[title]
能登半島地震から1カ月経った2024年2月6日と7日、「青山グランドホテル(THE AOYAMA GRAND HOTEL)」の和食カウンター「シカク(SHIKAKU)」で、2夜限りの震災復興チャリティーディナーが開催された。
石川県のオーベルジュ「オーフ(eaufeu)」のシェフ・糸井章太を中心に、西麻布の紹介制レストラン「ノーコード(NO CODE)」のオーナーシェフ米澤文雄、下北沢の和食と美酒を楽しめるレストラン「サーモン&トラウト(Salmon&Trout)」のシェフ中村拓登、そしてシカクによるコラボレーションコースを楽しめる贅沢な2日間だ。
石川県を中心とした北陸の食材をふんだんに使った料理と、石川県の日本酒やワインのペアリングを楽しめる内容。売り上げは糸井が被災地で行っている炊き出しや、米澤と中村が所属する「Chefs for the Blue」が行う支援活動、そのほかの復興支援に寄付されるという。
石川県小松空港から車で30分、廃校になった小学校の校舎を活用したオーベルジュ「eaufeu」のシェフとして活躍する糸井がイベントの発案者だ。彼は、美しい里山の風景に囲まれた自然豊かな場所で、フランス料理をベースに独自の里山キュイジーヌを届けている。
実はこのエリアは、震災による被害はほとんどなかったという。しかし今石川県に足を運ぶ人、まして石川県のレストランに足を運ぶ人はほとんどいない。場所が無事であっても、客が来ない状況はまだしばらく続くと言えるだろう。
そんな時に糸井は避難所で炊き出しをしながら、ほかにできることとは何かを考え、すぐに友人である米澤に連絡をした。「東京でイベントがしたいです。北陸のために料理がしたいです」米澤はすぐにOKし、持ち前の行動力で今回の会を企画した。元々一緒にイベントをする予定だったという中村も誘い、3人のシェフたちによる、夢の競演がかなったというわけだ。
場所は、米澤がこれまで朝食監修やイベントで何度も仕事をしてきたシカク。さらに、そんなイベントならば、と多くの農家やワインメーカーなどから協賛の手が挙がった。
チャリティーも復興もひととき忘れて、石川の恵みで心も腹も満たす
会が始まると、年長者だからと、米澤が小慣れた開会のあいさつをした後、「メインは糸井シェフなんで」と言ってマイクを渡した。続く糸井は、「何かやらせてくださいという気持ちでヨネさんに連絡しました。ニュースで流れている事実はありますが、それでも自分たちは前に進んでいます。復興とかチャリティーとか言っていますが、今日は元気にやっているということを届けたいんです。食べて飲んで、応援していただけたら」と言って頭を下げた。
そうして3人のシェフとシカクによる4品のアミューズから成る、華やかなひと皿からコースがスタートした。
糸井による能登のメジマグロをシンプルに塩と裏の山から採ってきたという山ワサビで味わう一品、米澤による蕗の薹味噌をアクセントにした鶏肉をシュー生地で挟んだ一品、中村によるキンカンの中にバナナと豆腐のピュレ、上に石川県のしいたけとからし菜を乗せた爽やかな一品、そしてシカクによるあぶりしめ鯖の棒寿司がひと皿に盛り付けられている。
イベントをするにあたっての打ち合わせはなし、4者が自由に料理を決めたという。「皆おいしいものしか出さないから、ちゃんとまとまるんですよ」と米澤は話す。どの料理もアプローチこそ異なるが、どれも爽やかさを感じ、最初のシャンパーニュを飲みながら心地良く楽しむことができた。
いよいよ糸井による前菜から本格的にコースがスタート。艶やかな鰤が隠れるほどに色鮮やかな発酵赤大根と力強い葉が盛り付けられている。ほのかにいしるが香る1品だ。食材を丸ごとを食べられるのは、豊かな自然に囲まれ、その土地と深く向き合って料理をする糸井ならではと言えるだろう。
続く米澤による前菜は、とろびんちょうマグロのタルタルを薄いパイ生地で挟んだひと皿だ。ブラックオリーブのパウダーやアボカドのピューレなどで着飾った料理は、五感で楽しめる。話し上手な米澤のまわりはいつも笑顔が絶えないが、それは料理にも同じことが言えるのだろう。どんな食材、調味料も自由な発想で仲良くさせることのできる天才なのだ。
そして中村によるカブとオーツミルクのすり流しが入ったおわんが続く。中に入っているのはキャベツやごぼうといった食べ慣れた食材だが、爽やかなミントがツンと香り、最後にコショウが味を決めてくれている。一気に体も心も温まった。
シカクによる加賀蓮根と車エビのはさみ揚げでお腹の具合もどんどん盛り上がってきたところで、いよいよ糸井によるイノシシ肉の料理が運ばれた。モモ肉の炭火焼と、カルボナードというフランス料理の手法で作られた黒ビール煮込みだ。小松産の安穏芋の素揚げが添えられている。シカクのデザート、イチゴのマリネと吟醸酒粕のミルクジェラートで締め、大満足のコースだった。
この会がチャリティーだとか復興だとかいうことは忘れ、ひとたび料理が提供されると、おいしい料理とシェフたちとの会話を思い切り楽しむことができた。それはシェフたちも同じだ。終始シェフ同士で楽しそうに話をしながら調理する姿が印象的だった。レストランには、私たちを笑顔にする大きな力がある。
最後に糸井はこう締めくくった。「ぜひ次は石川県で会いましょう。前の石川県よりももっと良くなりますので!」
関連記事
『「一緒に頑張ろうね」、YOSHIKIがピアノ出品し能登の地震被災地に全額寄付』
『能登半島の飲食関係者を支援するチャリティーイベントがNARISAWAで開催』
『「いま金沢に着いた、どうしたらいい?」能登に駆けつける外国人へ金沢のシェフが注意喚起』
東京の最新情報をタイムアウト東京のメールマガジンでチェックしよう。登録はこちら