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透明なアクリルの椅子にいくつものバラの造花が閉じ込められた「ミス・ブランチ」、建築現場での足場などに用いられるエキスパンドメタルのみを素材として軽やかさを表現した「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」などで、20世紀のデザイン史に大きな足跡を残した伝説的なインテリアデザイナー、倉俣史朗の大規模個展が「世田谷美術館」で開催されている。
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キャリアの絶頂期ともいうべき56歳の若さで倉俣がこの世を去った1991年から30年以上の年月が流れた現在、天才の仕事の数々をまとまった量で観られる本展はとても貴重なものといえよう。
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2013年に埼玉県立近代美術館で開催された展覧会「浮遊するデザイン-倉俣史朗とともに」では、高松次郎などの倉俣と交流があった美術作家や、クラマタデザイン事務所出身のデザイナーによる作品などもあわせて展示。そちらも興味深い内容であったが、今回は純粋に倉俣のみにフォーカスを絞っている点で満足度の高い展覧会となっている。
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展覧会場に足を踏み入れると、まず先述の「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」などとともに、「スターピース」の愛称で知られ、倉俣を代表するイメージの一つとして親しまれている、人造大理石に色とりどりのガラスをちりばめた素材で作られたテーブル「トウキョウ」などが広々と配置されていて、開始早々に贅沢な空間を楽しむことができる。
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大きな窓から砧公園の豊かな緑を望むことのできる同室は、日の移ろいとともに差し込む光の質感も変化していくので、夕暮れ時など異なる時間を狙って何度も訪れてみるのもいいだろう。
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バーやブティックなど、数多くの商業空間でのデザインを手がけた倉俣。なかでも、福岡市のホテル「イル・パラッツォ」はアルド・ロッシ(Aldo Rossi)による設計でも名高いが、4つあったホテルバーのデザインを、倉俣や、倉俣も参加した国際的なデザイナー集団「メンフィス」の中心的メンバーのエットレ・ソットサス(Ettore Sottsass)らが担当したことでも話題を集めた。
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倉俣が手がけたバー「オブローモフ」をはじめ、今はほとんどが失われてしまった内装デザインの数々も、スライド写真で楽しむことができるが、何と言っても本展のクライマックスは「ミス・ブランチ」など、アクリル素材を巧みに使用した作品を多数発表した、最晩年の仕事を紹介する最後の展示室だ。
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カラーアルマイト処理されたアルミパイプとアクリルでできた脚に乗る4点のビー玉がオパールガラスの天板を危うげに支えるテーブル「ブルーシャンパン」や、わずかに着色されたアクリル樹脂のみで構成された姿がまるで光そのものがそのまま形を取ったかのような印象さえ与える「カビネ・ド・キュリオジテ」など、倉俣を代表する作品が一堂に会する様子はまさに圧巻だ。
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56脚しか制作されなかったという「ミス・ブランチ」にいたっては、富山県美術館やアーティゾン美術館が所蔵するものも含め、3点が並んで展示されている。2008年に少しフォルムを変えて発売された「イッセイミヤケ」のための香水瓶は、倉俣の急逝のために生前には実現しなかったプロジェクトだが、その試作品が観られるのもうれしい。
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また、展覧会タイトルに「記憶のなかの小宇宙」とある通り、本展では倉俣自身の「記憶」に光を当て、作品のみならず蔵書やレコードなどのコレクション、手書きのスケッチやスクラップブックなどの資料も多数展示。創作に対する倉俣の姿勢が丁寧に紹介されている点にも注目したい。
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表紙に「言葉 夢 記憶」と書かれたスケッチブックには、倉俣が眠っている間に見た夢の記憶とともに、デザインのアイデアなどがメモされているのが見て取れ、世界にも類を見ない独創的なデザイナーの思考の片鱗を垣間見た気持ちになれるだろう。
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併設するショップでは、ブランド家具を扱うセンプレデザイン社代表の田村昌紀と、ジャーナリストでデザインプロデューサーのジョースズキによるユニット「ギャラリー田村ジョー」によって復刻が進められている倉俣作品のほか、スターピースを模したデザインのトートバッグや、「ミス・ブランチ」のイメージをあしらった一筆箋など、オリジナルグッズも多数販売されている。
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なお、ロビーに設置された「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」も、ギャラリー田村ジョーによる復刻品で、こちらは実際に座ることもできるので、展覧会の記念にぜひ座ってみてほしい。
「倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙展」は、2024年1月28日(日)まで開催する。
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