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「記憶」をテーマにした展覧会「記憶:リメンブランス―現代写真・映像の表現から」が、「東京都写真美術館」で2024年6月9日(日)まで開催されている。篠山紀信(しのやま・きしん)と中平卓馬(なかひら・たくま)による「決闘写真論」(1976年)における篠山の示唆を起点としながら、高齢化社会や人工知能(AI)など、「記憶」に対して多彩なアプローチが試みられている。
参加するのは篠山のほかに、米田知子、グエン・チン・ティ(NGUYỄN Trinh Thi)、小田原のどか、村山悟郎、マルヤ・ピリラ(Marja PIRILÄ)、 Satoko Sai + Tomoko Kuraharaだ。
最初に展示されているのは、「決闘写真論」でも扱われている「誕生日」。篠山の母が、彼の誕生日に写真館に連れていって撮影させた写真が並ぶ。当学芸員の関昭郎が指摘するように、「プライベートなものが作品化すると、集団的な母と子の関係に変わる」点が印象的だ。写真家自らによる写真ではなく、自らの記憶(記録)を差し出す始まり方は、ほかではなかなか見られない。
続いて展示される篠山の「家」は、1976年の「ヴェネツィア・ビエンナーレ」出品作で、中平を「こういう写真の在り方もあるのか」と感心させた作品だ。篠山が「人間の生活のにおいや手あか」を捉えようとしたこのシリーズは、一見して忘れ難いすごみがある。
篠山に続く部屋に広がる米田知子の作品は、今回初公開の篠山と比べるとより集合的な記憶を扱う印象がある。
作品に付けられたタイトルの端々から、伊藤博文が暗殺されたハルピンや韓国と北朝鮮の境界である北緯38度線、日露戦争のサハリンなど、かなりの年月を経た歴史上の出来事が示唆される。しかし、作品の多くはとても静かな光に満ちていて、そうした出来事を容易には喚起してこない。俯瞰(ふかん)的な景色は、過去と現在の間に過ぎ去った長い時間をほのめかすようだ。
今回初公開となる「DMZ」シリーズの「(未)完成の風景」も、構図の上では同館所蔵の米田を代表するシリーズ「Between Visible and Invisible」を思い起こさせる。
彫刻や研究など多彩な活動を展開する小田原のどかは、当初は展覧会図録のテキストのみで参加予定であったが、その後、作品の展示もすることになったという。展示は、同館所蔵の作品から小田原が選んだ、作者不詳の写真から構成されている。日本写真黎明(れいめい)期の写真家である上野彦馬の胸像が、第二次世界大戦戦中に失われてから再建に至るまでの写真を扱っている。
展示内容や意図について記載したビラも「持ち帰れる」作品として配布されており、ビラを通して鑑賞者が写真家や小田原と記憶を共有(と喪失)できる。研究者でもある小田原は、配布物や図録中で作品や自身の意図について、丁寧で示唆的な説明をしている。テキストを読んでから展示を見るのもいいだろう。
フィンランドの写真家、マルヤ・ピリラが作陶ユニットのSatoko Sai + Tomoko Kuraharaらと取り組んできた「インナーランドスケープス、トゥルク」は、フィンランドのトゥルクに暮らす9人の高齢者に取材した作品だ。マルヤは屋外の風景を「カメラ・オブスクラ(暗い部屋)」で室内に投影している。
ピリラは、カメラ・オブスクラを用いることで「(室内外の)画像自体がレイヤーを重ね、内と外が重なり」、通常のカメラには実現できない効果を期待できると述べている。担当学芸員によれば、被写体の「潜在的な感情を白日の下に招きだし」て、風景であるとともに内面を写し出したポートレートとしての作品を目指しているという。
Satoko Sai + Tomoko Kuraharaは、ピリラの作品を陶器にプリントした作品を制作。濃淡さまざまなプリントは、それ自体が記憶の不確かさまで写し取るかのようで興味深い。なお、ピリラとSatoko Sai + Tomoko Kuraharaは、中目黒の「ポエティック ・スケープ」で、本展示と並行して4月14日(日)まで展覧会「inner landscapes, other stories」を開催している。
ほかにも、ベトナム人アーティストのグエン・チン・ティによる映像作品や、村山悟郎らによる1000枚のドローイングを一筆一筆記録し、AIに学習させる試みなども見逃せない。
いずれの作品についても言えるのかもしれないが、本展覧会は「記憶」がテーマになっているため、作品の背景を知っているかどうかで見え方も大きく変わる。図録などを熟読してから、改めて展示に足を運ぶのもいいかもしれない。なお、4月21日(日)には、グエンによるアーティストトークも予定されている。詳細は公式ウェブサイトをチェックしてほしい。
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