Road Trip To 全感覚祭
Photo:水谷太郎「Road Trip To 全感覚祭」GEZAN

人間が生きていくには祭りが必要だ、「Road Trip To 全感覚祭」

開催10日前にアナウンス、ゲリラ的に行われたGEZANによるフェス

Rikimaru Yamatsuka
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Rikimaru Yamatsuka
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今、日本でもっとも勢いのあるロックバンドの一つ、GEZANおよび、彼らが主宰するレーベルの十三月が企画する野外フェスRoad Trip To 全感覚祭」に行ってきた。2014年から行われてきたこのフェスは文字通り、数々の伝説を作り上げてきたことでも知られている。

その中でも2019年、台風19号の影響によってあえなく中止という憂き目に遭いながら、渋谷のライヴハウスを会場にサーキットイベントとして急遽開催された「SHIBUYA全感覚祭 Human Rebelion」は、本邦の音楽史における革命的出来事として、多くの人々の記憶に刻み込まれたことだろう。

Road Trip To 全感覚祭
Photo:水谷太郎「Road Trip To 全感覚祭」会場の様子

その伝説の夜から、コロナ禍を経て、実に4年ぶりとなった本イベントは、なんと開催10日前に公式アナウンスされるという、まぁ言葉を選ばなければ『いかれてる』ものであり、本当に実現するのか?と思っていたのだが、実現した。それも大成功といってやぶさかではないほどに。無理が通れば道理が引っ込むというが、これほどこの言葉を体現しているバンドを、僕はGEZAN以外に知らない。狂気じみたパッションとすさまじい行動力によって、すべてを「持ってゆく」チカラだ。

Road Trip To 全感覚祭
Photo:水谷太郎「Road Trip To 全感覚祭」会場の様子

これぞパンクだとかDIYだとかインディペンデントだとか言えば解りやすいだろうが、それは解りやすいが故に、目が粗く雑だ。全感覚祭は、そうした言葉では拾い切れない混沌と不条理、爆笑と慟哭、死の匂いと生の爆発、頭蓋骨まで熱くなるようなギリギリの感情の猛りに満ちあふれている。すなわち祭りだ。人間が生きるためには祭りが必要なのだ。

Road Trip To 全感覚祭
Photo:水谷太郎

『Just Do It , Now’s The Time』。どれだけ無茶で無謀でも、彼らは今、何がなんでもこの祭りを遂行したかったのだろう。生きるために、生かし続けるために、そして心から信じるもののために。「でも、やるんだよ!」という、祈りにも似た決意が渦巻いていたあの夜のなかで、僕が見たものについて、忖度なしに述べていこうと思う。

ウケるぐらいの寒さ、やばいぐらいの熱気

2023年11月18日、舞台は川崎「ちどり公園」。工場地帯のド真ん中にある臨海公園で、近年はレイヴなども開催されているスポットだ。「やばいぐらい寒い」と事前に伝え聞いていたのでガチガチに着込んでいったのだが、ウケるぐらい寒かった。

Road Trip To 全感覚祭
Photo:水谷太郎

冷たい海風が吹きすさぶ広大な会場には、トラッククレーンを用いて作られた全感覚ステージ、小箱のライヴハウスのようなセミファイナルジャンキーステージ、テント前に組まれたかちこみステージ、色とりどりの電飾で彩られた祭壇が設置されたSPACE SHIPがあり、それぞれの場所で、絶えることなく異様な熱演が繰り広げられていた。

Road Trip To 全感覚祭
Photo:水谷太郎切腹ピストルズ

ジャズもヒップホップもハードコアもテクノもサイケデリックも、あらゆるジャンルが輪郭をはみ出しながら同居するカオスな無国籍感と、たくましい生命力がみなぎりまくるその様は、ごつごつした剥き身の自由を感じさせる。

本来、100人キャパのライヴハウスでしか体感し得ないはずの、たぎる血の気と汗の匂い、身の危険を感じる緊張感、脳天が爆裂するような衝動がそこかしこに横溢していて、野外フェスとしてシンプルに異常だ。この異常を僕は頼もしく感じた。「全感覚祭って、こういうイヴェントだったよな」と、アタマではなく、肌で思い出した。

マジマジのマジで素晴らしいアクトの数々

どの出演者もマジマジのマジで超良かったので、どれがベストアクトだったとか何がハイライトだったとかいう野暮は言わないが、とりわけ印象に残ったアクトを挙げるならば、やはり、「踊ってばかりの国」は圧巻だった。完全な必然性を持ったトリプルギターによるアンサンブルと、レイドバックする色気にあふれたリズム隊、そしてその音像の中を泳ぐように歌う下津光史の伸びやかな歌声は、うっとりするような、それでいて涙ぐむような芸術的時間を悠々と創造していた。 

Road Trip To 全感覚祭
Photo:水谷太郎踊ってばかりの国・下津光史

レペゼン札幌、GLANSの衝撃も忘れがたい。全曲新曲&パーカッション担当の新メンバーを投入、という気合いの入りようだったが、その演奏に不安定なところは全くなかった。サウンドメイキングの点においてはまだ試行錯誤している感が見られたものの、シームレスかつ大きなうねりを持ったその内容は、まるで巧みなDJプレイのようだ。至るところにアイデアが散りばめられているし、確固たるストーリー性がある。

