自身は「狩野派がなくなって以降、観るべきものはほとんどない。というのは、その1枚の絵を観るためのツアー展が海外からオファーされることがない、ということです。私は学生時代からそのことを重く考えてきました」と語る。
「芸術起業論」などの著書でも、世界に対して作品をいかにブランディングしていくかの試行錯誤を説いている村上は、本展でも「ふるさと納税」を利用したチケット販売や、大規模な特設ショップの展開など、作品外の仕掛けにも注力しているという。「この展覧会が成功したら、日本中の美術館がまねするようになる」と、自信を見せた。
そのように集客や売上に目を配る一方で、「私の作品を本当に理解できる人は世界に50人ほどしかいない。そういう、芸術を観る目の肥えた人に恥じないような作品を私は作っている」とも語る。
記者発表会で配られたものの中には、村上版「風神雷神図」の風神と雷神をかたどったアイシングクッキーなども含まれていた。「かつて俵屋宗達の表現を尾形光琳が装飾性の高いデザインとして落とし込んだように、現代において新たなイメージがクッキーとして発表されていることは非常に興味深い」と高橋は言う。
記者発表会の同日、歌舞伎発祥の地ともいわれる四条河原に位置する劇場「南座」では、十三代目市川團十郎の襲名のために村上が原画を手がけた祝幕も披露された。「歌舞伎十八番」と呼ばれる、市川宗家にとって重要な演目18作全てが描き込まれた祝幕の原画も「村上隆 もののけ 京都」展で観ることができる。
「京都市美術館開館90周年記念展」と銘打ち、鳴り物入りで開催される本展は、会期が2024年2月3日(土)〜9月1日(日)と長い。葵祭に祇園祭、五山の送り火と、季節ごとに表情を変える京都の街に合わせて、関連イベントも多数企画中だという。村上による京都がどのようなものになるのか、見届けてほしい。
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