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ポーラ・オルビスホールディングスが擁する、「化粧文化」に関する調査や研究活動などを行う「ポーラ文化研究所」が、新たな発信拠点である「化粧文化ギャラリー」を開設した。
青山通り沿いに新たに完成した「ポーラ青山ビルディング」の1階に位置し、約半世紀にわたって収集した文化資産と、研究で得た「化粧文化」に関する知見を、書籍の出版や、展示・ワークショップの開催などを通じて広く紹介していくという。
ポーラ・オルビスグループといえば、文化・芸術・デザインを事業発展における重要なものとして位置付け、長年にわたり支援している企業だ。
2002年に箱根・仙石原に開館した「ポーラ美術館」は、クロード・モネ(Claude Monet)の「睡蓮の池」をはじめ、印象派の名作や明治期の洋画、現代アートなど約1万点を収蔵し、国内有数の規模と人気を誇り、海外からの来館者も多いミュージアムである。また、東京・銀座の「ポーラ ミュージアム アネックス」は、国内外の現代作家による展覧会などを幅広く開催していることでも知られる。
そして、ポーラ青山ビルディングにも新進気鋭のアーティスト、SHIMURAbros(シムラブロス)のパブリックアートが恒久設置された。SHIMURAbrosはドイツ・ベルリンを拠点に活動する姉弟ユニットで、現在は世界的アーティストであるオラファー・エリアソン(Olafur Eliasson)のスタジオに研究員として在籍している。
キーワードは「ART&BOOKS」、貴重な収蔵品の数々
1976年に設立されたポーラ文化研究所は、メイクやヘアスタイル、ファッションなど、人々の装い全般を「化粧文化」として捉え、学術的な探求を目的に、国内外の関連資料の収集保存・調査研究・公開普及に取り組んでいる。自社にまつわる内容にとどまらない調査範囲や、いち早く学際的な観点で研究を続けてきた姿勢からは、現在に至るまで先進的な活動であることが分かる。
大きな窓が開放的な明るいギャラリーは、数々の貴重な収蔵品を紹介する展示室と、それに連動したキーワードで膨大な蔵書の中から選書し紹介する書籍コーナーとで構成された「ART&BOOKS」がテーマの空間だ。
展示室では現在、新たなスタートを切ったことにちなみ、「はじまり」をキーワードにした3つのテーマから「化粧文化」を紹介している。
2024年8月30日(金)まで開催される1期「化粧文化研究のはじまり」では、同研究所が設立初期に収集した「橘唐草紋散蒔絵婚礼化粧道具」と、化粧や身支度をする女性たちを描いた江戸時代の浮世絵などを展示。まるで摺(す)りたてかのように鮮やかな色彩が残る作品群からは、化粧道具やファッション、習慣などは大きく変化したものの、美しく装うことへの変わらない思いが伝わってくるようである。
なお、2期「化粧のはじまり」は、9月5日(木)~12月13日(金)に、3期「初化粧」は、12月19日(木)~2025年3月28日(金)に行われる予定だ(各会期中とも一部の作品で展示替えの可能性あり)。
展示と連動し、大きな本棚に選書されているのは、「婚礼」というキーワードから連想した「白」「花」「旅」など、8つのテーマに関する書籍や資料だ。貴重なものも多いが、いずれも自由に手に取り、じっくりと読むことができるのはうれしい。
なお、ギャラリーの展示企画も書籍の選書も、学芸員資格と司書資格の両方を持つ富澤洋子をはじめ、同研究所の研究員が担当している。同ギャラリーならではの、専門性の高いキュレーションと言えるだろう。作品や書籍の情報は、公式ウェブサイトにPDFファイルで公開されているので、併せて目を通してほしい。
充実のレファレンスサービスとデジタルライブラリー
同ギャラリーならではと言えば、オンラインとリアルで実施しているレファレンスサービスについても紹介したい。個人や企業、団体を問わず、誰でも無料で利用できるが、事前の予約が必要だ。調べたり相談したりしたい内容について、富澤を中心としたギャラリーのスタッフが、該当する資料や情報などをあらかじめ集め、準備しておいてくれるという。
レファレンスサービスはこれまで、例えば、卒業論文などの準備や調査に取り組む大学生や、映画・ドラマなどの現場で時代考証に携わる専門家、研究者らが利用することが多かったそう。しかし、興味関心を持った個人でも、専門的かつ貴重な歴史的資料を目にできるのはとても魅力的である。
さらに驚くのは、デジタルミュージアムのサービスだ。これまでに企画・開催してきた数多くの展覧会をオンライン上で再構築し、現在は10の企画展、約1000点ものデータが無料で公開されている。
同研究所は、古代から現代までの化粧道具や装身具、絵画資料、文献など、国内外から収集した約6500点にも及ぶ所蔵品があり、中でも「トルクメンの装身具」や「コックス・コレクション」は、世界的にも希少性の高いコレクションである。今回、サービスのスタートに当たって、一点一点全てを撮り下ろしたという画像の数々は、眺めているだけでも非常に勉強になり、目にも楽しい。
展示や書籍だけではなく、レファレンスサービスやデジタルミュージアムも、無料で利用できることが信じられないほどの充実ぶりだが、いずれも企業としての社会貢献・文化貢献の一環だという。
さまざまな時代のメイクを合成できるアプリなどの体験イベントも
同ギャラリーでは、学術的・専門的なサービスを提供するだけではなく、とても親しみの湧く体験型のプログラムやワークショップも、定期的に開催されている。
筆者が取材時に体験したのが、オリジナルで開発したというユニークなアプリを使ったワークショップ「BEAUTY TRIP」。国内外のさまざまな時代の絵画に描かれた女性のメイクを、撮影した自分の顔写真にデジタル上で合成して楽しめるコンテンツだ。性別や年齢を問わず、とにかく手軽なのに、付けぼくろや繊細なポイントメイクまで滑らかに合成でき、とても楽しめる内容になっている。
このほか、かつて日本女性たちが愛用していた「おしろい」を、最新研究のもと安全な成分で再現し塗布する体験や、繊細かつ貴重なかんざしを忠実に模したサンプルに触れる体験なども実施する。いずれも少人数での開催で、事前予約制(無料)。直近の開催日程は公式ウェブサイトで確認してほしい。
化粧文化ギャラリーの開室は、基本的に毎週木・金曜日の週2日。木曜日はギャラリートークやワークショップ、レファレンスといった予約制のプログラム参加者のみ、金曜日は誰でも予約不要で利用できる。両日とも学芸員やポーラ文化研究所のスタッフが常駐しており、作品や書籍に関する質問や解説にも応じてくれる。
とても身近でありながら、実は意外と知らないことも多く、奥が深くて興味深い「化粧文化」の世界。開かれた同ギャラリーをきっかけに、気軽に親しんでみてほしい。
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