[title]
渋谷駅に直結した商業ビル「渋谷スクランブルスクエア」の高層階に位置し、渋谷や東京の街並みを一望できる人気の展望施設「SHIBUYA SKY」の46階屋内展望回廊「SKY GALLERY」で、美術家・中﨑透(なかざき・とおる)の新作展「Ding-dong, ding-dong -Bells ringing at the bottom of the valley-」がスタートした。
中﨑透は1976年茨城県水戸市生まれ。武蔵野美術大学大学院造形研究科を経て、現在は地元である水戸市を拠点に活動している。言葉やイメージといった共通認識の中に生じるズレをテーマに、看板をモチーフとした作品をはじめ、パフォーマンス、映像、インスタレーションなど、形式を特定せずに展開する作品で知られる。
2006年末より「Nadegata Instant Party」を結成し、ユニットとしても活動している。2022年には「越後妻有 大地の芸術祭」への参加や「水戸芸術館」での自叙伝的な個展「中﨑透 フィクション・トラベラー」などが評価され、「令和4年度(第73回)芸術選奨新人賞」を受賞したことは、記憶に新しい。
中﨑は近年、その土地にゆかりのある人々に話を聞き、言葉の中から出合ったエピソードを、その場所に残るものや自身の制作物を組み合わせ、土地の歴史や個人的な記憶を編集するように作品にしている。
今回、渋谷という日本の都市部で制作するに当たり、たった数人の話を聞いて渋谷を語ることにおこがましさを感じたともいうが、宇田川町で30年以上続く、日本で唯一と言ってもいいオリジナルベルボトムの専門店「ディーディー(DEE★DEE)」の店主、津田幸英を起点に本展を構想した。
「渋谷は地理的に見て、谷底に位置する街。その谷に長年続くベルボトムの店がある。この展望施設から東京や渋谷を見下ろす中で、足元から地に足をつけて生きる人々の鐘の音が聴こえてくるようなイメージが浮かびました」と中﨑は語る。
インタビューは津田に加え、渋谷駅周辺の大規模再開発に携わってきた渋谷再開発協会の横山和理と、日常を渋谷の街で過ごしてきたモデルの筒井香菜の3人に実施した。
ごく個人的な写真や、エピソードに出てくるものなどをそれぞれから借りるなどして作品へと盛り込みつつ、37のエピソードとともに、絵画や立体、グラフィック、映像、人工知能(AI)が生成した画像まで、多種多様な展示作品が完成した。
中﨑は制作を進めていく中で、「3名ともとても個性的で、悩みながらも自分自身が自分でいることを通している人々」という印象を抱いたという。
「渋谷は昔からカルチャーの街であり、個性的な人々がたくさん集まっている場所だったと思うが、自分が自分らしくあっていい、自分らしくあることを許容するような都市なのかもしれません。屋上から街を見渡したとき、その中で一つ一つのドラマが起こっていることや、自分たちの生活が存在していることに、展覧会を通してイメージを巡らせてもらえたら」と話した。
グラフィックデザイナー長嶋りかこが手がけたキービジュアルにも注目
本展のビジュアルは、グラフィックデザイナーの長嶋りかこが担当した。制作は展示内容がまだ具体的ではない段階から始まったが、中﨑は長嶋との制作プロセスからも「開発が続く動き続ける街」「何かの途中である街」といったキーワードを得て、空間構成や作品の見せ方などにヒントをもらったという。展示と併せて注目してほしい。
時間帯で表情を変える「SHIBUYA SKY」と作品のコラボレーション
取材した展覧会初日は平日だったが、SHIBUYA SKYへの⼊場チケットは、朝の時点ですでに当日21時台まで完売。地上47階にある屋上の展望空間「SKY STAGE」は、世界中から訪れた観光客でにぎわっていた。
中﨑も、本展に取り組むに当たって事前に何度もSHIBUYA SKYを訪れたそうで、「初めて屋上を訪れた時は、この高さで屋根がないという空間が衝撃だった」という。
来場者はまず屋上のSKY STAGEを訪れた後、46階の屋内展望回廊SKY GALLERYへ足を運ぶ導線になっている。作品を通して渋谷の街に生きる個人の物語に触れ、とても興味深そうに眺めたり、写真を撮ったりする光景が何度も見られた。
中﨑も「まず屋上で野外の空気に触れ、東京を一望した後にここへ降りてくることを想像しながら、作品を制作した」そうだ。ミュージアムやアートギャラリーのホワイトキューブとは全く異なり、時間帯によって、空間も作品の印象もがらっと表情を変える場所での鑑賞体験は非常に新鮮だ。ぜひ何度か足を運んで楽しんでみてほしい。
「Ding-dong, ding-dong -Bells ringing at the bottom of the valley-」の会期は3月31日まで。SHIBUYA SKYの入場チケット、もしくは年間パスポートがあれば誰でも鑑賞できる。入場チケットは、公式ウェブサイトから4週間先まで購入が可能だ。まれにキャンセルが出る場合もあるが、特に日没時間の前後や週末は完売している時間帯が多いので、公式ウェブからの事前購入をおすすめする。
関連記事
『取り壊される旧松本市立博物館で最後のイベント、「マツモト建築芸術祭」が今年も開催』
『帝国ホテル二代目本館を設計したフランク・ロイド・ライトの回顧展が汐留で開幕』
『被災を免れた珠洲焼も出品、「薪で焼いた 白と黒のシャープネス」展が銀座で開催』
『落合陽一の最新展「ヌル庵:騒即是寂∽寂即是騒」が麻布台ヒルズで開幕』
『なぜこの場所に? 東村山の小さな商店街に隈研吾建築カフェがオープン』
東京の最新情報をタイムアウト東京のメールマガジンでチェックしよう。登録はこちら