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2023年5月1日、高円寺の古本酒場「コクテイル書房」は、同店に連なる築100年の4軒長屋の一角を改装し、「本の長屋」をオープンさせた。1階には区画ごとに本棚を分け、さまざまな「箱店主」が本を出品する「共有書店」を展開。改装中の2階(2023年初夏に完成予定)には、ギャラリーエリアや読書会などのイベント・交流スペースを設ける予定だ。
個人、法人を問わず1カ月6,000円で本棚を出品できる「箱店主」には、コクテイル書房が培ってきた本の仕入れや販売ノウハウを共有していく。「現役書店員による書店講座」も開催され、選書に興味があれば知識がなくとも参加できる。
また、SNSの発信を行う「広報部」、「箱店主」が寄稿する「本の長屋年報」の発行を担う「出版部」、ギャラリーの展示を担当する「美術部」など5つの部活を設けた。部活があることで自然と交流を生み、企画も醸成されるような仕組みを作ったという。
もともとコクテイル書房は、書店でふるまい酒を始めたことから生まれた古書店兼バー。小説や随筆から着想を得た「文士料理」などのユニークなメニューが揃い、多くの本好きにも長く愛されてきた場所である。
そんな中、オーナーである狩野俊が「街を作るように店を作りたい」という思いから立ち上げたのが、長屋プロジェクトだ。2月から同店オープンのためにスタートしたクラウドファンディングでは多くの支援を獲得し、目標額を上回る317万円を達成した。
個人商店を超える
「後継者がいないと個人商店は続かないというのが通説ですが、僕は店主に依存した店舗ではなく、街のようにさまざまな人が関わり合い、作り上げるシェア型書店のようなものを作りたいと考えていました」(狩野)
狩野は、2022年春に同店の2階で実施した読書会に、年齢や属性、職業に境のない本好きが集まる様子を見て、本を通した交流が先にあれば自然とコミュニティーが醸成されると悟ったという。コクテイル書房と連なる形で建っていた4軒長屋の物件が空くというタイミングが重なり、「新しい空き家を利用し、誰もが気軽に会話できる場を作ろう」と決意した。
集まった「箱店主」は、編集者や絵本コーディネーター、イラストレーター、本好きのサラリーマンなど多様だ。中には小学生も含まれている。
建物の改修はウェブ部の湯地ともきや広報部の安藤誠、管理部の高橋克典が先頭に立ち、「箱店主」たちと協力をしつつ、修繕に励んだ。れんが造りの床は長屋プロジェクトに関わる人々の手作業で一つ一つ作られたものだという。
広報部に所属している安藤は、「ここにはあらゆる文脈の人が集っているので、面白い化学反応が生まれそうな場だと思っています。僕はダンサーやミュージシャンとセッションを楽しむイベントを主催しているんですが、そのつながりを生かし、長屋では文学と音楽を絡めたイベントを開催していけたらうれしいですね」と意気込む。
「部活に参加してみて、広い裁量で物事を任せてもらえる点や自由な発想でアウトプットできるところに魅力を感じました。フレキシブルに企画を実現化できる場なので、僕らがまだ想像もしない長屋の使い方がこれから生まれてくるのではないでしょうか」と管理部の高橋は語る。
今後はゲストに作家の角田光代と「読書室」を主宰する三砂慶明を迎え、多様化する読み書きをテーマに語り合うイベント「読むこと書くこと」を5月20日(土)に開催するほか、改装の過程を展示した写真展や読書会なども随時開催していく予定だ。
世代や職種を超えて本好きが集う「本の長屋」の独特な空気は、これから独自のコミュニティーや全く新しいカルチャーを生み出していくに違いない。2階の完成を心待ちにしつつ、高円寺を訪れた際はぜひ足を運んでみてほしい。
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