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「これらのケーキは、自分が生まれる前から店のショーケースに並んでいるんです」。近江屋洋菓子店の5代目店主、吉田由史明が語った一言にこの店が持つ歴史の重みが詰まっていた。1884年(明治17年)に神田の地で創業した近江屋洋菓子店。3代目が建てたというこのビルも60年間同店を支え続けてきたが、老朽化により一時閉店。約2カ月間の修繕工事ののち、2021年5月24日に晴れてリニューアルオープンを果たした。
真っ青な天井とシックな木壁が印象的な店内は、昭和の時代をそのまま現代に残している。実はこの内装、リニューアル前とほとんど変わっていない。天井や壁面も改装しているのだが、あえて元の印象のままにしているそうだ。
吉田に理由を聞くと、「60年間いろいろなお客さまが来てくださって、中にはこの店の雰囲気が好きだ、と言って通ってくれる方もいます。そうした常連の方々の気持ちを裏切らないように気を配りました」と話す。ただ、改めるべき箇所はしっかり今の時代に合わせてアップデートしており、空調を整え、換気力は数倍になっている。また、厨房(ちゅうぼう)にはカスタードを練る最新機械などを数機導入し、さらなる進化を遂げている最中だ。毎年初夏にかけて発売する人気商品の桃のケーキなどに使用されていく予定とのこと。
ショーケースには「リーズナブルだが、チープではない」という代々受け継がれてきたコンセプトを体現した、シンプルで価格も良心的なケーキやゼリー、焼き菓子、アイスなどが並ぶ。その価格に見合わないほど素材にこだわり、使用する果物は吉田自ら毎朝青果市場に出向いて選んでいる。
定番の人気商品は、フレッシュな旬のフルーツの魅力と、どこか懐かしさを感じる『苺サンドショート』『アップルパイ』『フルーツポンチ』。しかし、見逃すには惜しい新作も多い。今の時期におすすめなのは、2018年ごろから販売を開始したレモンパイだ。100%生のレモンを使うレモンカードとその日の朝に作るメレンゲ、一つ一つ手折りされたパイ生地が特徴で、口に入れた時に瑞々しい香りと酸味、そして鮮度感のあるふんわりとしたメレンゲの食感が絶妙な逸品だ。
「商品作りの際に最も心がけていることは『香り』です。ケーキ箱を開けた瞬間に広がる香りの爆発は、ケーキを食べる喜びの一つ」と吉田は語る。果物を使ったケーキや菓子は、基本的に冷凍品や香料はほとんど使用していない。箱を開けたたら、ぜひフレッシュな果実ならではのかぐわしい香りを吸い込んでみてほしい。また、ケーキのほかに総菜パンも充実しているので、昼食時の利用もいいだろう。
喫茶エリアはドリンクバーとなっており、コップを購入すれば、フレッシュジュースやコーヒー、ホットチョコレート、野菜スープなどを好きなだけ楽しむことができる(現在は、コロナ禍のため営業休止中)。
「今後は、遠方に住んでいるなどなかなか来ることができない人のために、徐々にオンライン販売を強化していきたいです」と吉田は未来への展望を語った。伝統だけに囚われない近江屋洋菓子店は、これからもますますファンが増えていくに違いない。
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