Road Trip To 全感覚祭
Photo:水谷太郎GLANS

彼らの演奏はシンプルに快感そのもので、とにかくもうムチャクチャ踊れるのだが、とりわけノブヲのドラムは素晴らしい。1970年代のロックやファンクのドラマーのような骨太のアーシーさと、聴き手をわくわくさせるような躍動感がある。時代が違えば「和製ジョン・ボーナム」などと称されたかもしれない、そのぐらい才気に満ちたプレイだ。

Road Trip To 全感覚祭
Photo:水谷太郎

徹頭徹尾『パンク』していたmoreruも印象的だった。彼らが鳴らすドシャメシャのノイズとビートは、不穏さと破壊衝動にあふれていて、自滅的ですらあるのだが、そこには内省とセンチメンタリスムが滲んでいる。破格な演奏の中に、突如として美しいメロディーが、プラモデルのパーツを間違ったところに無理やり接着したようなイビツなかたちで現れる。あらゆるものを憎みながら強烈に愛している。要するに支離滅裂で、つまりはパンク以外の何者でもない。

Road Trip To 全感覚祭
Photo:水谷太郎moreru

その切実な狂乱ぶりには、こんなギリギリの瀬戸際の表現が長続きするわけがない、とすら思ってしまうのだが、だからこそバンドも観客も、この瞬間にすべてを賭けることができるのだろう。セックス・ピストルズがそうであったように。

生きることを肯定するために死ぬ気でもがく

そして深夜2時ごろ、もっとも寒かった時間帯に登場したGEZANは、一言でいって、とても、とても美しかった。彼らのライヴを観るたびにいつも、「これほど本気で生きられるだろうか」と思う。彼らの熱を帯びたむきだしの魂は、あせた感情を呼び覚ましてくれる。この世に生きる喜びや、拳を握りしめる感覚、いなくなってしまった人のほほえみを思い出させてくれる。

Road Trip To 全感覚祭
Photo:水谷太郎

イーグル・タカの爆音ギター、ヤクモの進化目覚ましい才気あふれるベース、ロスカルのパワフルに突き抜けるドラム、各々の人柄がそのまま音像化されたフィジカルな演奏に乗っかる、ドラ猫のようなマヒトのヴォーカルは、決して美声とはいえない。でも、聴いているとどうしようもなく切なくなる。深く揺さぶられて泣きたくなる。心のやらかい場所がキューっとしめつけられる。受肉化した、『いのちがけのことば』をマヒトは発する。

Road Trip To 全感覚祭
Photo:水谷太郎ヴォーカルのマヒト

GEZANは生きることを肯定しようと死ぬ気でもがく。美しい景色に出くわしたときのように、大切な何かにふれたときのように、「この瞬間は永遠なのだな」と思いながら僕は、傷つくように感動していた。本編終了後、謎すぎるタイミングで始まったロスカルの朴訥なMCを切り裂くようになだれこんだ「wasted youth」の、全細胞が沸き立つようなヒリつく痛快さは、これからもきっと折に触れてたびたび思い出すだろう。

Road Trip To 全感覚祭
Photo:水谷太郎

何かが1位だった「やっほー」

そんな感動的な場面から、ノンインターバルで突っ込んできたやっほーのライヴは、なんというかもう、控えめにいっても事故だった。ハードコアな爆音8bitグルーヴが響き渡るなか、脚立の上でもだえながらシャウトするはまいしんたろうは、まるでコロコロコミックの登場人物のようにハジけきっていた。すがすがしいぐらいに狂っていて、本当にマジでかっこよかった。何かが1位だった。『俺、これになりたかったんだわ』と心底思った。

Road Trip To 全感覚祭
Photo:水谷太郎やっほー

音楽はマジでやばい

かようにして僕はひねもす踊り、騒ぎ、笑い、愛し合い、ぶっ飛んで、ぶっ壊れて、最終的に何も分からなくなったころ、全感覚祭は幕を閉じた。怒涛の勢いで過ぎ去ったあの夜、僕が痛感したのは「音楽はやばい」ということだった。なぜ人は、音楽を聴くと踊り出したり、涙ぐんだりするのだろうか。それはまったく明白な事柄のようでいて、でも結局何も分からない。

音楽のなかで、何かを強烈に祈りながら、ついにはそれが何なのか分からないでいる。問いのなかに、私たちはとどまり続ける。そしてきっと、そのことに何よりも意義がある。

Road Trip To 全感覚祭
Photo:水谷太郎SUMMERMAN

覚えておきたいと思う。あの夜のことはなんだって、ぜんぶ。朝焼けの淡いオレンジの光の中で奏でられたHAPPYのセッションの多幸感や、狂乱の渦でも仲裁に奔走していたSUMMERMANのタケシコとTHE GUAYSのキャプテンのハートウォーミングな優しさだって。

Road Trip To 全感覚祭
Photo:水谷太郎

あの夜、僕は本当に幸せだった。幸せで幸せで、果たしてこんなに幸せでいいのかテンパるぐらいだった。もちろんいいのである。いいに決まってんじゃん!!

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