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神保町は、書店をはじめ多くの魅力が詰まった街である。この街の魅力を知ってか知らずか吸い寄せられた人々が店に集まり交流を深め、数多くの化学反応を起こすのが、「無用之用」である。
独特のテーマに沿って選ばれた本とコーヒーや酒類などを楽しめるバーカウンターがある店なのだが、業態を定めず、書店であり、カフェでもあり、バーでもあるとオーナーの片山淳之介は語る。どれでもないがゆえに唯一無二の魅力を持った無用之用が2023年8月4日、神保町でリニューアルオープンを果たした。
同店は2020年に「すぐには役に立たない、不要不急の本を売る店」として開業。コロナ禍の最中、2年間運営を行っていたが一度閉店。とはいえ、神保町に集う人々のハブとして機能し、さまざまな人々の交流が生まれたこの店がなくなってしまうのは惜しいと、片山と共同オーナーの稲垣美帆が客や地域の応援を受け、前店舗から1分ほど歩いた場所に移転し、再開した。
客同士の予期せぬ交流が魅力
売り物として並べられた本に囲まれながら酒を飲み、客同士で気楽に語り合える空間であることが同店の大きな特徴だ。その交流の様子を、片山は「砂場」だと形容した。子どもたちが砂遊びで砂山を作るとき、一人は山を高くし、もう一人はトンネルを掘るようなセッションがここでは起こるというのだ。大人になると見ず知らずの相手と意気投合することはめったにないが、この店では不思議と盛り上がれるのだという。会話を楽しみに来る雰囲気はサロンのようでもある。
場所柄、編集者やライター、デザイナーが多く集まる。互いの素性を明らかにせず好き放題に語り合うので隠れた本音が飛び出すことも多い。そこから、「今までにない書籍を作ろう」と仕事の話につながることもあるそうだ。もちろん書店らしく「とある作家の作品が好き」という話が弾むこともあれば、本と全く関係のない話で持ち切りになるときもあるという。
DIYで作り上げた「本のための空間」
内観の大きな特徴は、もともと歯科医院だった空間を居抜きしているところだろう。店内は大きな2つの空間に分かれており、間にはレントゲン室も残っている。聞けば、かつては「待合室」と「診療室」だったそうだ。
入り口の階段を上ってすぐの元待合室には、雑誌の小見出しのような、読んでみたくなる特徴的なタイトルに沿ってセレクトされた選書棚が並ぶ。
「疲れているけれどわざわざ乗り換えて寄り道する」「あらゆる事象を美しむ事」「知ってる事も、蓋を開ければ殆ど知らない事だらけです」といった具合だ。全くジャンルが違う本でも、通底する要素で選ばれているのである。
この本棚は、店主選のものもあれば、来店客がタイトルを考え、セレクトした棚もある。店主が「この人面白い」と思った人に声をかけて依頼するのだという。
店主ゆかりのメニューを味わう
一方、元「診療室」は主に飲食スペースである。オープンキッチンのカウンターが目を引く。神保町を一望できる大きな窓からは、建て替え中の三省堂の姿を目にすることができる。
ドリンクメニューは、ビールやコーラ、ジンジャエールなどのソーダ類のほか、片山の弟がリンゴ専門店を営んでいることもあり、リンゴ関連のメニューが豊富。中でも、酸っぱいリンゴ酢をミルクで割った「りんご酢ミルク」(600円、以下税込み)が人気だ。
フードは持ち込みできるため、近隣の店を紹介することの方が多いそうだが、簡単なつまみも用意する。「オイルサーディン」(800円)は小型コンロで自分で火の面倒を見ながら食べるキャンプ方式なのが楽しい。
さりげなく置かれた土産用のクッキーもチェックしてみてほしい。「神保町かいわいの人ならピンとくる」地図になっているのだ。
本を購入するだけの利用も、カウンターだけの利用も、どちらも歓迎している。まだ見ぬ意外な本、まだ見ぬ人との遭遇を求めて訪れてみては。
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