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日本の現代美術をけん引し続けるアーティスト、大竹伸朗の16年ぶりとなる個展が「東京国立近代美術館」で開催中だ。大竹は1980年代初頭から油絵や彫刻、映像、インスタレーションなど、さまざまな作品を通して表現を試みてきた、日本を代表する現代美術作家の一人。
本展では大竹の最初期から2022年現在までのおよそ55年間にもわたる期間の作品、約500点が展示されている。ここでは、見どころを5つのポイントに絞って紹介しよう。
1. 大竹作品をより深く楽しむための7つのテーマ
本展では、作品をより深く楽しむためにテーマが用意された。「自/他」「記憶」「時間」「移行」「夢/網膜」「層」「音」の7つだ。この言葉は本来は作品の分類のためのものではなく、大竹の思考に常にある概念である。
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複数の概念が緩やかに重なりあい、一つの作品のうちにいくつものテーマが見てとれることも多い。テーマを手がかりに作品の持つ多面性を味わい、大竹の自由な創造をなぞりつつ、気の赴くままに会場を巡ると良いだろう。
2. 東京国立近代美術館が「宇和島駅」と化した?
現在、美術館には「宇和島駅」のネオンサインが取り付けられている。これは、1996年に同駅がリニューアルの際に外されたサインで、それを大竹がもらい受け、自身の手でネオン管を入れて完成させた。夜間には「宇和島駅」の文字にほのかな赤い光がともされる。
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「今回、国立近代美術館と宇和島駅が交差する感じが、これもある種のコラージュなんじゃないかな、って。『宇和島駅』のネオンサインはすでにそこにあるものの典型で、今回の7つのテーマが全部重なっているということに気がつきました」と大竹は語った。
これまでも個展開催の度に会場となる美術館に「宇和島駅」のサインを設置してきた。そうすることで、建物全体がまるで大竹の作品になってしまったかのようにも感じられるのだ。
3. 迷宮をさまようように大竹の思索を巡る
最初の展示室に入るとすぐ、ボブ・ディランに影響を受けて作られた大竹の初めての立体作品「男」が迎えてくれる。ここでは「自/他」として少年期に制作されたコラージュ「『黒い』『紫電改』」や、代表作「ミスター・ピーナッツ」が展示されている。
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そして、道なりに進むと、広場のように開けた空間の中心に「モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像」(2012)が妖艶な光を放ちながら待ち構える。昼に美術館を訪れているのに、一瞬にして夜の世界に紛れ込んでしまったような、そんな気持ちにさせられる異形の作品だ。
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この小屋を囲むようにして、「記憶」「時間」「移行」「夢/網膜」の4つのテーマの作品が並ぶ。
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特に「時間」の展示室の中心に置かれた作品は、強い存在感を放っている。ボロボロに乱れたレコードとプレーヤーのような物体がコードを揺らしながらぎこちなく回転するその様は、哀しいのと同時に、どことなく愛らしくいじらしい。
グロテスクなほどに強烈な物体性、音として記録された記憶の密度、そしてそれらの記憶をたなびかせて流れる時間をも感じさせる作品だ。
4. 圧倒的な熱量のスクラップブックと音楽
展示会場、中盤となるエリアに登場するのは、圧倒的な熱量のスクラップブック。雑誌の切り抜き、木材などの「すでにそこにあるもの」を集め貼り付け、累積させたものだ。最新は71冊目で、なかには重さが30キロに及ぶものもある。
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意味が何層にも重ねられ、呪術的に文脈が織りなされたスクラップブックは、大竹作品の根源的なものだといえる。これらの「記憶の塊」には、大竹の記憶したさまざまな物体がそのままの存在感で保存されている。
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会場終盤の2階では「音」に関わる作品が登場する。1980年代のロンドンでのパフォーマンスや、その大きな契機となったラッセル・ミルズとの出会いと交流について紹介されるほか、ステージそのものを作品化した「ダブ平&ニューシャネル」(1999)が展示。
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バラック小屋のようなステージから奏でられる、ノイズミュージック。視覚、そして聴覚を通して、私たちの感覚を麻痺させるほどの刺激を与えてくれる作品だ。
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5 ポップなグッズは全部ほしくなる? 新作にも注目
大竹は「グッズはそれ自体がまた新たな作品の一つ」だと言う。中でも、白地に金色の文字をあしらった新登場の「ニューシャネル Tシャツ」や、「ジャリおじさん」の新作を用いて作られた絵皿が目を引く。
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ほかにも大竹作品を用いた愛らしい靴下やワッペンシール、ステンレスボトルなどが登場。日々の生活に大竹のユーモアあふれる作品の楽しさをプラスしてみてはどうだろうか。
大竹は記者会見で「いま世界は破壊が続いていますけれど、ものを作り出すパワーを感じてもらえればうれしい。5回くらい来てじっくり見ていただければ」と語った。その言葉通り、強い熱量を感じに何度も訪れたくなる回顧展である。
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