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音楽家の蓮沼執太とNPO法人スローレーベルによる新しいプロジェクト「アースピースィーズ(Earth∞Pieces)」の始動に伴い、スローレーベルの芸術監督・栗栖良依と蓮沼によるオンライントークサロンが2023年12月20日に開催された。「多様性と調和」をうたい、さまざまなパフォーマンスを展開してきたスローレーベルにとっても初となる音楽プロジェクトについて、誕生の背景や2030年までの長期継続を見据えた展望などが語られた。
栗栖といえば、「2020パラリンピック」の開閉会式でステージアドバイザーを務めたことで知られている。多くの人が関わる大舞台で、多種多様な身体的特徴や思考の特性を備えたパフォーマーたちが存分に才能を発揮できるよう尽力した。「障害者だから」「障害者なのに」といったことではない、純粋にパフォーマンスとしての高い評価を得た背景に、「スロームーブメント」などの作品を通して培ってきたスローレーベルの蓄積があったろうことは想像に難くない。
蓮沼の多岐にわたる活動については言わでものことだが、栗栖との接点としては、2020パラリンピック開会式のために楽曲「いきる」を提供している点が挙げられる。「蓮沼執太フィル」としても数多くの人々との演奏を続けているが、「大地の芸術祭」で有名な新潟県十日町市で行われたプロジェクトに栗栖はとりわけ着目した。「そこは、小学校と支援学校、発達支援センターが一つになった珍しい施設です。一人一人が、楽器演奏だけじゃない自由な表現をできる」場になっていたと栗栖は話す。
自身も行政による助成金や「パラリンピック」という大きな後ろ盾がある中で活動を続けてきたことを振り返り、「アクセシビリティとサステナビリティの両立」が難しいと感じたという。「パラリンピックがあって、『パラ』という文脈でアクセシビリティに配慮したイベントは増えました。しかし、多くは助成金に依存していてサステナビリティがない。一方で、収益を上げていて持続性のあるものは、(障害に対する)合理的配慮が行き届いていないことがほとんどです」。既存の構造下での両立は困難だから、と企画したのが今回のプロジェクトだ。
SDGs(Sustainable Development Goals)を引き合いに出しながら、栗栖は「真の多様性」のためにはアクセシビリティとサステナビリティの両立こそが重要とも語った。たしかにSDGsという言葉は、さまざまな社会課題が相互に関連しているということを含意している。SDGsの中のどれか1項目に取り組めばそれでいいということではなく、全てを包括的に改善するのでなければ解決はないということだ。
その意味で、「パラ」という文脈に縛られながらの助成金に依存した活動に行き詰まりを感じたのかもしれない。スローレーベルが2014年から2020年までの3回にわたって取り組んできた「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」についても、開催当初から「3回で終える」と発言してきた裏には、「パラ」という枠組みを取っ払い、全ての人々が同じ土俵で表現することを目指してきたからだろう。
そのような意気込みで始まる本プロジェクトの骨子は、公募によって集まったプレーヤーが蓮沼によるガイドのもと、ベートーベンの「喜びの歌(第九)」をともに演奏するということ。事前の練習などはなく、全員で集まる当日1日限りで合奏を作り上げていくという。技術も経験もばらばらな人々がただ一緒に音を奏でるという喜びとともに、合奏が有機的に変化していくプロセスを楽しめる場となりそうだ。2024年3月16日(土)に開催予定の第1弾に向けて、現在プレーヤーの公募が行われている。企業向けのサポーター枠なども用意されているので、ふるって応募してほしい。
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