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清澄白河の「東京都現代美術館」で、坂本龍一(1952〜2023年)の「坂本龍一 | 音を視る 時を聴く」がスタートした。坂本の先駆的な創作活動をたどる本展は、美術館で展示する日本初の最大規模の個展となる。
「時間とは何か」「音を立体的に展示するとはどういうことか」といった、坂本が長年関心を寄せていた音と時間をテーマに、未発表の新作と代表作から成る10点あまりの没入型・体験型サウンドインスタレーションがダイナミックに構成されている。これまでの美術鑑賞とは異なる体験が待っているだろう。
実験的な創作活動の軌跡をたどる
50年以上にわたる多彩な表現活動を通して、時代の先端を開いてきた坂本。2000年代以降は、さまざまなアーティストと協働し、現代美術を通して音を立体的に設置する試みを行ってきた。
本展では、坂本が生前に共作してきたカールステン・ニコライ(Carsten Nicolai)の映像や、アピチャッポン・ウィーラセタクン(Apichatpong Weerasethakul)との私的な日常が切り取られた映像、「時間とは何か」という問いを『夢十夜』『邯鄲』といった夢の物語で表現した高谷史郎との作品、真鍋大度とのLEDディスプレーなどで構成されている。
水盤に雨を降らせる瞑想的な空間
アーティストグループ、ダムタイプのメンバーでもある高谷とのインスタレーション作品『water state1』では、展示空間に入ると、周辺に大きな石と、中央に黒い水盤が置かれている。特定地域の降水量のデータを抽出した天井の装置からは水滴が落ち、水面には波紋が広がる。波紋の変化は音にも変換され、水と音が共鳴し合う空間は、時間の経過に合わせて照明とともに変わってゆく。
澄んだ黒い水面に水滴を落とす様をじっと見つめていると、思考が静かになり、瞑想(めいそう)のようなクリアな状態になるようだ。
窓をのぞき込み坂本の気配を感じる
ニューヨークを拠点としたアーティストデュオ、Zakkubalanとの協働作品では、暗い部屋の中にスマートフォンやタブレットが窓のように配置。それぞれの画面には、坂本が多くの時間を過ごしたニューヨークのスタジオやリビング、庭などの様子が映像で映されている。本人はそこにいないのだが、風音や夜のキャンドルのともしびも感じられる映像からは、坂本の痕跡や気配を感じ取れるだろう。
一つ一つの窓は、記憶の断片をのぞき込んでるようで、過ぎゆく時のはかなさや尊さについても考えさせられる。
霧と光と音が一体になったスペシャルコラボレーション
屋外の「サンクンガーデン」では、中谷芙二子の霧の彫刻とコラボレーションした幻想的な空間が広がる。外の澄んだ空気の中には霧が舞っている。森から抜け出た後のようで、周囲の鳥の声も響き渡り、冬の気温も心地よい。
坂本の姿で再現された伝説的な演奏
メディアアーティスト・岩井俊雄との『Music Plays Images×Images Play Music』では、1997年のオーストリアのメディアアートの祭典「アルスエレクトロニカ(Ars Electronica)」での坂本の伝説的な演奏を、インスタレーションとしてよみがえらせた。
坂本が実際に演奏したMIDIデータと、その様子を撮影した記録映像データから、岩井が当時のプログラミングを再構築。坂本のMIDIピアノを使用して、坂本自身がそこで演奏しているかのようにパフォーマンスが再現されている。
演奏する坂本の全身の後ろ姿からは、ピアノを奏でる指先までもを垣間見ることができる。椅子に座った後ろ姿が映された演奏音は、非常に感極まるものがあるだろう。
音と時の壮大な物語に包まれるような感覚の本展は、坂本が体験してもらいたいと思ったことがそのまま展示されている。じっくりと、鑑賞してほしい。
なお、会期は2024年12月21日(土)から2025年3月30日(日)まで。チケットは公式ウェブサイトで購入できる。
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